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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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162/170

第162話:役目は終えたはずなのだが


「えー、そんなわけでエンタメプロの問題は片付いたので……」


 俺はお役御免。そう言いたかったが。


「辞めるなんて言いませんよね?」


 笑顔で杏子が追い詰める。もちろん辞める気だ、と言えれば良かったが。


「辞めちゃいけないので?」


 真っ当なことを聞いているような気がするが。


「マネージャーがいないと私パフォーマンスが落ちます」


「いや、そもそも俺はドルオタで。オメガターカイトとこうして話しているだけでも尊い人間だぞ?」


 これは嘘じゃない。実際に俺はすでに役目を終えた。なのにそれでも、俺がこの場にいていいのか?


「ルイはどう思いますか?」


「え。ボク? うーん……」


 パチパチとウィンクを送る。わかっているよな? フリじゃないぞ?


「残って欲しいかも、だぞ」


 おぃぃぃぃぃぃ。


「いや、素人目戦でも気付くことが多いってのは結構助かってさ。であればここでマネージャーが止めるのはすでに通り過ぎた地点じゃないかな?」


「然程、力にはなれんのだが」


「そこは気にしなくていいと思うぞ」


「…………あたしも残って欲しいです」


「サヤポンも」


「拙もデス」


「わたくしも」


「ククク、既にお前は俺の盟約者だろう?」


 そんなこと言われてもー。


「「「「「「「お願い!」」」」」」」


 言っておくが、マジで俺はキモオタだからな? ここでオメガターカイトとニャンニャンしてそれをSNSに投稿する男だぞ?


「ニャンニャンしないでしょ」


 細かい定義はどうでもいいんだよ! 言っておくが杏子! お前のパンツは時折マジで使われているからな!


「っていうかキモくないので?」


「「「「「「「別に」」」」」」」


 さいですかー。じゃあいいや。


「キモかったら即刻首切っていいからな?」


「いつまでも続けてね?」


 杏子はそう言うだろうな。


「で、他は?」


「ダイジョーブデース!」


「科学の発展に犠牲は付き物デース」


 お前らが俺にどういう意見を求めているのかもわからん。


「で、あとはバレンタインライブについてだが……」


「その……社会的脅威が無力化されたというのは本当なので?」


「大丈夫だ。そこは俺が保障する」


 と言ったのは俺じゃなくてリンゴ。同じ一人称だからちょっと混乱する。まぁ可愛さで言えばリンゴがぶっちぎりだが。


「ちゃんと潰したから」


 そうだな。リンゴのセイバーファイバーの威力たるや。でも言うなって言ったよな?


「リンゴちゃんが犯罪組織を潰したの?」


「ムフン。褒めたたえろ」


「すごーい。さすがリンゴちゃん」


「ムフフフ」


 で、真実は闇の中なわけだが。そんなことを思っているとスマホが鳴った。正確にはバイブレーション。


「じゃあ今日はライブに向けたダンスパートの確認をだな……」


 そういうことになった。とはいえエンタメプロが佐倉コーポレーションの傘下に入ったことは決して軽くない。送り迎えはワゴン車になるし、安易に電車も使わせない。ライブホールの確保も迅速。そしてなにより破産が遠のいた。年度末決算にも本社の法務部が処理してくれるし、会社全体の企業形態としてはワンランクアップしたと言える。これで社長の胃痛が治ればいいのだが。特に最近は犯罪組織に狙われていて、胃痛が酷いようだったから。


「じゃ」


 そうして俺は場を離れる。スマホにはSNSが展開されており、そこでは二月十三日の予定についての確認がとられていた。もちろん相手は桃野ヲヒメ。俺に本命チョコを渡したいので、予定を開けていてくれとのことだ。俺としてはノーと言いたいのだが、既にルイとタマモがOKの返事を出しているので改めて断るのも収まりが悪い。このまま無視して全てを無かったことにするのが一番いいのだろうが、おそらく彼女とはオメガターカイトのライブ会場で何度でも出会う。となると不謹慎な態度を慎むべき、というのも事実で。


「誰とSNSしているの?」


 俺が部署の隅っこでスマホを弄っていると、そんな声が掛けられた。


「杏子……」


「用事?」


「まぁ」


「女の子だったりして」


「まぁ」


「マジ?」


「まぁ」


 すっごい語彙力の低い俺だったが、ディーヴァラージャの桃野ヲヒメとイランをしているとか、どうやって説明すれば穏便に済むんだ。


「なわけで、杏子はもう帰れ」


「佐倉くんの浮気者」


「そもそも浮気をどうのと攻めるよりも俺にすべきことがあるだろ」


「全裸土下座?」


 やれるもんならやってみろ。と言いたかったが、場合によっては杏子はしかねないので、そこは自重を貫く。


「とにかく。俺が誰とイランしようと問題ないだろ」


「大問題なんですけど」


「彼女への言い訳じゃ無いんだから……」


 肯定しても否定しても怒られる。


「佐倉くんが見てくれるなら私はどこででも脱げるよ?」


「今更お前のノーパン主義に何を言うでもないんだが」


「パンツってなんであんなにエッチなんだろうね?」


「多分お前の心が穢れているからかな」


「佐倉くんは興奮しないの?」


「するから困っているんだよ」


 その通りだから困っている。


「そもそも俺がマネージャーする意味ねーだろ」


「私はモチベーション維持に必須だと思ってますよ?」


「お前一人のために会社は俺に給料払ってんだぞ?」


 しかも総括マネージャー。


「佐倉くんも嬉しいでしょ? オメガターカイトの一番近い距離にいられて」


 嬉しくないと言えば虚偽にはなるのだが。


「佐倉くん。キスしよっか?」


「ノーセンキュー。俺に色目使う前に、お前はダンスをキレさせろ」


「何か不満があった?」


 もちろん素人目にはわかるはずも無く。だが比較対象がルイではな。南無三。


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