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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第158話:アルケーストール


「アルケーストール?」


「ロシア語でオーケストラって意味だな」


 で、またしても国際ホテル。恵比須様印のビールを飲んでいるセインボーンは、あっさりとそう言った。


「オーケストラって」


「楽団の名を冠したロシアンマフィア。お前に銃を向けたのはそこの下っ端」


「ロシアンマフィア……」


「国籍どころか滞在許可も無し。つまり不法入国者。アルケーストールの日本支部における鉄砲玉だな」


 そもそも日本には存在しない存在であるから、何が起きても切り捨てられる。


「しかしロシアンマフィアがなんでオメガターカイトを……」


「それについてはガチで知らんらしいが……」


「まぁ依頼だよな」


「だな。誰かが金払って、オメガターカイトを潰せってロシアンマフィアに依頼したんだろうよ。アイツらは仁義より金をとる。一定の依頼料さえ頂ければ、日本でも銃ブッパするだろ」


 グイ、とそうしてセインボーンはビールを飲んだ。


「セインボーン・サーキュラーとしてはどういう方向を取るんだ?」


「依頼はオメガターカイトの護衛だ。つまり、何があろうとこっちが佐倉財閥を敵に回すことはない。だが同時にアルケーストールをどうするでもない」


「だよなー」


 ガクッと首を下げる。


「ただ、だ」


「何か?」


「アルケーストール日本支部を潰せば、短期任務で七千万以上の金が手に入る……という意味では、相手を攻撃するのもやぶさかではない。いつ終わるかもわからん護衛をダラダラするより、一気に敵を潰して任務を終わらせた方が、こっちとしても羽振りがいい」


「で、こっちは幾ら出せばいいんだ?」


「クールエールの傭兵の装備一式。金出せるか?」


「サヨリ姉に聞いてくれ」


 あるいはマダイ父者。


「じゃあそっちに聞くか」


「警察にはまだ言ってないんだよな?」


「動かれると面倒になる。スタットも動くかもしれないが、それより先に決めてしまいたいな」


「サヨリ姉から許可が下りたら行ってくれ。俺の側には決定権ないが」


「毎度あり」


「そういや、アユを仲介しなかったな。俺に直接ってのも珍しくないか」


「あー……」


 で、缶ビールを握ったまま、目が泳ぐセインボーン。


「おい、まさか?」


「ロシアに行った……」


「まさか?」


 タラリと冷や汗が流れる。その意味するところを俺は十全に知っていた。


「なんで止めなかった!?」


「止めて止まると思うか?」


 いや、それは、まぁ。


「いや、でも説得とかさぁ。俺にとっても不本意って知ってるだろ……」


「ニコニコ笑顔で相手の情報を開示しろっていうヒトリボッチ嬢にこっちが逆らえると思うか? 死を覚悟しろって言っているのと同義だぞ?」


「…………」


「まぁアユも悪いようにはしないだろ。多分アルケーストールはこの地球上から消えて無くなるだろうけど」


 だからそれが問題であってだな。


「止めたいなら護衛付きでロシアまで案内するがどうする?」


「いや、こっちは日本支部を潰すことに尽力しよう。別段アユの心配をするだけでも徒労だ」


「日本支部を殲滅して、それから警察に後は任せる……でいいんだな」


「支部の場所は分かってるんだよな?」


「さっきも言ったが認識している。すでに狙撃班は待機しているから、地下の逃走経路まで含めて包囲は完了」


「俺に許可を求めた意味は?」


 やる気満々じゃねえか。


「ハンコさえ貰えればすぐ動けるように準備するのがサラリーマンって奴なんだよ」


 そう言ってグイとビールを飲む。


「で、そっちの服部リンゴ……だっけ。役に立つのか?」


「立たないわけじゃないが。なんだかなぁって感じ」


「繊維のオーバリストね……」


「実際にセイバーファイバーについて見せてもらったが」


「佐倉財閥の保有戦力はすさまじいな」


「いや、リンゴはノータッチ。とはいえ、ことが終わった後は勧誘するだろうが」


「アルケーストールも愚かなことをしたな」


「誰が依頼したかはわかんないんだよな?」


「少なくとも日本支部は誰も知らないんじゃないか? 本団から命令を受けて暴れているだけだと思うぞ」


 と、すると。


「金の流れを洗うしかないか」


「そっちは別に奴に頼むんだな」


 まぁセインボーンのクールエールは戦争代行の会社だしな。


「よし、サヨリさんのゴーサインも出たことだし」


「え、もう?」


「既にメッセは送ってあった」


「俺がここにいる意味とは一体」


「一応お前が依頼者だから、意向は汲まにゃならんのよ」


 それはそうだが。


「じゃあ今から行くか。下っ端がとっ捕まったって知ったら、相手もそこそこ警戒するだろうし」


「夜逃げするか?」


「可能性はないじゃない……程度だな。別段私はどうでもいいが、少なくとも拠点を変える程度はすると思うぞ」


「その前に一網打尽」


「なわけでリンゴちゃんにも声かけておけよ。そのまま強襲するぞ」


「オーライ」


 そんなわけで、そういうことになった。俺は自分の手を見つめていた。エルフの力を使って犯罪組織を潰す……といえば正義っぽいが、その実、殺人を犯す。俺が殺すわけじゃないが、既にクールエールはアルケーストール日本支部を壊滅させる目論見だ。もちろんそれには構成員の殺害も含まれる。


「辛いなら見て見ぬふりしてもいいぞ」


「いや、行くよ。このまま取りこぼしても詰まらない」


「決まりだな。すでに支部の場所は分かっているから、そこまでヘリで行くか。マアジは見ているだけでいいぞ」


 そもそもロシアンマフィアに対抗するほどの何かを持っていない、というのは事実で。国際ホテルの手入れの行き届いた部屋を一瞥して溜息。ここはこんなにも綺麗なのに、俺は今から血に塗れる。俺の流す血じゃないという言い訳を考えてみたが、それで納得できるほど、俺は外道ではないらしい。今更ながらに傭兵という職業の異常性を顧みていた。銃を握って相手を銃殺する。そのことに疑問を持たないというだけで、その職業の専門性を確認したような。ソレを羨ましいとは絶対に思わないわけだが。


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