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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第144話:助けてドラゴエモン


「というわけで助けてくださいだぞ」


「…………お願いします」


 何を、といえばオメガターカイトを……というかエンタメプロを、らしい。休日に起きて、そのままラーメンでも作るか、と冷凍系の袋麵を考えていたら、そんな言葉がかかった。駅近マンションの十三階二号室。つまり俺の部屋であり、ルイとタマモは擬似的な同棲中。俺的にはどうよと思うが、まぁそれはそれで。


「助けろと言われても」


 既にエンタメプロの惨状は社会的にも問題になっている。そら会社に銃弾撃ち込まれたらニュースにならない方がおかしくて。ついでにこれはニュースになっていないが、社員が脅されていて、辞職する人間が多数存在するとのこと。それも引き継ぎも無しに。たしかに犯罪組織に狙われた会社に一秒でもいたくないというのは俺の側でも察せるのだが。


 当然ながらエンタメプロがそれでうまく回るはずもなく。マネージャーも不足して、営業もマンパワーが足りず。抱えている仕事が多すぎて、今は場当たり的に銀行と営業先に最低限の仕事をしているだけ。アイドルのプロモーションなどできもしないのが現実。


「とすると……」


 俺にエンタメプロを救うことが可能かと言われると限りなく不可能で。


「やっほー! マアジちゃん! お姉ちゃんがやってきたよー!」


 なわけでサヨリ姉を召喚するより他になく。佐倉コーポレーションの社長をしている彼女なら、あるいはいい考えもあるんじゃないかと。で、このままグダグダしていてもしょうがないので、俺はあらいざらいエンタメプロについての現状を話した。場合によってアウトサイダーになりかねないのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「あー、犯罪組織にねー」


 で、話を聞いているのかいないのか。ホケーッとサヨリ姉は言って、


「じゃあ」


 俺の淹れたコーヒーを飲みながらあっさりと言った。


「じゃあお姉ちゃんが買おうか? エンタメプロ」


「買うって……」


 可能ではある。エンターメイトプロダクションは株式会社であるし、金さえあれば買うことはできる。ただ相手が了承するか?


「それじゃルイちゃん。社長にアポとって。佐倉コーポレーションの社長がお話がありますけど、いつなら面会してくれますかって」


「えーと」


 もちろん経済のことなどルイは分からないだろう。それはタマモも同じ。ついでに俺も同じ。だが既にサヨリ姉には青写真があるらしく。


「いいからアポとって」


 の繰り返し。


「マジで買うのか? エンタメプロ」


「別に難しくはないかな。お金はあるし。株式購入は別に消費する類のお金でもないしね」


「あのー。社長が騙されているんじゃないかってボクに忠告してきたぞ」


 そりゃそうなるよな。会社の危機に助けてあげましょうかとか言う企業が現れれば、誰だって詐欺を疑う。まして犯罪組織に関わっている会社の救済だ。場合によってはマッチポンプもありうる。今回に限り、勘違いだが。


「よしよし。企業判断としては正解ね。そこら辺はちゃんとしているのね」


 だからって佐倉コーポレーションが関わらないと話が先に進まんのだが。


「よし。じゃあ撮影会をしよう」


「撮影会?」


 クネリ、と首を傾げるルイ。


「十二階の二号室にマアジちゃんの衣裳部屋があるから。そこでコスプレして撮影会。顔さえ映っていれば問題ないでしょ? あとは当社ウェブサイトの顔と比較して貰って、私が本人だって認めてもらえばいいじゃない」


 ああ、そういう。


「と、いうわけでホイ! 撮って!」


 月光聖女ムーンバルカンの衣服を着たサヨリ姉が、その魔法のステッキを持ったまま、俺の部屋でコスプレ写真を撮られている。悪夢だ。


「じゃあ次コレ。如月アイドルの衣装!」


 そうして俺の女装用コスチュームを着て、写真に撮られているサヨリ姉はノリノリで。まぁ別に俺としてもコスチューム代は家の金から出ているのでサヨリ姉が着ることには文句も無く。


「ふいー。いっぱい撮れたね」


 で、やり切った顔をされているところ申し訳ないのだが。


「ウィッグ付けていたら本人の確認取り様が無くね?」


「そこに気付くとは……こいつ、かなりのキレ者……」


 なわけで一般的な写真も送って、「会社のウェブサイトと比較よろしくオメガいします」という何のためのメールか分からないメールを送る。もちろんサヨリ姉たっての希望で、コスプレ写真も一緒に同梱。何の意味があるかって? 俺に聞いてもしょうがないだろう。


「え、マジで佐倉コーポレーションの社長さん?」


 エンタメプロの社長も困惑気味だった。そら本物の佐倉社長が現れれば、頭を疑うのも自然で。


「だからアポとってほしいって」


 本当だよー、とコメントを打って、それから社長にスケジュールを確認してもらう。


「明日だなー」


 そういうことになった。いきなり過ぎないかという意見もあるが、すでにエンタメプロが機能しておらず。仕事は最近のことを回すだけらしい。暇かと言われると暇じゃないが、佐倉コーポレーションの社長が面会したいと言ってきて、それを蔑ろにするほどのものでもないらしい。


「じゃ、明日は頑張ろうね! マアジちゃん!」


 ニッコリ笑顔で言ってくるサヨリ姉の言葉が俺にはよくわからない。


「俺が何を頑張るんだ?」


「もちろん初めて会う人に面会なんてお姉ちゃん緊張しちゃうからマアジちゃんも同行するんだよ?」


 お前……英語ペラペラで国際的な活躍もしておきながら、いまさら何言ってんだ。


「え? じゃあマアジが事務所に来るってことだぞ?」


「…………マアジが」


 そこ、照れているところ悪いが何もしないぞ。


「いいじゃん。どうせマアジちゃんも心配でしょ? 一緒に行った方が何かとお得だぞ」


 何を得するというのか。まぁ暇なんで付き合うのはいいんだが。ソレで俺は何をすればいいんだ?


「じゃあ決まり! 今日はお姉ちゃんに御飯を作ってくれること」


「飯はいいんだが……」


 そんなわけで、五人で飯を食うことになった。俺とルイ、タマモ、サヤカ、サヨリ姉。


「ただいま~。あ、サヨリお姉ちゃんだにゃ。お久しぶり~」


 サヤカにしてもサヨリ姉とは面識がある。何回かはあっている。一応サヤカもオーバリストなので佐倉財閥としては庇護の対象。


「サヤカちゃん。元気そうね」


「マアジお兄さんのおかげだよ」


「サキュバスの夢って何でも出来るの?」


「何でもというか。想像できることだけ」


「マアジちゃんの出したものでバスタブいっぱいにしてうんぬん」


 そんなに出ねーよ。


「それくらいにゃら余裕だにゃ」


 いや、ちょっと待て。俺の側にも憂慮というものが。


「マアジちゃん?」


「だから出ねーって」


「量の調節はこっちでするにゃーよ?」


 そういう問題じゃねーんだよ。


「たまに思うけどサヤカって上級者だぞ」


「…………ルイにだけは言われたくないんじゃ……」


 タマモのツッコミが正しい。


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