第147話:顔合わせ
その日の授業が終わって、俺は放課後を迎える。そのまま図書室にでも行って時間を潰すのもありだったが、最近の俺には仕事が出来た。下校のために学校を出て、そのまま駅の方面へ。駅に面している道路で待っていると真っ黒のワゴンが止まった。
「御曹司。乗ってください」
御曹司は止めてくれって言ってるんだが。とはいえだ。このままここで社員を注意するわけにもいかず。相手としても俺を敬愛して言ってくれているのは確かで。であれば頭ごなしに注意するのも気が引ける。
「ふわー。御曹司……」
で、俺が助手席に乗ると、後部座席に乗っていた杏子が俺の仇名に驚いていた。
「本当にいいとこの出なんですね」
「今まで語る機会が無かっただけだ」
「ま、言われても……私の気持ちは変わらないでしょうけど」
だな。
この黒いワゴンは学校前で止まって、杏子を回収。そのあと駅前で俺を回収。さすが杏子と同じ車に俺が乗るタイミングを合わせるわけにもいかず。こういう形になった。
「これからは車で送迎されるの?」
「防弾対策をしているから、この車が安全ってだけだ。そうじゃなくても近頃物騒だし」
「犯罪組織がエンタメプロを狙っている……っていう噂は本当?」
「さてな」
実際に知りもしない。だが知ってどうなるだろうとも思っていて。
「他のメンバーも車でこれから送迎するんだぞ」
「私と佐倉くんは同じ学校だから、一緒にってわけだ」
分けるのもそれはそれで違うしな。
「さ・く・ら・く~ん?」
「何か?」
「パンツいる?」
「ああ、もらう」
「え? 本当に?」
「くれるんだろ? 早くしろよ」
「そうやってスルーすれば私が怯むとでも……」
「思ってないから早くくれ」
「くぅ。これで勝ったと思うなよー」
とか言いつつ、彼女はパンツを脱いで俺の頭に被せる。角夢杏子の脱ぎたてパンツが、今俺の頭に乗っかっている。最近彼女のパンツを手に入れる機会も多くなったな。元々そっちの癖はあったのだろう。彼女は想い人にパンツを捧げることを癖としている。そのままエンタメプロの所有ビルまで。都心で車は少し効率悪いが、そこは飲みこんでもらう方向で。ちなみに頭にかぶっていたパンツはすでに杏子の股間に。それもそれでどういうプレイだ。
「えー。佐倉コーポレーションから派遣されました佐倉マアジです。マネージャー業務はやったことないので、足を引っ張らないように相努めます」
それから七人のアイドルに三人の専門マネージャーがついて、その専門マネージャーを俺が統括するということで話がついた。もちろん俺に求められている役割はアイドルの護衛。銃撃してくる犯罪者から身を挺してタレントを守るのが仕事だ。特に行きと帰りは要注意。
「よろしくだぞ。マネージャーさん」
で、ニコニコ笑顔で、ルイが手を差し出してきた。もしかして握手か。
「は~んどしぇ~いくッ」
で強制的に俺の手を握って、またニコリ。うわぁ。俺ルイと握手してるよ。家では立っていれば男でも使うあの黒岩ルイが、外用のアイドル顔で俺と握手をしている。これはちょっとテンション上がるな。アイドルの黒岩ルイも、ある意味で希少だ。
「…………よろしくオメガいします……マネージャー」
「よろしくだにゃ。マネージャー」
「よろしくデス」
「よろしくお願いいたしますわ」
「くく。テスタメイトはついに俺のところへ……」
リンゴだけは何言ってるか分かんないんだけど。
「よろしくですよ。マネージャー……さん?」
で、最後に杏子が握手をして顔合わせは終わり。それから今後のオメガターカイトについての説明に移る。とにかく現状どこで銃撃事件が起こるか分からないので、ここでは慎重を期する。ドーム公演は半年先に控えているので、そこは抑えるとして。送り迎えは基本的に佐倉コーポレーションが用意した車限定。もちろん乗る前に車のナンバーを確認すること。箱ライブは基本的に自重しないが、それも状況次第。一度様子見にやってみて、事件性があればその時に議論。さすがに客に犠牲者が出ればシャレになっていないので、探り探りでやっていく。
「あー、あと、全員のアカウント教えてください。これは後でで構いません」
既に全員のを持っていると自白するわけにもいかず。仕方ないのでこういう方向で。で、しれっと「全員からアカウント聞きましたよ?」みたいな態度とればオーケーだろう。
「マネージャーは今日は何をするんですか?」
「アニメの視聴」
「いや。仕事しましょうよう」
ガクッとずっこけている杏子には悪いが、俺のモチベはさほど高くない。あえて言うならアイドル顔のルイとタマモにハイテンションなだけだ。
「っていうかマネージャー若いぞ。新入社員?」
で、初めて会ったマネージャーにいそいそと近づくアイドルみたいな態度で、ルイが聞いてくる。
「バリバリ学生だ」
「…………佐倉さんってことは……佐倉コーポレーションの?」
知っていて聞くなって話だが、話しを進めるためにも必要なのだろう。
「ええ、ちょっと御縁がありまして」
銃撃が効かないのは俺のアドバンテージだ。
「この俺の必殺極滅セイバーファイバーでも効かないのか?」
「強度に関しては自負しておりますが」
何の話だ。
「マネージャー。じゃあ今日はダンスの練習見ていってくださいよ」
杏子がそのように提案する。
「いいので? オメガターカイトオタの俺がアイドルの練習姿を見て?」
「マネージャーなんだから遠慮は無し無し。ルイたちもいいよね?」
「構わないぞ」
「…………大丈夫です」
そうして合意を得て、俺はオメガターカイトの練習パートを見ていくことになった。もちろん眼福だ。鏡の壁に向かって振り付けを確認する七人は真剣で、俺にしてみれば尊い以外の言葉が無い。
「はわー」
「どうだった。マネージャーさん?」
一旦ダンスが終わって、感想を聞いてくる杏子。
「最の高!」
グッとサムズアップの俺。鼻血が出そうだ。それくらい尊い。
「私可愛かった?」
「とってもだな」
「そ、そっか。それなら嬉しいな」
いっちょ前に照れて、スポドリを飲む杏子。
「マネージャーさん。ボクの踊りはどうだったぞ?」
「とっても尊かったです! マジ有難み」
俺がキラキラした瞳でルイを絶賛していると、
「むー……」
不満そうに杏子が俺の頬を引っ張る。どうにも俺が推しに熱中するのが面白くないらしい。とはいえだ。俺としてもルイとタマモのダンス練習を見れるのは目の保養で。もう推ししか勝たん。しかも最近レベルアップしたルイのEカップがタユンタユン揺れて幸せの極致。南無。




