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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第143話:崩壊の予兆


「こちらでも捜査はしますので。どうか逸らないでください」


 警察はそう言って、エンタメプロを離れた。エンタメプロの社長は一応日本警察に頼って、捜査を頼み安堵する。明らかに今回の脅迫状は悪戯だろうと思っているが、アイドルの運用においてマイナスになっているのも事実で。オメガターカイトが国民的になったのだ。嫌がらせなどは絶えなかったが、それはそれとしてこういう脅迫状は社長にとっても困る。ルイにしろタマモにしろ、全てエンタメプロの財産だと言えばその通りで。なので失うわけにもいかないのだ。


「はー。こういうことが起こると肩がこるね」


 エンタメプロを難く思っている人間が国内でもそこそこいるのは知っている。だがだからといって営業を取りやめるわけにはいかず。


「ルイくんたちは大丈夫かね?」


「ええ、一応自宅で待機してもらっています。特に問題があるとも言っては来ていませんが」


 オメガターカイトはエンタメプロのドル箱だ。丁寧に取り扱うのは当たり前。


 そうして脅迫状に関してはこの際無視して、営業回りの社員は馬車馬のように働かせる。マネージャーはタレントと連携を取って、一応の様子見。ここで脅迫に屈しては商売上影響が出る。そんなことを認めるわけにもいかないのだ。


「警察は突き止めますかね?」


「わからん。相手も尻尾を出すとは限らんしな」


 脅迫状はご丁寧に印刷書類で送られてきた。誰が投函したのか。フードを被っていたので監視カメラでも特定は難しい。というかそんなことは警察の仕事で、プロダクションが犯人を特定できるなら世話はない。


「学校には行かせていいと思うかね?」


「どうでしょう。脅迫状の主がタレントにまで手を伸ばすか。そこにかかっていると思いますが……」


 副社長はそう言うほかなかった。ルイとタマモは芸能科の高校なので問題ない気はするが、気を抜いて商品が傷モノになってもうまくない。


「タレントは自粛させて、営業だけ回そう。相手がエンタメプロの営業停止を求めている以上、それで反応を見るしかない」


「ですね。ではその通りに」


 そうして社長と副社長は結論付けた。それから問題なく営業をかけてエンタメプロは仕事を回していた。そして脅迫状から三日後。タレントは動かしていないが、社員が動いている会社でのこと。


 ガシャァンッッッ! と所有ビルの玄関が割れた。ガラス製の自動ドアだった。強化ガラスだとはいえ、衝撃が一定以上であれば割れるのも道理だ。会社全体に戦慄が走り、社員が悲鳴を上げる。そうして警察と警備会社を呼んで、そこで事件性が明らかになった。


 玄関ドアに銃弾が撃ち込まれたのだ。それも実弾銃。もしもドア付近に人がいれば。そう考えると社員全員が身震いした。同時に玄関の傍に第二の脅迫状。


 このまま会社を運営すれば最悪の事態にうんぬんかんぬん。まるで個性の無い無機質な印刷文字が脅迫文を綴っていた。


「相手は銃を持っているのか……」


 もちろん警察沙汰。さすがの警察も国内で銃が使われれば腰を上げずにはいられない。それでソーシャルカメラを追って犯人を特定しようとするが、相手はそこまで計算して巧妙に姿を消していた。


 相手が銃を持っている。それを前提に捜査を進めなければならない。警備会社も気合が入り、警戒態勢は完全に引き上げられていた。


 そうして警察の捜査と警備員の警護。その努力を嘲笑うように、第三の事件が起きた。


「しゃ……社長~……」


 社員の一人が、辞職を求めてきた。


「何故だ?」


 社長が聞いたのも必然。副社長も同席していた。


「今日ウチのアパートに脅迫状が投函されていて……」


 という社員は顔を真っ青にしている。


 エンタメプロを辞めなければ殺す。


 そんな脅迫状が投函され、ついでにその封書には銃弾までご丁寧に入っていた。仮にこのままエンタメプロを続けていると銃殺される。その様に社員が危惧するのは当然で。もちろん仕事には引継ぎなどもあるが、そんなことを言っている場合でもない。銃弾入りに脅迫状を貰った社員は今すぐにでも止めたがっていた。というか「辞職書類は後で送るので、とにかく明日からはもう出勤もしません」と一方的に言い捨てて、会社を離れていった。引継ぎもせずに去っていく社員を、それでも引き止める言葉は用いず。社長にしても我が事だ。玄関を銃撃されて、社員のポストに銃弾付きの脅迫状を送る。相手はガチでエンタメプロを標的にしている。しかも一切笑えない妥協無しで。


