第148話:引っ越し蕎麦
「それでは、お引っ越しおめでとうございます!」
俺は京都から取り寄せたソバで、引っ越し祝いをしていた。今日はイユリとアワセ、リンゴの三人が俺のマンションに引っ越してきたのだ。もちろん防犯上の理由もあるし、それ以外の理由もある。
で、俺がソバを湯がいてザルに盛る。ソレを好きに取れというスタイルでいくことにした。
「なぁマアジ」
ズビビーとソバをすすりながらリンゴが言う。
「杏子は別でいいのか?」
「都心に一軒家持ってるし。別にいいんでない?」
防犯上の理由はあるが、一応そっちにも対策は取ってある。
「杏子だけマアジと関係持ってないだろ。俺はそれが少し……」
「まぁ色々ありまして」
ズゾゾーと俺もソバをすする。カツオだしにワサビ。やっぱりこれが鉄板。ちなみに付け合わせはしょうがの漬物だ。こっちもコリコリして美味しい。
「杏子はマアジに惚れていないのか」
「バリバリ惚れられていますが」
「キス……とか……」
「されてるぞ」
「むー」
そこで嫉妬してくれるリンゴが可愛い。俺にたいして独占欲を持ってくれるリンゴはマジ可愛い。
「お前は俺の魂約者……つまりテスタメイトだぞ。その事を忘れるなよ」
「わたくしとしましてはわたくしの他に女を作るのは大歓迎なんですけど」
「アワセも難儀な性格してるな」
「拙はお姉様が可愛がってくれるならそれだけで十分デス」
「今のところお前のお姉様を目指すつもりはないが」
「モロッコに行きません?」
「去勢しろと?」
「お姉様なら女子でも通りますよ」
そもそもミストルテインがあるから切り取っても生えてくるんじゃないか?
「あー、そういえば腕も生えてきましたデスね」
「腕が……生えた?」
そうしてリンゴが眉を顰める。
「腕切り取られたことあるんだ」
つい昨年の話。
「名前を言え。殺してくる」
大丈夫だ。すでに終わっている。死んではいないが。
「ところでこのオーバリズム? だっけか? 結構多いのか?」
ヒュンと繊維を振って、聞いてくるリンゴ。リンゴは身体のいたるところから細い糸を出して操ることができる。ほら蜘蛛男を直訳したアメリカのヒーローみたいな。アレと違うのは繊維の摩擦で切り刻むことも出来ることだが。あのアクション映画みたいに糸を使って立体的に飛び回ることも可能らしい。中々便利なオーバリズムというべきか。
「多いってことはないだろうが。少なくとも最高レアの上の上くらいだな。全国に百人くらいはいるんじゃないかと言われている」
「その内の二人が俺とマアジか」
「あとサヤカな」
サヨリ姉もアユもそうだしな。
「マアジの力は世界平和のために使うべきだ」
「どうしろと?」
「絶黒を辞めろ」
「辞めるのはいいんだが。お前のテスタメイトになれと?」
「俺が愛してやる」
「俺の推しはルイとタマモだしな」
ズゾゾーとソバをすする。
「はぁ。わたくしの想い人が、他の女に夢中……推せますわ」
アワセは口を閉じろ。風味が逃げるぞ。
「わたくしは寝取られがとても好きでして」
うん。知ってる。すっごい知ってる。
「わたくしの想い人が他の女に抱かれているところを想像するだけで……ジュルリ」
「俺とのお見合いに快諾しなかったのもそこら辺が?」
「想い人こそ奪われたいのですわ」
終わってるなー。
「皆さん性癖が終わっていますデスね」
イユリがそんなことを言っているが、お前に言う権利あるか。
「イユリ。何故俺の胸を揉む?」
「リンゴちゃんが可愛らしいから」
「百合営業してもカメラまわってないぜ?」
「だからこれは営業じゃないデスよー」
「俺的には百合もありだとは思うが……」
「分かる!? リンゴちゃん!? じゃあ今期アニメ見よ!」
「タイトルは?」
「ロリ男と百合エット!」
で、早口で百合アニメについて語るイユリは端的に言ってファン開拓としては悪手だったように思うが、それはそれとしてロリ男と百合エットが面白いのも事実で。俺も百合は属性の一つなので、特に忌避感は無し。毎週楽しんで見てる。
「ところで杏子ちゃん以外はこのマンションに住むって冷静に考えてどうなのデスか?」
「住所は変わってないから気にするな。住所聞かれたら今まで通りのアパートを答えればいい。単に住まいにしているのがここってだけで」
ズビビーとソバをすする。
「イユリ」
「はいはい」
「揉むな」
「ナゼェ」
「マアジ的にはこういうのもありなんだぜ?」
「まぁ多様性の時代だしな」
「マアジの意見を聞いているんだが」
「オーバリストに比べれば、性癖の歪みなんて誤差だろ」
「俺たちが間違っている……と?」
「いんや? そこまでは言わん」
「だが俺やマアジは明らかに普通人と違っていて……」
「赤い血が流れてアニメを面白いって感じれば、それで人間だろ」
「マアジは優しいぜ」
「一応善良を旨としているんでな」
「なぁ。キスしないか?」
「ッッッ!!!」
でそんな突然の提案に、アワセが顔を赤くする。口を手で覆って、俺とリンゴをドキドキとして見ている。想い人が別の女とキスをする。それはアワセにとってビッグイベントだ。寝取られ趣味って、ある意味無敵じゃないか?
「はわー。マアジ。わたくしの目の前でリンゴとキスを……?」
「じゃあアワセはイユリとキスしろ。俺が見ていてやる」
「マジデスか! アワセとキス!」
「ああ、わたくし……想い人を寝取られて……わたくし自身も穢れてしまう」
「マアジ。キス」
はいはい。そうして俺はリンゴと唇を重ねる。それで「ん……」と気持ちよさそうに目を細めるリンゴの覚悟を蹂躙してディープキスをする。口内に舌を入れて唾液の交換。そうしてリンゴの口の中を蹂躙しまくる。「ん! ん! ん!」と興奮で息も忘れて、リンゴは俺とキスをした。グチャグチャと唾液で唇が塗れて、そのまま息を交換する。俺の甘い匂いはアロマテラピーで、興奮作用をもたらしていた。このまま……行けるか?




