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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第54話:自業


「私が君のアイドルになる♪ だから君こそ私を愛して♪」


 学校でのこと。俺はネットでアイドル動画を見ていた。オメガターカイトのライブ動画だ。七人のアイドルが跳躍するようにダンスを踊り、軽やかな歌声をメロディに乗せている。その芸術性はとても高く。ついでにとても高貴だ。


「それ。オメガターカイトだよね?」


 俺が一人、教壇前の席で動画を見ていると、そんな声がかかる。


「あ……う……」


 陰キャの俺は学校ではあまり喋ることが多くない。正直な話、放っておいて欲しいくらいだ。


「オメガターカイト好きなの? 誰推し?」


 俺に話しかけてきたのは一人の女子。どこかで見たな、と思った。名前は知らないが。


「ああ、ちょっと話があってさ。佐倉さんに」


「なんで……しょうか?」


「メイド服だけど、どういう色合いが良いとかある? 私が担当だから、そのー色々とね。着る側にもリクエストはあるだろうなーって」


「可愛ければ文句はありませんよ」


「ふむ……」


 それで俺を見やって何か納得するように女子生徒は頷いた。


「じゃあフリフリのロリータ系にするけどいい?」


「構わない」


 別にそれで俺の何かが変わるわけでもない。


「じゃ、楽しみにしててねー。ガーリーなの作るからさ」


 そう言って女子生徒は去っていった。俺はと言えば何と言うべきか。


「ま、いいか」


 そんなわけで昇降口へと向かう。


「…………」


 そこで呆然としている杏子に出会う。


「どうかしたか?」


 自分のロッカーを見詰めて、呆然としている杏子は何か……こう。


「あ、あああぁぁ、ああぁぁッッ!」


 その杏子は俺を見て、それから何かに駆られるように逃げ出した。


「ちょ!」


 俺はそれを追いかける。根拠があったわけじゃない。何が起きているのかもわからない。けれど杏子に何かあったのは事実で。素足……というか靴下の状態で外へと走り去る杏子。それを俺は捕まえる。足の速さで俺に適う奴はそういない。


 校舎の一部で俺は彼女を捕まえて。


「どうした? 何があった?」


 引き止めるように杏子の手を掴み、離さないと宣言する。


「ごめん……なさい……ごめん……」


「大丈夫だ。落ち着け。俺は敵じゃない」


 抱きしめることはしない。学内でそんなことをすれば杏子を貶める。けれどもだからって放ってはおけない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「大丈夫だ。俺は。お前を。否定しない」


 何かはあった。ただそれは俺に知られるとマズいこと。そういう風に受け取る。


 ハァッ! ハァッ! と息を荒くする杏子。その手を握って、俺は安心させる。この場に敵はいないと。俺は杏子を貶めないと。


「何があった? それだけ教えてくれ」


「だって……マアジは……私の敵です……」


「違う。俺は敵じゃない。お前の何も俺は否定しない」


「何で……?」


 なんでと言われても。俺にとって杏子が大切な人だから……ではダメか?


「私は酷いことをしたんだよ?」


「知ってる。その上で俺はお前の味方でいたい」


 とりあえず。場を移そう。


 俺に手を引かれて、杏子は泣きじゃくる子供のように後をついてくる。


「うわぁ」


 で、俺は杏子のロッカーを見て、そうとしか言えない声を上げる。一言で言ってイジメだった。杏子のロッカーがグシャグシャにされていた。イチゴミルクの匂いがする。それはつまりジュースをぶちまけられたのだろう。


「学校側に申告するか?」


 とりあえず杏子の側の対応を聞いてみる。


「イジメって……」


「辛いだろ?」


「だからマアジはもっとつらかった。だから私は甘んじて受ける」


「受けなくていい」


 俺は杏子の手を握る。俺だけは杏子の味方。そのスタンスは変えようにも変えられない。俺にとってオメガターカイトは推しで、俺にとって角夢杏子は大切な人だ。


「なんで……マアジは」


 別に理由はない。佐倉マアジは杏子に笑っていて欲しい。


「だから問題にするぞ」


 杏子が求めていないことを悟って、けれども俺はとてもではないが座視できない。


「マアジは……恨んでますよね?」


「否定も難しいが肯定も難しい」


 だからいいだろ。別に。


「マアジって何でそんなに愛おしいの?」


「何でと言われてもな」


 でも確かに何かを思っている。


「とにかく俺は杏子の味方をする異論は認めない」


 とはいってもだ。杏子がイジメにあったのも事実で。解決するには相応の対応が必要だ。


「ふむ……」


 と、すると、こっちから動く必要があるわけだ。


「とにかくロッカーは俺に任せろ」


 清掃くらいは受け持ってみせる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「飽きるほど聞いたから、それはもういい」


 俺は別に杏子を否定したいわけじゃないのだ。


「でも……私はマアジを貶めた」


「そう相成るな」


 だからどうしたと言ってしまう。


「う……」


 杏子が口元を抑える。


「吐くのか?」


「ぎもぢわるい……」


 周囲に人の目は……ないな。


「トイレに急げ。俺はぞうきんを調達してくる」


 とにかく拭き上げないとな。靴に関してはとりあえず拭ききる形で。体操服などは洗濯するしかあるまい。教科書や資料の類はないから、必要最低限の被害だと言える。後はロッカーをピカピカにすれば俺の仕事は終わる。


「で、あとは杏子の方だが」


 どうしたものか。


 とりあえず学校側にも説明しないといけないし。ロッカールームにはソーシャルカメラも付いていない。となれば犯人の特定も難しい。


「さて、どうしたものか……」


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