 もちろんこれは全国的にニュースになり、ネットでは同情的なコメントが多発した。オメガターカイトが活動自粛すると困る日本人は多い。特にドルオタ界隈は致命的だろう。ルイやタマモのファンというのはそれほどまでに多いのだ。


「脅迫に負けないでくれ」


「ルイちゃん大丈夫?」


「拳銃持ってイキがってるバカ出てこいや」


「ホント最低」


 脅迫犯をこき下ろすコメントは多かったが、問題はそれが事態の解決に導かれないことで。エンタメプロを応援する声はあっても、それより社員の方が深刻なまでに問題になっていた。


「俺辞めていいっすか?」


「私も辞めさせてください」


「今月の給料要らないんで……」


 既に脅迫犯の魔の手は社員全体に及んでいた。ある社員は玄関に銃痕を穿たれ。ある社員はナイフで脅され。ある社員はペットを襲われていた。ほぼ全ての社員が何かしらの形で脅され、その恐怖故に仕事もままならない。


「ちょっと待ってくれ! 君たちに抜けられると!」


 そもそも引継ぎがどうとか言っている場合ですらない。社員が六割も抜ければマンパワーが圧倒的に足りなくなる。まさにエンタメプロの崩壊が始まっている。


 だが相手が組織立ってエンタメプロを追い込んでいるのは事実で。命の危機が有ってまで芸能事務所で働きたいなどという猛者はそうそういない。あくまで辞めていくのは六割くらいだが、残り四割も何も思っていないわけではないのだ。いつ事務所に爆弾を仕掛けられるのか分からない状況で、粉骨砕身しろと言われても身が入らないのも事実で。


 もちろんマネージャーにも人が足りない。仕事を依頼した会社との連携もままならず。タレントとの連携の不足や提携先の会社との摩擦も大きくなる。


「大丈夫か? エンタメプロ」


「最近オメガターカイトが動いてない」


「っていうかヤの字に狙われてるってマジ?」


「それってヤバない?」


 そうしてエンタメプロの衰弱が徐々に目に見えてきて。既にルイたちにも違和感を届ける程度には状況の悪化は著しく。


「社長。真面目に大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


 心配をかけると分かっていも誤魔化しようも無く。社員が六割も自主退社して会社が回る方がどうかしている。残り四割で預かっている仕事を回して、しかも銃撃による恐怖でパフォーマンスを発揮できない状況だ。これでどうしろというのか……というのは社長の偽らざる本音だった。


 すでに崩壊の予兆は始まっている。社員にとっても限界が近い。社員募集をしても、銃撃事件を起こしている会社に誰が面接に来るというのか。状況は最悪を極める。一応警察も組織犯罪対策課が動いている。相手は暴力団か、あるいは海外の犯罪組織。もちろんエンタメプロをターゲットにしているのだから依頼があったのだろう。大金を払ってでもエンタメプロを潰したい。そう思っている資産家が裏で動いていると見れば決してあてずっぽうでもない。仮に海外の犯罪組織が動いているなら銃を使うのも自然だ。相手は警察を重視していない。それこそ鉄砲玉が捕まっても、組織そのものとしては全く揺るがないのだ。銃撃しているのは末端の人間。大金を受け取っているのは上層部。隔絶の壁があった。


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― 新着の感想 ―
度を行き過ぎた事でガチギレしたマアジが絞めるのか? それとも佐倉財閥の庇護対象のオーバリストメンバーにも危険が及んでるって事で、財閥総出で相手になるのか?
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