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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第160話:事象の地平面【アユ視点】


「失礼しますわ」


 ロシアのとある邸宅。豪華で絢爛で荘厳な屋敷が都会の外れに建っておりました。そこがロシアンマフィアの本部で、アルケーストールのゴッドファーザーの邸宅でもあります。


「ほう。お嬢さんはロシア語が得意なのですね」


 ロシア語で会話しているマフィアのトップさんが私のことを笑顔で出迎えてくれます。その彼がゴッドファーザーであることは重々確認を取っていて。


「何の御用でしょうか?」


 一応アポをとって来ているが、別に訪問する必要はなかった。隣に使用人を控えさせ、私こと佐倉アユは平然とマフィアの本拠地に足を踏み入れる。


「今回の依頼を覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「ああ、誰からが日本での工作の金の出元かを教えてくれ……でしたよね?」


「ええ。そのように」


 佐倉アユ……つまり私は出された紅茶を飲んで、コックリ頷きます。ちなみにロシアンティーってロシアに馴染み無いらしいですね。


「しかし裏金ですので。全部を追うというのは……」


「振込先のペーパーカンパニーを教えてくださるだけで結構です。あとはこっちで非合法に調べますので」


「ほう」


 相手の所有している会社の情報をイリーガルに調べる。そう宣言することがマフィアにどういう感情を覚えさせるか。もちろん分からないなどというつもりはない。


「剛毅なお嬢さんだ」


 あなた方には負けますけどね。


 そうして振込先のペーパーカンパニーを教えてもらって、そのままニコリ。使用人が約束通りに依頼料を口座に振り込む。これで話は終わりだ。もちろん私の用事はこれではないのだが。


「金は受け取った。ありがとうございますだな。良い取引でした」


 ゴッドファーザーがニコニコ笑顔でそう言って、私に握手を求めてくる。私も営業スマイルでそれに応じる。そうしてにこやかな握手のあと、私は紅茶を飲み干し、カチャリとティーカップを受け皿に置く。そうして使用人が私の隣に立った。


「それでは、滅んでくださいませんか?」


 そして率直に私はマフィアに対して宣戦布告をする。瞬間、沸騰した頭が銃を構えさせる。ゴッドファーザーはニコニコしていて、三下が薄汚い言葉を選びながら銃口をこっちに向ける。


「ちなみに理由をお聞きしても?」


「お兄様に銃を向けた。それだけですよ」


 他に理由はない。あえて言うなら不快だから。虫と一緒だ。見かけたら潰して殺してしまえ、みたいな。


「この状況で喧嘩を売ると?」


「すでにそちらの命運は握っておりますれば」


 私がそう言うと、ゲラゲラと三下どもが笑った。よほど人を不愉快にする芸に長けているらしい。その一点は認めざるを得ない。


「もちろんこちらの命運を握っているのですから、その根拠を教えて貰っても?」


「そうですねー」


 私はどこまで噛み砕いて説明したものか悩んで。


「事象の地平面って知ってらっしゃいますか?」


「ブラックホールの表面のこと……だったかね?」


「ええ、重力特異点を覆い隠すための壁……というか不可視の境界ですね」


「それが?」


「私はこの事象の地平面を重力特異点無しに展開することができるんです」


 つまり重力を伴わないブラックホールを創り出すことができる。


「それはすごい」


「でしょう?」


 褒められて悪い気はしない。別にそれが皮肉でも。


「イベント・ホライゾン・フィールド。略称としてEHフィールドと呼ばれていますが、これを研究するためにMITにいまして」


「研究熱心なのですな」


 やはり皮肉を言っているのだろう。そもそもそのEHフィールドが展開出来てだから何だとしか相手には言えないのだろうけど。


「で、このEHフィールド。境界面に存在する真空の仮想粒子対を分離させて、マイナス粒子だけを取り込む性質がありまして。ホーキング放射って聞いたことありません?」


「不勉強なもので」


「まぁ端的に見せるなら」


 そうして私はヒトリボッチを展開。EHフィールドで三下の一人を包み込む。真っ黒で視覚的に見ることのできないブラックホールがいきなり現れる。で、存在すると同時にホーキング放射。そうやってニュートリノを発しながらブラックホールは蒸発して、そこには何も残っていなかった。つまり三下の存在が全てニュートリノに変換されたのだ。


「――――ッッッ!!?」


 理解が追いついていないのか。マフィアの連中は全員驚愕していた。もちろん驚いてもらえるのはヒトリボッチの能力者として光栄ではあるのだが。


「待て! 話し合おう! おそらく私たちは多大な誤解をしている!」


「例えば?」


 ニッコリと私は破顔する。


「そちらの関係者を狙ったのは軽率だった。だがそれは下っ端のやったことであって我々の本意ではないのだ」


「それで?」


 ニコニコ笑顔のまま。


「賠償金を払う。日本からも撤退しよう。だからここは穏便に……!」


「何故?」


 どこまでも私の笑顔は続きます。


「なので、この際佐倉財閥には詫びを入れる! 以降のことは必ず敵対しないと誓う! ですから私共をですな……ッ!」


「釈明がそれだけなら、後は消しますよ?」


 聞くのも疲れます。


「待っ!」


 悲痛な表情で慈悲を乞うゴッドファーザーを、私が視界から消す。真っ黒の壁面。EHフィールドを展開したのだ。屋敷全体を地下まで球状に取り囲むEHフィールドと、そこから私と使用人だけを例外とするアンチEHフィールド。その球状の不可視の内部では、既にホーキング放射によって領域の存在が全てニュートリノへと等価交換されていた。そのままブラックホールは蒸発し、残ったのはクレーター。屋敷は一切存在せず。隕石によるものとは思えないほど綺麗な境界面をしている……まるで磨きあげたかのようなツルツルのクレーターが屋敷の代わりに存在していた。マイナス粒子による対消滅。おそらくですけど、その問答無用さはアニメキャラでも防げる存在はそういないかと。一部上位のチート存在は別ですけどね。


「恐ろしい威力ですね。お嬢様」


 使用人が私におべっかを使ってくる。


「お兄様が引くくらいですしね」


 私のこのEHフィールド展開能力をヒトリボッチと名付けたのはマアジお兄様だ。最初は『ヒート・リバース・ヴォイド・タッチ』……熱式反転虚構作用という名前だったのですけど、お兄様が一言。「長い。ヒトリボッチでいいだろ」と鶴の一声。めでたく私のオーバリズムはヒトリボッチと命名されたとさ。


「中々ユーモアのあるお方で」


「悪意が無いのがまた」


 なわけで、磨き上げられたようにツルツルのクレーターの中心に立って、そのまま階段状に表面を削って、クレーターの縁まで登っていきます。


「P氏の方には話が言っているんでしたね?」


「既に同意も得ております」


 では政治的に問題も起きないと。さて、マサチューセッツ州に帰りますか。


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