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第133話:オメガターカイトより人気に


「きょ、今日はよろしくお願いしますッッ」


 しょっぱなから緊張している桃野さんは目元のクマをコンシーラーで隠していた。眠れなかったのかツッコもうかとも思ったが、おそらく生産性はない。


「お待たせしました」


「いえー。今来たところで。あ、これなんかデートっぽいですね」


「じゃあ宇宙意思の有無について議論を深めるとして……」


「そんな自然哲学について語り合うんですか!?」


「超弦理論における十二次元目の必要性の方がいいか?」


「私は馬鹿なので! そういう会話は……そのぅ……」


「大丈夫だ。俺も理解してないんで」


「揶揄いましたね?」


「謝罪を込めてお茶を奢ろう」


 そういうことになった。もちろんルイとタマモには許可を取っている。というか桃野さんとコメントのやり取りをしているのがルイということもあって、彼女は少し桃野さんに警戒が薄い。いいのかそれでと思わんでもないが。彼女的にはディーヴァラージャのライブに行きたいのだろう。だからって、サングラスにマスクをして、フード付きコートで全身を隠してストーカーされると、怖気を覚えないでもない。アレで嫉妬深いから、俺と桃野さんのデートもよく思っていないだろう。タマモとなるとさらにだ。二人一緒に俺をストーキングしているんだから、一応のところでは暇なのだろう。


「佐倉さん?」


「ああ、なに?」


「喫茶店に着きましたけど……」


「じゃ、入ろうか」


「はい!」


 そうして二人で喫茶店に入る。俺はカプチーノを。桃野さんはなんとかという紅茶。あんまりそこら辺は覚えていない。


「ちょっと不思議です」


「何が……と聞くべきところか?」


「その。男の人とこうやってデートするのって憧れていて。それが佐倉さんとだなんて、結構幸せでして」


「俺は然程の存在でも無いぞ」


「カッコいいって言われません?」


「まったく言われないわけじゃないが……」


「じゃあ、断言してあげます。佐倉さんはカッコいいです」


「それは……ありがとう」


 カプチーノをすっと飲む。


「佐倉さんは私とデートできて嬉しいですか?」


「嬉しくないとは言えんな」


「この後用事は?」


「今日はお前のために時間を割いているから」


「じゃ、じゃあ、この後…………私と……」


「私と?」


 俺がそう聞くと、カァーッと桃野さんは赤くなった。大体それで何を言いたいのかは察してしまう。もちろん俺にはノーだ。


「その。察してくださいよ……」


「無理」


 今更俺の童貞性に言及されても、それはそれで無理筋で。女の子とヤるなんて、童貞の俺にはあまりに難題だ。


「ああ、先に」


 そうして俺は一万五千円を渡す。ディーヴァラージャのライブチケット三人分。既に報告を受けている通りだ。


「お友達と一緒に来るんですよね?」


「そうだな。お友達だ」


 ガールフレンドだが。


「その、女子?」


「違う」


 あっさりと虚偽を報告すると、桃野さんは救われたように笑う。俺の虚偽で、だ。


「で、桃野さんのサイリウムの色は?」


「ピンクです」


「名前から?」


「桃野ヲヒメなので」


 まぁ納得といえば納得。


「佐倉さんはディーヴァラージャだったら、誰が推しですか?」


「桃野さん以外は知らないから」


「暫定王者……みたいな?」


「でも全員可愛いんでしょ?」


 たしか四人組だと聞いているけど。


「そりゃ……まぁ」


 ブスッとしている桃野さんもそれはそれで可愛いわけで。


「っていうか。男と会っていていいわけ?」


「よくはありませんけど」


「じゃあ何で?」


「察してください」


 俺からはっきり言って欲しいのか。


「じゃ、チケットは受け取った」


「来て……くれますよね?」


「金払った分は楽しむ所存」


「絶対楽しませるので。そこは安心してください」


「期待はしてる」


「はい! 絶対いいライブにするので!」


 そうして、桃野さんは紅茶を飲む。彼女が何を思って、俺と接しているのかは察せないとしても。


「その。もしそのライブが良かったら……推し変とか……」


 無理。というのは簡単だが。


「俺にとってオメガターカイトは特別だから」


「佐倉さんにとってのオメガターカイトって何ですか?」


「最高のアイドルグループ」


「じゃあ、その最高を超えたら……私を推しに……」


「オメガターカイトより人気に……ってこと?」


「そうです。佐倉さんの隣に立って、恥ずかしくない芸能界で成功したアイドルになれれば…………」


 自分が何を言っているのか。それを彼女は分かっているのだろうか。


「オメガターカイトを超えるって本気で言ってる?」


「佐倉さんにとっては妄言かもしれませんが」


 妄言というか。まぁ妄言か。


「ディーヴァラージャはきっと人気になるので、そしたら私と付き合ってくれませんか?」


「その時にまた言ってくれ。ここで断言はできない」


「わかりました。ディーヴァラージャを人気にしてみせます……」


「そこはわからなくていいんだけど……」


「きっとディーヴァラージャは最高のアイドルになります。なので……」


「あー。はいはい」


 チケットも受け取ったし。あとはダラダラするか。


「そのぅ。デートの記念にキスとか……」


「生憎とそこまでサービスはしない」


「佐倉さんはケチです……」


 ていうか、ここでキスしたら桃野さんがルイとタマモによって刺されるんだが。そこまで把握しているか? 俺的には殺傷事件なんて御免だ。


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