表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/170

第79話:男の娘メイド・サークラちゃん


「マアジちゃん!」


 来る日曜日。文化祭の日。俺は家庭科室でメイド服を受け取って、サヨリ姉に抱きしめられていた。基本的にまだ文化祭は始まっていないので、関係者以外は立ち入り禁止なのだが、その条件もサヨリ姉はクリアしていた。


「じゃあ始めるよー」


 俺はトイレでメイド服に着替えて。もちろんついて来ようとしたサヨリ姉は排除。家庭科室でメイクアップして、教室で待機していたのだが。


「やばば……」


「ちょっと待て」


「あれが佐倉さん?」


「俺の中で新しい扉が開かれていく!」


「待て! そっちは修羅の道だぞ!」


 まぁそうなるよなー、程度の感想では俺の中ではあるんだが。くあ、と欠伸をするとさらに教室が騒めく。そうこうして学校の放送で文化祭のスタートが宣言されて、その後は流れるように客がやってくる。


「サークラちゃんお願いします!」


 お客第一号は言うまでもなくサヨリ姉だ。既に学内待機。他には目もくれず俺の教室の課題に現れる。ちなみにサークラは俺の源氏名。特に意図して付けたわけじゃないが苗字が佐倉なので、もじってサークラ。決してサークルクラッシャーではない。


 サヨリ姉は俺を指名して、


「はわわぁ」


 とか鳴いていた。


「お嬢様。ご注文をお伺いします」


「サークラちゃんをお持ち帰りで!」


 できるか。風営法に違反するわ。


「とりあえず紅茶とクッキーだけ」


 というか他にないんだが。ご注文を伺いしないことは話が先に進まないのだ。


「スカートめくっていい?」


「自重してくださいお嬢様」


「下も履いてるんでしょ」


「履いてるけどさ」


 フロアの裏方がブバッと鼻血を噴出した。


「?」


「いなせな女だね。サークラちゃん」


「お尻を撫でるな」


 コツンと優し目にお盆でサヨリ姉の頭をはたく。


 メイド喫茶そのものは今回の文化祭の内部では珍しい方ではあるが、企画としては二番煎じ感が強い。なので実際のメイド喫茶を期待して来ている客などそういないはず。と思っていたが、客の流れが止まらない。


「サークラちゃんお願いします」


「サークラちゃんで」


「写真撮っていいですか?」


 何かさっきから俺の指名が立て続けだ。


「やーほー」


 そしてついに俺の今着ているメイド服の造り主、織部部長まで来た。ガーリーな可愛さを取り入れたメイド服のデザインは秀逸の一言で、俺としても嬉しくなっている。


「可愛いね」


「ありがとうございます」


「女の当方でもおかしくなりそう」


「ありがとうございます」


「紅茶とクッキーのセットで」


「ありがとうございます」


 もう他に言うことがない。


「スカートの中見ていい?」


「ダメに決まってるでしょ」


「ほら。知的好奇心で」


 セクハラという言葉を御存知かい。


「でも噂になってるっぽいよ。佐倉さんのメイド。ここまでとは当方も予想してなかったけど」


「姉貴がこういう時は頑張るので」


「お姉さん化粧が上手いんだね」


「あそこまで行くと趣味というより創作活動の領域に踏み込んでるけどな」


「せめてスカートの中を」


 却下で。


 だが織部部長が言っていたように、どうにも好奇心は刺激されるらしい。俺のメイドを一目見ようと野次馬が集まり出してきた。


「サークラちゃんって佐倉さんですよね?」


 下着ドロボーで有名なあの、とは言われんでもよくわかる。


「さいですさいです」


「写真撮っていいですか?」


「お断りさせていただいています」


 ニコッと微笑むと、パッと顔を赤らめて男子生徒は視線を背けた。どうにも刺激が強すぎるようだとは俺も思っており。ただだからと言って俺が他に何ができる?


「可愛いです」


「ありがとうございます」


 ニコニコ笑顔で営業スマイルを浮かべる以外に俺に出来ることがない。


「紅茶とクッキーのセットです。どうぞごゆっくり」


 まぁやれと言われれば俺も別に笑顔を見せるくらいはどうでもいいのだが。


「はわわわわわわぁ!」


 そういやコイツも来るんだった。八百イユリ。俺のルームシェア相手というか、入り浸っているアイドル四号。男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと語っていた存在。胸が大きく、御忍びでの参加とはいえ、桃色に光る独特の黒髪は、果たしてバレずに済むのか。


「写真撮らせてください!」


「その前に注文してくれ」


「紅茶とクッキーのセット」


「承りました」


「写真~」


「目に焼き付けろ」


「お姉様ぁ~~~~!」


「ここで百合の領域展開を発動させるな」


「だって尊みがすさまじいデス」


「可愛いだろ?」


 俺が腰をくねらせて、激萌えポーズをとると、イユリが鼻から喀血した。ついでにうちのメイド喫茶に来ていた客が全員鼻から喀血した。何なんだ一体。可愛いことは自負しているが、そこまで鼻血をジェット噴射するほどか。


「拙の目を見て紅茶の混ぜ混ぜしてください」


「では失礼しまして……」


「佐倉マアジ!」


「ん?」


 穏やかにイユリの目を見て紅茶にミルクと砂糖を入れて混ぜ混ぜ。ついでに見つめ合うと素直に紅茶を混ぜ混ぜできない。いやできますけどね。で、一席に座っているイユリと腐女子トークをしながら他の客全員をドン引きさせていると、


「ミスコンに出てくれ!」


「なんで?」


 そもそも女じゃないんだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