第170話:本位のキス
「…………」
鬼喪イゾウが喫茶店で謎の負傷。そのまま視覚と聴覚と声帯を失って、何も感じられないまま俺とヲヒメのディープキスだけを繰り返す思い出のループに囚われ。それはいいとして。まったく良くはないがあえてツッコまないとして。
「…………」
それからヲヒメの頭を撫でて、楽しかったよとお為ごかしを言って解散。そのまま俺はマンションに帰った。玄関を開けて、靴を脱ぐ。そのままリビングまで顔を出して。
「…………あ……お帰りなさいです……マアぅん!」
マアジ、と皆まで言わせず、俺はリビングにいたタマモの唇を奪った。キス。それもディープな奴。甘くて蕩けそうなタマモの唾液を舐め取って、そのまま相手の口内を俺の舌で蹂躙する。
「…………マ♡ ……アジ♡」
「タマモッ。タマモッ」
貪るようにタマモとキスをして、そのままヲヒメのキスを上書きする。息が切れるまでキスをして、ソレでようやく熱が引いて、俺とタマモの唇に唾液の糸が引いて、その糸を舐め取って切る。
「…………どうしたん……ですか? ……マアジ」
たしかに俺らしくない。ルイやタマモが甘えてきて、俺がやれやれとか言いながら相手をするのがいつものパターン……なのだが。俺は何も分かっていないタマモを抱きしめる。ギュッと。強く。Gカップのおっぱいが俺の胸板に押し付けられ、そして俺は性的に興奮する。
「ルイは?」
「…………仕事が入ったと。……事務所に行きました」
「俺には連絡が来てないぞ」
一応総括マネージャーなんだが。
「…………会社としても空気を呼んだんじゃないですか? ……なんでもコマーシャルの仕事を受けるかどうかという話し合いらしいですよ」
「じゃあタマモだけか」
「…………他のメンバーもいませんし」
「ッん」
「…………ふぁ♡ ……んむ♡」
そしてもう一度キスをする。
「…………今日は積極的ですね」
「不本意なキスをしたからな。本位のキスで上書きしたい」
「…………ヲヒメとのキスですか?」
「気持ち悪いとまでは言わないが、思ってない奴とキスするのも不本意ではある」
「…………あたしとは?」
「何時でも何処でも何度でも」
「…………えへへ」
「ルイがいたらそっちともしていたんだが」
「…………こーら……マアジ」
今度はタマモからキスをしてきた。トロンと瞳が溶けている。メスの顔だ。
「…………今はあたしだけを見ていてください」
そうして二人だけの空間で、俺たちは貪るように互いを求めた。キスをするのは別に唇だけに、じゃない。じゃあどこかって? 好きに想像してくれ。
「…………あ♡ ……マアジ♡ ……そこにキスは♡」
「感じるのか」
「…………その……敏感でして」
「でも甘いぞ」
「…………あ♡ あ♡ あ♡」
そうしてタマモの肢体を貪って、いたるところにキスをして、そうして俺の熱はやっと収まった。
「はぁ……はあ……はあぁ……」
全力でタマモを嬲って、それでクールタイムに入る。タマモも俺のいたるところにキスをして、そのままクールタイムに。
「ああ、可愛いな。世界一可愛い俺の彼女」
「…………ルイよりもですか?」
「今はお前が一番だよ」
「…………えへへ」
嬉しそうに、くすぐったそうに、タマモは笑う。やはりつけてきていたので、俺とヲヒメのキスにも何かを思ったのだろう。俺的には不本意だが、その不本意の度合いは俺の比じゃない。俺もルイとタマモがしょうがないからと別の男とキスすれば脳破壊される。
「はぁ……なんとか落ち着いた」
「…………いっぱいキスしましたね」
意図的には間違っておらず。
「…………キスした甲斐がありました」
「マジでゴメン。謝って許されないが……」
「…………ええ……許しませんので……精々御機嫌を取ってください」
「そうするよ」
そして俺はパンツ一丁で。タマモはブラとパンツだけの状態で。二人で抱きしめ合って、互いの体温を確かめ合っていた。タマモの体温がとても落ち着く。リラックス効果をくれる。
「ただいまッ! 黒岩ルイが御帰還……だ……ぞ……?」
で、そこでルイが大げさに登場して、開け放った扉を境に、俺とタマモを見て。
「……な……に……してんの?」
「ハグ」
「…………キスです」
身体のいたるところにキスをした。
「なんで?」
「恋人だから?」
「むー! ボクを差し置いて!」
「しょうがないだろ。不本意なキスをしたんだ。好きな奴とキスして愛し合って、あの黒歴史を忘れないと俺はやっていけない」
酒が飲めれば話は早いんだが。
「不本意ではあったんだぞ……」
「俺だってルイとタマモのキスが特別なことぐらいは知ってるぞ」
「じゃあボクともキス」
「その前に脱げ」
「目の前で?」
「ここで。下着まででいい。お前は誰の所有物だ?」
「マアジの♡ ボクはマアジの所有物だぞ♡」
言われてルイは服を脱ぐ。Eカップに成長したボインがプルンと揺れて、薄く毛の生えた股がパンツを介して見て取れる。
「じゃあキスするぞ」
「色んな所にキスしてね? ボクは何処でもいいぞ」
「果てるまでやるからな」
「あは♡ 楽しみ♡」
「どこにでもキスしていいんだな?」
言ってることはキモいが、そうでもしないとルイも納得しないだろう。俺としては甘い乙女の身体にキスを出来るだけでとある箇所のブツが元気になる。さっきタマモにキスをされた直後だというのに。
「あ♡ マアジ♡ そこぉ♡」
「お前の首は甘いな」
首、手首、足首、身体には首がいっぱいある。
「…………マアジ……あたしとも」
「二人とも一緒にしてやるよ。俺としても昼間の黒歴史を忘れたい」
「マアジ♡」
「…………マアジ♡」
そうして恋人同士。隠すモノも無い半裸で、俺たちは互いにキスし合った。とりあえず鬼喪イゾウは排除したのでエンタメプロは通常運営に戻る。あとはオメガターカイトが躍進するだけで、この件はめでたしと言えないこともない。
めでたしめでたし……か?
これにて四章は終わりです。
五章の更新はしばしお待ちください。
今別の小説を書いているので。




