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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第57話:サヨリ姉のブラコン拗らせ


「くあ……」


 日曜日。俺は今日はのんびりしようと構えていた。杏子の件はサヨリ姉に相談したし、適当に夕御飯の買い出しでもして、ルイ達に食べさせられればそれでいい。


「おわよ~」


「…………おはようございます」


「おはようにゃん……」


 で、一緒のベッドで寝ていた三人も起き上がってくる。アホな夢は見なかったから、おそらくサヤカは自重したのだろう。


「トーストとスープくらいはあるが……どうする?」


「食べゆ~」


「…………いただきます」


「おねがいにゃ~」


 手のかかる娘でも貰ったらこんな感じなんだろうか。カチャカチャと食器を鳴らして朝餉の準備をする。とはいえトーストはトースター。スープはインスタントだ。振る舞ったあと、俺はコーヒーを飲む。一週間ぶりの休日。さて何を……。


「マアジちゃん!」


 ドバンと扉が開いて、そこにサヨリ姉が立っていた。


「サヨリ……姉……?」


「あーん! マアジちゃん! 好き好きチュッチュ!」


 俺のほっぺたにキスをするハイテンションの人物など世界を探してもそういないだろう。


「じゃ、いくよ! マアジちゃん! 時は金なり! タイムイズマネー! 時間はお金で買えるのさ!」


 そして俺の首根っこを掴んで、そのまま引っ張るように俺を外へと連れ出す。


「戸締りはしっかりなぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ……」


 で、俺はさらわれも同然にサヨリ姉に引っ張られて、唖然としているかしまし娘へそれだけ忠告して場から消える。既にマンションには車が止められており、っていうかおそらくこの高級車で俺のマンションまで乗り付けたのだろう。今日はオメガターカイトの会合があるようだし、三人とも出勤はせざるを得ないだろう。夕餉は用意するとして、どうせ昼間は暇なので、サヨリ姉に巻き込まれても支障はない。


「じゃ! 行くよ!」


「どこへ?」


「京都!」


 そのままブロロローと車が発信。大きな駅で降りて、新幹線に乗り換え。まぁ暴風のようなサヨリ姉のテンションに今更ツッコむのも疲れるが。どうして京都へ?


「湯葉が食べたい!」


「湯葉か~」


 となると確かに京都に行くのが正解だろう。距離的な問題はあるが、美味しい湯葉の店は京都に多い。


「でも今から言って席取れるか?」


「大丈夫。マアジちゃんと行きたかったから一昨日予約取ったのよー」


 さいでっかー。


「で」


 京都について、そこからタクシー。湯水のように日本円を消費して訪れた料亭で、そこでもやはり気が狂っているのかという値段の豆乳鍋を注文する。団扇を持った店員さんが鍋奉行でやってくれる。俺とサヨリ姉は出来上がった湯葉を出来た端から食っていった。


「うーん。美味しい。ここの料亭は出汁がいいのよ」


「まぁ否定はしないが」


 ちょっと高級感が溢れているので、プレッシャーは感じるが、それでも湯葉が美味しいことまでは否定できない。


「で、マアジちゃん。お姉さんに言うことがあるんじゃない?」


「……助けてください」


「ん! もう! 素直な子は好きだよー!」


 一応杏子の問題についてはメールで説明してある。


「適当に学校にソーシャルカメラを設置して……その機材と設置交渉をサヨリ姉に頼みたいんだけど」


「でもカメラ付けたらイジメっ子が警戒しない?」


「まぁするだろうな」


 まさか記録映像の中でイジメを敢行するとは思えない。だが牽制にはなるんじゃないか。


「で、さ。考えている……というかこっちの実験の都合でちょっと提案があるんだけど」


 かくかくしかじか。


 そうサヨリ姉は提案する。かなり必要なテクノロジーは大きいが、たしかにイジメっ子を炙り出すにはちょうどいい。ついでに佐倉コーポレーションのセキュリティ部門で言えば技術実験もできるわけだ。


「ただちょっとイリーガル過ぎない?」


 湯葉をモグモグ。


「だから学校側にも説明はするよ。単純にイジメっ子を破滅させればいいんでしょ?」


「特定だけしてくれ。見つかったら俺が説得する」


「だーめ」


「何でよ?」


「マアジちゃんは優しすぎるの。それは時に美徳だけど、マアジちゃんは人の闇をまだ知らない。だからマアジちゃんは知らなくていい。マアジちゃんの毒はお姉ちゃんが取り除くから」


「毒……ね」


 その毒であるのがサヨリ姉なのだが。汗も涎も血液も毒で出来ている。シャワーを浴びるのさえも厳重な注意が必要という具合。もちろん今食っている鍋も結構マズい。鍋は大丈夫だが、湯葉を取り上げている出汁の入った小皿は他の人間が使うと死に至る。箸も同様。だからサヨリ姉は俺にだけハイテンションで接する。俺以外にはそういうことができないから。セックスも出来ないし、キスも出来ない。それこそトイレを使うのさえも細心の注意を必要とする。握手でギリ大丈夫なくらいだ。手汗をかいたらまた話は別になるのだが。


「あと古内院タマモと片中サヤカの部屋を用意……ね」


 あのマンションは佐倉の持ち家なので都合は付くはず。


「貸し一ね」


「えーえー。好きに誓約してください」


 ヒラヒラと手を振る。で豆乳鍋は湯葉から鍋へと変遷する。肉と野菜を投入され、大豆の香りがする出汁で煮詰められ、とても美味しい豆乳鍋へと。


「うーん。美味い」


「マアジちゃんと一緒に食べているから三倍美味しい」


 だったら光栄だな。


「で、ちょっと実験中だけど、このアプリとか試してみない?」


「ナニコレ?」


「角夢杏子ちゃんのスマホに入れておいてね。説明は鍋食いながらしましょ」


 豆乳鍋モグモグ。ああ。美味しい。


「さて、そうすると。お土産でも買って帰るか」


「八橋!」


「俺はウナギとそばだな。帰ったら湯がいてやろう」


「本当に愛されているんだね。オメガターカイトに」


「ルイと。それからタマモにな」


「サヤカちゃんは?」


「あー…………あれは」


「マアジちゃん。何か隠してるでしょ。正直におっしゃい」


「申告してもいいのだが、できれば父者には他言無用で」


「あー……そういう」


 さいです。


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