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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第136話:ディーヴァラージャのライブ【ヲヒメ視点】


 頑張れ私!


 パンッ……と鏡の前で両頬を打つ。気合を入れるのに適していると言えばその通り。今日のライブは佐倉さんが来る。絶対ここで推しにしてもらうんだ。


「気合入ってるじゃん。ヲヒメ」


 ニヤニヤと笑うジュリちゃん。彼女には私の事情を教えている。アイドル的にはNGだけど、私の恋がどうしようもないのも事実で。であれば「好きにすれば?」しか言えなくなるジュリちゃんの立場も無責任だ。


「気合入れるってことは」


「そ。来るの。彼」


 最高のパフォーマンスをする。そのためなら魂すら悪魔に売る。


「ヲヒメの想い人かぁ。幸せじゃん。その人」


「えへへ」


 ニッコリ笑って、それから待機。そうしてライブの開始時間が近づいて、スタンバイを求められる。明るく照らしていた観客席が暗くなって、全体的に闇に落ちる。そこに私たちがステージに立って、バンッと照明がつきステージが明るく照らされる。まるでいきなりディーヴァラージャが現れたような演出だけど、こういうのはベタな方が受けがいい。


 プログラムは決まっている。最初はいきなり歌いだすのだ。


「つまずいた日もあるよね♪ 涙こらえた夜も♪」


「だけどキミは立ち上がって♪ 夢をあきらめなかった♪」


 ザワリ、と観客がざわついて、それから箱全体が照明で輝く。ワァッと騒ぎ出す観客の熱気が、今の私にはとても応援で。


「ヲヒメちゃーん!」


「ヒメっちー!」


 ピンクのサイリウムを振って、私を応援してくれるファン。その期待に応えるために、いきなり私はダンスをキレッキレに踊る。ディーヴァラージャは歌をメインとしたアイドルだ。けれどそれはダンスを蔑ろにしているわけじゃない。どっちかが優れていればとってもいいけど、じゃあ両方優れていれば最高じゃん!


「曇り空の向こうにはきっと光が待ってる♪」


「その笑顔、信じていて、ずっとそばにいるよ♪」


 瞬間的に始まったライブが、いきなり最高潮に盛り上がる。私はマイク片手に踊りながら、観客のスペースに目を走らせる。今日は来ているはず。来るって言ってた。佐倉さんが、私を見に。瞬間、私の目にピンクのサイリウムが映る。私を推す時のカラーで、そのサイリウムを持っている佐倉さんが目に入る。既に販売スペースで買ったのだろう。法被を着て、鉢巻を巻いて、ガチ勢そのままで、彼がいる!


「キミの明日が輝くように♪ この歌を風にのせて♪」


 こっちのテンションが否応なく上がるのを自覚する。嬉しい。こんな私のために破ってもいい約束を律儀に守ってくれる佐倉さんの熱意が……とても……すごく……心に響く。


「悩んで、迷って、それでも進む♪ キミの強さが希望になる♪」


 であれば歌うだけ。踊るだけ。他には何もいらない。今日のライブを佐倉さんから最高だと言って貰えるように、私は歌い狂って、踊り狂う。


「ひとりじゃないよ♪ いつだってキミの味方だよ♪」


 そうして一曲終わって。


「こんにちはー! 今日は来てくれてありがとー!」


「「「「ディーヴァラージャです!」」」」


 四人でウィンクして、指鉄砲を観客に打つ。


「新年最初のライブだね!」


「私勝負パンツ穿いてきたよ」


「ちょいちょい。レーティング守って」


 そこで客がどっと笑ってくれる。私も笑った。ここでは悪ノリも笑顔の一つだ。


「新年最初のライブってことで気合入れてきたけどさ。みんな新年の目標ってある?」


 リーダーのリオちゃんが話を振ってくる。


「まぁそりゃ、ドームライブとか?」


「もっとディーヴァラージャを人気にしたいよね」


「わかる。国民的になりたいじゃん?」


 三人とも嬉しそうに話す。マイクパフォーマンスもアイドルの仕事だ。ネットでもそこそこ有名で。コマーシャルにもそこそこ出て。トップアイドル……とまでは言わないけど、決して中堅のアイドルでもない。そんな微妙な人気。


「ヒメっちの今年の目標は?」


 言っちゃっていいのかな? いいよね? いいと思う。別に怒られるわけじゃないんだし。


「私もディーヴァラージャを人気にしたいよ!」


「いいねぇ。いいねぇ。もっと盛り上げていこうよ。具体的には?」


「そーだなー」


 と、いったん悩んだふりをして。


「じゃあ目標!」


 ビシッと、私は観客を指差す。さすがに佐倉さんを指差す真似はしないけど。


「オメガターカイトより人気になる!」


「ちょいちょい。そこはうちの事務所のドル箱じゃないの?」


「あ、それでもいいんだけど。なんとなく昨日オメガターカイトの動画見ちゃって」


「あー。そういう。たしかに敵を知り己を知れば百戦危うからずだね!」


「そそ。別事務所だけど、立派な競合っていうか」


「いいじゃん。オメガターカイトを超える。それも努力目標としては悪くないじゃん?」


「見ていろエンタメプロ! 私たちが追い越すぞ!」


「だから別事務所の名前をですなー」


 ブラックジョークでみんな笑って。けれど私だけは本気で言っている。オメガターカイト推しの佐倉さんをこっちに振り向かせるには、ディーヴァラージャをオメガターカイトより人気にしなければならない。そのためなら私は何だってするのだ。


「じゃあ勝負パンツの話に戻るけどー」


「それは忘れて~」


 そうして二曲目が始まる。私の視線は佐倉さんをがっちり捕まえる。もう嬉しくてしょうがない。佐倉さんが見ている。それだけで、私は乙女の顔になる。


「「「「「……ッ……ッ……ッ」」」」」


 佐倉さんを見て、私が嬉しくはにかむと、ピンクのサイリウムが勢いよく振られる。まるで私のファンがテンションに呼応するように。


「ヒメちゃーん!」


「ヒメっちー!」


 私の歌とダンスを楽しんでくれているファンが私を呼び。そして私はさらにパフォーマンスを練っていく。佐倉さんがピンクのサイリウムを振って応援してくれる。それだけで、私にとっては何よりも嬉しい声援になるのだ。


 ディーヴァラージャのディーヴァは歌姫のこと。だから私の声はファンに届いて、だからきっと佐倉さんにも届いているといいな。そうして曲を歌って、マイクパフォーマンスをして、ソレを繰り返して、最後に。


「「「「ありがとうございましたー!」」」」


 ライブをやりきって、ディーヴァラージャは新年初ライブを終える。佐倉さんも盛り上がったらしく、汗を流して喜んでくれていた。まさかグループ推しの法被や鉢巻までしてくれるとは予想外だけど。それだけ佐倉さんもドルオタだということだろう。こんな狭い箱で申し訳ない。次はドーム公演に誘いたいな。


「それじゃあねー」


「握手会もあるから帰っちゃダメだぞ」


「今日はありがとうございました」


 ディーヴァラージャのみんなも満ち足りた顔をしている。私たちのライブは大成功。佐倉さんが何点をつけるのかは気になるけど、でもいつもより高いクオリティにはなったと思う。でもオメガターカイトのライブより盛り上がったかって言われると。それは客観視できないので何とも。でも嬉しいな。佐倉さんがピンクのサイリウムを振ってくれた。それだけで私の勇気になる。もっと上に行きたい。佐倉さんが私を推しって言ってくれるまで、このアイドル坂を駆けのぼりたい。あれ、これは打ち切りフラグ?


「乙でしたー!」


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