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第60話:仮縫い


「では次の議題ですけど。皆さんのスマホにアプリをインストールしてもらいます」


 我がクラスの担当教諭は、俺たちにスマホをヒラヒラと見せながら、そんなことを言った。


「?」「?」「?」


 もちろん生徒らはハテナだ。


「ちょっと実験的にスマホの利用効果を上げるためのお達しです。皆さんにアドレスを渡しますので放課後までにインストールしておいてください。授業の管理表と進捗状況をネットで管轄するためのアプリで、生徒のより良い学校生活を実現するためのものですね。ちなみに拒否権はありますが、当アプリをインストールしていないスマホの利用は固く禁じますのでそこら辺はよろしくご自覚あそばせ」


 ってなわけで。俺たちは学内アプリを入れることになった。とはいえ学校のローカルネットワークを使うので、今更拒否する程度のものではないのだが。


 ネットでダウンロードして、本体にインストール。そうして慎ましやかに学業への貢献を目指し……とかいうほど優等生でもないわけだが。


 で、俺は普通に授業を受けて、本日の学業が終わったころに放課後。


 裁縫部の部長……織部氏に言われていたので家庭科室へと向かう。授業以外では立ち寄ったことのない場所だ。帰宅部なので特殊教室に寄る理由が授業以外ではないわけだが。


「あら?」


「あ……」


 で、家庭科室に行くと、手芸部の部員と一緒に何故か角夢杏子がいた。


「佐倉くん……何しに?」


「文化祭の都合。杏子は?」


「文化祭の都合かな」


 別クラスなので杏子のクラスが何をするのかは知らないのだが。


「はーい! お待ち! 佐倉さん! 角夢さん!」


 手芸部の部長、織部氏が現れる。


「佐倉くんは……何か着るんですか?」


「あー……」


 着るんですけど。言い難い。


「メイド服だよー」


 あっさりとバラされる俺の都合。織部部長も悪意では言っていないのはわかるが。


「佐倉くんが……メイド服……むぅ」


 そこで悩まれても。


「可愛く可憐にガーリーに! 当方が目指している佐倉さんのメイドです!」


 で、ノリノリで織部部長は俺に仮縫いをしてくる。型紙は作っているのだろう。それでも仮縫いをするのは、なにかこう意図するところがあるのか。


「ところで杏子は?」


「そのー。ミスコンの衣装を」


 ミスコン。そういうのもあるのか。


 ていうかやる意味あるか? ぶっちぎりで杏子が可愛いだろ。オメガターカイトのアイドルが学内コンテストとかチートバグとかそんなレベルを超えている。そもそも比較される女子が哀れだ。


「ま、当方は可愛い服を着て貰えばそれでいいんだけどね」


「ちなみに衣装って?」


「ピンクのセーラー服!」


 おおう。


「もう角夢氏って金髪碧眼じゃん? 当方的にはどこにラブコメヒロインだよって感じで、セーラー服を着せてみたいのよね」


 気持ちはよくわかる。


「佐倉くんは……見たい?」


「超見たい」


 なので俺は力強くサムズアップ。その俺のメイド服姿を見て、杏子は思念している。


「佐倉くんのクラスの出し物って」


「メイド喫茶」


「ちなみに佐倉くんの勤務時間は?」


「まだ未定」


「わかったら教えてね?」


 そこまでして知りたいか?


「絶対行く」


 だからな。然程か?


「今日はどうだった?」


 とはいえ時間は進むわけで。俺は今日の都合を杏子に聞く。もちろんセンシティブすぎるのでイジメという単語は人前では出さない。だが杏子もそこは察しているのだろう。イジメられているとは意地でも言わないが、俺が心配しているのは配慮してくれる。


「今日は大丈夫だった」


「油断はするなよ」


「警戒してどうにかなりますか?」


 たしかに生産的ではないんだが。それでも人目のつかないところに呼び出されるとか、そんなことにならないように留意する必要はある。


「大丈夫です。問題が起きたら佐倉くんを呼びますから。これは絶対」


「気楽に呼んでくれ。何があっても駆けつける」


「でも明日は大丈夫ですよ」


「何故って聞いていいか?」


「ネット番組の収録がありますので。そもそも登校しません」


 それはルイとタマモからは聞いてないな。というか言わなくてもいいんだが。あるいは今日の夕餉の時に言うのか。


「むぅ」


 なわけで、杏子は明日は登校しない。となると。


「何を悩んでいるので?」


「いや。都合がいいなぁと」


「どういう意味で?」


「明日、どういう理由で休もうか悩んでいた」


 杏子が登校しないなら、たしかに直接的なイジメはないわけで。もちろんロッカー襲撃とか机に落書きとか、間接的なイジメに関しては防ぎようがないのだが。


「まぁそれはいいか」


 警戒して解決するものでもない。


「ふんふん。ちょっと細いね。佐倉さん。これは曲線の描き具合が求められる……」


 織部部長は普通に俺のメイド服を仮縫いしていた。


「俺ってそんなに細いですか?」


「筋肉がついてるから、ちょっとコスプレには向いていなさそうなんだけど、サイズ的にオーバーじゃないんだよね。どうやったらこんな身体になるので?」


 部外秘ということで。


「佐倉さん手芸部に入らない? 色んな衣装を着せたい」


「生憎運針は苦手で」


「あー。モデル専属で。着るだけでいいから」


「残念ながら」


 俺としては放課後は夕食づくりの任務がある。


「そうかー。残念だなー」


 とか言いつつ、針をコネコネ。


「ちなみに当日は大丈夫? こっちに任せてくれたら、色々としてあげるけど」


「あー。姉がとても意欲的でして」


 当日の化粧を買って出るレベル。


「楽しみにしてるから。これでも人を見る目はあるつもり」


「御慧眼恐れ入ります」


 まぁ女装して似合うのは既に知っているのだが。南無三。


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