第150話:マネージャーは大変だ
基本的に俺の仕事はオメガターカイトの警護活動だ。ここでいう警護が何を意味するかは、まぁ悟っていて。今日は昼で学校を退散し、動画撮影に明け暮れる……というほど真剣ではないルイのマネージャーとしてスタジオにいた。週に一回は更新されるオメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青しの動画撮影だ。今日の撮影は「一問一答! 教えて! ルイちゃま!」のコーナー。オメガターカイトの……というか黒岩ルイのファンからお手紙を頂いて、そこに書かれた質問に一答だけ答えるという企画だ。結構人気の企画で他のメンバーでもやっていたりする。定期的にやるイベントで、まぁ言ってしまえばオメガターカイトとファンの距離を縮める、とてもナイスな企画と言える。
「はー。疲れたよ」
「お疲れ様です」
俺は彼女にお茶を渡して労う。オメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青しは俺にとっても楽しみな放送なので、無難な言葉しか出てこない。しかし実際に撮っているところを見ると、なんかテンション上がるな。
「マアジ的にはあり?」
「履いているパンツは何色ですかはちょっとモヤッた」
「ちなみに今日はシマシマね」
「是非見せてください」
「後で幾らでも」
よし! 言質取った!
グッとガッツポーズしつつ、だが同時にゾクリと悪寒が走る。その悪寒に従って、俺はルイを庇うように立ちふさがる。スタジオから外に出た段階で、遠くから銃撃が起こったのだ。おそらくスナイパーライフル。俺が感じ取れたのは直感と、スコープに反射する光。すでに防弾性の車が横付けされているので、その陰に隠れながらライフルの射線から身を隠す。チュイン! チュイン! と銃撃が俺たちを襲って、それから銃撃が止んだ。俺は即通報。スタジオの壁面に銃痕が残り、警察沙汰になってしまった。説明に俺が残って、ルイは車で即時帰宅。俺も銃で狙われたことを即ゲロして、警察に射線の方向を伝え、一つのビルが候補に入っていた。ちょっと使われていないビルで、都会にあるのにもったいない物件。そこからこっちをスナイプしたのだろうと警察に説明。もちろん戦慄はしている。ここまで高性能なスナイパーライフルを使ってくるということは、相手はヤクザですらないだろう。ジャパニーズヤクザって、実は銃撃には長けていない。だが今回の狙撃は完全にプロの仕事だ。とすると、相手はプロの闇業界。外国のマフィアか傭兵部隊。そう俺が認識すると警察も深刻な顔をした。
「じゃ、そんなわけで捜査お願いします」
俺はそのまま回された車で帰って、マンションの十二階の部屋に入る。それからコスプレ衣装と同人誌を溜め込んでいる十二階の部屋から、増設した登り階段で十三階の部屋に移動する。相手がオメガターカイトを狙っている以上、俺がそのまま十三階の部屋に入ると邪推されるだろう。邪推……というか俺とルイとタマモが付き合っているのは事実だが、それを露見させるわけにはいかない。
「マアジ!」
そのまま先に帰っていたルイが俺を抱きしめる。フワリと良い匂いがする。女の子って何でこんなにいい匂いがするんだろう。
「大丈夫だった?」
「俺はな」
問題はガチで銃撃戦を展開している犯罪組織だろう。俺が介入していいのかは悩ましいが、このままだとオメガターカイトは暴力的に潰される。もちろん俺がそれを許可しないのは必然で。
「ヤの字に狙われているのかな?」
「多分もっと厄介」
「マアジは死んじゃダメだよ?」
「一応オメガターカイトの総括マネージャーだからな」
「危ないと思ったら見捨ててね?」
「ソレを俺が出来れば話はもっと早いんだけど」
「サヤカのために腕一本落とすもんね」
耳が痛い。まぁアレはしょうがないだろう。
「ボクにしてみればしょうがないで済む内容じゃないぞ?」
悪かったって。
「とにかくマアジは自重すること」
「俺的にはルイに自重してほしいんだが」
「ぶっちゃけ狙っているのが犯罪組織ってだけでおしっこ漏らしそう」
「何で狙われているのか。そこから考える必要があるな」
「マアジでもわからない?」
「そもそも犯罪組織に依頼してエンタメプロを潰そうという発想がぶっ飛びすぎて」
「恨み買ってるのかな?」
「可能性は無いではないが、それで犯罪組織を動員するのはやりすぎな気もするような」
「ボクは怖いぞ」
「何が?」
「マアジがボクのために犠牲になることが」
「それについては納得してくれ。俺にはお前を守る義理がある」
「そう言って死にかけたことがあるんだぞ。マアジは」
「サヤカの件か?」
「ううん。もっと過去」
「俺は十歳より前の記憶が無いんだが」
「それはボクのせいだぞ」
「そうなのか?」
「間違いないね」
別に根掘り葉掘り聞いたりはしないのだが。
「じゃ、飯にするか」
今日はネバネバ丼だ。オクラとヤマイモとメカブとナメタケの丼。これが身体いいんだよ。
「…………ところで……二人だけの空気は止めてくれます?」
もちろんここにはタマモがいてサヤカがいて。
「マジでマアジお兄ちゃんはオメガターカイトのために死にかねないから」
「死んじゃダメデスよ?」
「わたくしはマアジに死なれたら誰に寝取られればいいんですか!」
「俺のテスタメイトだ。俺の許可なく死ぬことは許されない」
まぁ想われているのは確かで。とにかく近くやるライブに向けて、俺としては万全の準備をしないといけない。
「とすると……」
あまり頼りたくないが、溺れる者は藁をもつかむの精神だ。
「借りを作るのは不本意なんだがなぁ」
ピ、ポ、パ、とスマホを弄る。
「誰と連絡とっているの?」
「妹」
「佐倉財閥の?」
「イエスアイドゥー」
佐倉アユ。ソイツと連絡を取るのはまさに不本意だが、背に腹は代えられない。
「じゃあ週末にお兄様の家にお邪魔しますね♪」
アユにはオメガターカイトのことは言ってないんだよな。
「週末は俺の部屋に来るなよ」
「浮気の言い訳だぞ」
「…………怪しいです」
「まっさかー」
そんなことあるわけないじゃないかー。
「マアジは嘘が下手なのが良心的だぞ」
「誰が来るんデス?」
「妹」
嘘じゃないぞ。ジャパニアン嘘つかない。




