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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第157話:木甲梵弩バウムクノッヘン


 じゃあアイス買ってくる。そう言って俺は外に出た。とある平日のとある夜。さすがにオメガターカイトに外出を許可するわけにはいかないので、調達する時はクールエールに頼むか俺が行くしかない。そもそも何で海外の犯罪組織がオメガターカイトを狙っているのかも俺にはよくわかっていないのだが。


「へい。坊や。ちょっとアンケートいいですか?」


 夜道を歩いて、マンションを出て五分。駅方面に歩いてコンビニまであと二分、というところ。アンケート調査を依頼された。相手は色素の薄い髪をした外人。鍛えている……というかそもそも日本人が貧弱なだけで外人はそこそこフィジカルが強い。


「なんのアンケートですか」


 まぁ帰りに絡まれるよりマシだろうと、俺もちょっと安堵。さすがにアイスを買っていると、冷凍室まで時間の勝負になってしまう。


「オメガターカイトの総括マネージャーってお前か?」


「まぁ。そうですね」


「じゃあ失礼」


 タァンッッと銃声が鳴った。容赦なく眉間に撃ちこまれた弾丸が、そのまま跳弾する。


「???」


 その俺の頭部にはちょっとヒーロー然としたマスクが出現しており、さっきまで露出していた顔面が綺麗に隠れている。もちろん銃撃者にはハテナだろう。そのまま俺はとあるヒーローの変身ポーズをとって、全身を蒸着する。


 では、蒸着プロセスをもう一度見てみよう。


 一瞬の一瞬。零・零五秒の間に行われた蒸着プロセスを俺は言語で解説した。


「つまりこうこうこうやって俺は変身したわけだ」


「?????」


 既にヴァリアブルアーマーを展開して、全身に装甲を纏っている俺に死角はない。当然ながら銃弾程度で貫ける強度ではなく、関節の動きも阻害しない完璧なるフォーメーション。ああ、今俺はとても輝いている!


「全ての悪よ! この俺を恐れよ! 我こそは木甲梵弩もっこうぼんど! バウムクノッヘン!」


 ババーンと効果音が欲しいところだが、流石にスピーカーは用意していなかった。


「ッッッ!!!」


 だがそもそも相手も引けないのか。無駄と知りつつ銃を撃ってくる。ソレを俺の装甲は全て弾いた。弾倉式なのでせいぜい七発から十発程度だろう。


「何なんだお前は!」


木甲梵弩もっこうぼんどバウムクノッヘン!」


 もう一度見栄を切る俺。さっきも名乗ったはずだが、覚えられていなかったらしい。俺ちょっと寂しい。


「ちなみにこのヴァリアブルアーマーはブーステッドアイアンウッドっていう鋼鉄並みに硬い植物で出来ているから、破壊したいならレールガンを持ってこい」


 そして俺は剣を抜く。


「武装だと!?」


「アドバンスドプラントソード! 略称APソード! 通称エピソード!」


 さらに剣を握って見栄を切る。


「ふざけてんのかテメェ!」


 銃を懐にしまって、ナイフを握るお相手さん。そのナイフを俺のエピソードが刀身から切り裂く。


「へ?」


「そこらの日本刀よりよく斬れるぞ。これ」


 まぁそういう風に俺が調整したのだが。マジで素人でも兜割が出来るレベル。


「さあ! 降参しろ! 力の差は分かっただろう!」


「くっ!」


 銃は効かず。ナイフが両断され。マジでレールガンかミサイルでも持ってこないと敵わないと悟ったのだろう。逃げの一手に移る相手さんだったが。


「か、身体が!」


 動かない、というより拘束されていた。俺は関知していたが、報告の義務も無いので放っておいたのだ。


「くく。この俺の殺風景キリングフィールドから逃れられると思っているだけでもおめでたい」


 寒い冬の夜。分厚いコートを着て、仮面をかぶっている正体不明(虚偽)の存在が、嘲笑うようにそういう。


「何者だテメェ!」


「正義執行粛清仮面! 御法度リリン!」


 微妙に冠言葉が変更されているが、要はリンゴだ。超硬繊維を巻きつけて拘束しているのである。もちろん不用意に引っ張れば、そのまま圧力と摩擦でお相手さんはバラバラ殺人だろう。


「あ、じゃあセインボーンに連絡して」


 で、さらに拳銃を向けて警戒しているクールエールの社員さん三名。夜の闇から姿を現した。釣れたというか。予想通りというか。


「なん……なんなんだお前ら!」


 それはあなたが知る必要は無いですよ。


「じゃ、拘束。後に正体分かったら教えてな」


「了解しました。顔認証が終わった後は?」


「警察に引き渡すなり性欲の対象にするなりご自由に」


 相手がムキムキのおっさんであるから、俺はさすがに欲情できないが。


「離せ! テメェら! 俺らが何だか分かってんのか!」


 分かっているかと言われると分かっていなくて。ソレをこれから知るところだ。


「テスタメイト!」


「ああ、リンゴもご苦労さん」


「カッコいいな! ソレ!」


「だろ?」


 さすがに現役厨二病のリンゴは分かってくれた。そうだよ。カッコいいんだよ。木甲梵弩もっこうぼんどバウムクノッヘン! デザインはパクリだけど。


「マジで銃弾も効かないのか?」


「ブーステッドアイアンウッドっていう素材で作ってるから。鉄より硬いんじゃねえかな?」


 鋼鉄とどっこいどっこい。しかも超軽量。


「どこから出したんだ?」


「身体から。さすがに零・零五秒は嘘だが」


 それでも一秒かからず展開できる。相手が失敗したのはすれ違いざまに予告なく俺を撃たなかったこと。俺に声をかけた時点で、失敗が決定していた。


「じゃあアイツらがオメガターカイトを狙っていた……」


「仮想上の犯罪組織だな。ま、尋問は速やかにされるから、明日には正体も分かるだろ」


「カチコミする時は俺も呼べよ?」


「リンゴが疵物になったら俺が困るんだが」


「試していない超能力もあってな」


 じゃあソレの性能次第だな。


 そして俺はヒョイと木甲梵弩もっこうぼんどを体内に収納した。エピソードも同じように。


「っていうかエルフって凄いんだな」


「これでも佐倉財閥では温厚な方だぞ」


 サヨリ姉とかアユに比べればまだしも無害だ。まぁ不老長寿の仕組みが本質的にあるので、戦闘への応用がそもそも想定外というか。実際に研究所では俺の寿命は人間の平均の二倍から三倍になるかもしれないと報告は受けている。エルフとはよく言ったものだ。


「じゃ、アイス買って帰るか」


「俺はコーヒー味!」


「全員のリクエスト通りに買うから心配するな」


 金もあるしな。


「テスタメイト……やっぱり俺、お前が好きだぞ」


 そりゃ御光栄なことであって。


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