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第73話:ゴシック&ロリータ


「お姉様ー!」


 色々と文化祭の準備が進みつつ。ついでにアイドルの仕事を応援しつつ。俺が家に帰ると、玄関で待っていたイユリが俺に抱き着いた。こういう時は何を言い出されるのか既にそれは悟っている。


「はい! こちら!」


 仕方ないので俺はそれを着る。どこにでもあるゴスロリだ。いや、どこにでもはないが。フリフリのゴスロリを着込んでカチューシャを付けて痛いサークラ女子みたいな恰好をすると、はわわぁと感激するイユリが一人。


「一生ついていきます! お姉様!」


 突撃アンド抱擁。


「はぁ。しゅきぃ。お姉様ぁ。お姉様だったらシンポジウムが股間にあっても許せます」


 まぁ俺が男であることは果たしてイユリにとって最善であるのか。そこから疑問なのだが。


「お姉様ぁ。しゅきぃ。だいしゅきぃ。拙と寝てくださいデス」


「女じゃなくていいのか?」


「おっぱいもありますし」


 ちなみにパッドな。ここまでしないとイユリが納得しない……というのは俺の側から見てどうでもいいことなのだが。


「お姉様のパイオツ~」


 パッドにそこまで入れ込めるイユリが、それはそれで凄いのだが。


「うへへぇ。お姉様~。至福至福~」


「うーん。極まってるぞ」


 一応空気を読んでいるのか。ちょっと遠くから俺とイユリを見ているルイが、少し引いていた。既にイユリが同性愛者で、オメガターカイトのメンバー全員を性的な目で見ていることは知っているが、それで「そっかー。よかったね」とかは言えないらしい。まぁ俺の股間を見て赤くなっていたのだから、そりゃ異性が好きなんだろうけども。俺でいいのか?


「うへへへぇぇ」


 で、腰に抱き着いたイユリはそのままに、俺は全員分の飯を作っていた。


「今日はサヤカはいないのか」


「そういうことなんだけど……」


 イクラとサーモンの親子丼のつもりだが、今日はサヤカの分は要らないらしい。ちなみに既に引っ越しは終わっているのでタマモとサヤカはこのマンションに引っ越してきている。なので何か用事があっても顔くらいは出すだろう。ソレが無いってことは。


「…………今日のミーティングから既に変でした」


「だぞ。追い詰められてた」


 さすがにグループメンバーの心理くらいは読み取れるか。メンバーをよく見ている、と言えればいいのだが、それが故に遠慮して何が起こったのかまでは聞いていないらしい。


「お姉様。今日のご飯は~?」


「鮭とイクラの親子丼」


 とりあえず飯にするか。米を丼によそって、サーモンとイクラを乗せる。その後、マーケットで買った出汁を垂らして出来上がり。


「いただきまーす!」


 合掌。


「うまうま」


 もぐもぐもぐもぐ。やっぱりルイが一番美味しそうに食べる。そんなことが俺には嬉しい。俺の料理を食ってアイドル活動に繋げてくれるなら、俺としても願ったりだ。


『じゃじゃん! 第三問! 世界で一番高い山は……』


『エベレストだぞ!』


『ルイちゃん不正解! 世界で一番高い山はエベレストですが、二番目に高い山は!?』


『知るわけないぞ!』


 ウガーと吠えるテレビの中の黒岩ルイ。ネット番組を撮って、その放送投稿日に俺たちはチャンネルを合わせていた。


「K2」


 で俺があっさり応える。


「知ってるの!? 雷電!」


『答えはK2でしたー! この問題マニアックすぎー!』


 誰も答えられないオメガターカイトのメンバーをいい意味で揶揄いながらお笑い芸人がクイズ番組を進行していく。


「ちなみに三位がカンチェンジュンガな」


 俺はネットクイズ番組オメガターカイトバージョンを見ながらあっさりと回答する。


「マアジ。マアジ」


「惚れたか?」


「詳しすぎて逆に引く」


 むぅ。いいだろ。エベレストばかり持て囃す風潮が俺は嫌いなのだ。カンチェンジュンガはいいぞ。何せ地球教の総本山になるんだからな。


「お姉様は何でも知っているデスね」


「知ってることだけなー」


 ごちそうさまでした。俺は皿洗いに移行。風呂に入るのは基本的に女子から。俺は最後だ。別にこだわりがあるわけでは無くて、単に気兼ねなく入って欲しいという俺の親心。エッチの心は父心。圧せば命の泉湧く。


「そして今日! 乙女は大人の階段を上るんデス!」


「っていうか端的に聞くが、俺のアレを見て引いたりしないのか?」


「可憐なお姉様にアレが付いているという背徳的なインモラルが拙を快楽の園へ送り届けるのデス!」


「お前がそれでいいならいいんだが」


「それでマアジお姉様! 幸せ家族計画は!」


「買ってきたぞ」


「オーーーーーーーーーールライッ! これで乙女の未来は明るいデスね!」


「いや。無理」


「ナゼェ……」


「意識共有のオーバリスト。片中サヤカの夢世界が無いとクツセツはできない」


「そんなものは生でやればいいじゃないデスか!」


「すまんが処女厨の俺としてはアイドルの破瓜は禁忌中の禁忌だ」


「では!」


「サヤカを連れ戻せ。どこに言っているかは知らないが、オメガターカイトのメンバーが困っているならお前らも救いたいだろ?」


「だぞ」


「…………ですね」


「デスデス」


 俺。ルイ。タマモ。イユリ。この四人で事情があるらしいサヤカを問い詰める。ソレが出来て初めてサヤカの心に踏み込める。


 一番! 俺!


『いいからゲロっちまいな。ネタは上がってんだぜ?』


『じゃあそのネタを言ってみてにゃ』


 二番! ルイ!


『悲しい顔は似合わないよ。僕らはそんなに頼りないぞ?』


『まぁ無理にゃ』


 三番! タマモ!


『困ったことがあれば言ってください。力になります』


『その時はよろしくにゃー』


 四番! イユリ!


『おっぱいを大きくするために拙に揉ませるデス!』


『イユリお姉ちゃんはブレないね』


 まったくサヤカが抱えている事情には触れられず終いだった。


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