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第131話:三学期開始


「…………」


 始まらなくてもいい三学期。新年も始まり、オメガターカイトの新年ライブも行き、ついでになんか桃野さんに執着され。そうやって冬休みが終わると、三学期が始まった。俺は何時もの通りにフェイクメイクをして、学校に登校。そのまま昇降口で上履きに履き替えていると。


「…………」


 何とも言えない人物と出会った。出来れば会いたくなかった類の人間だ。俺からどう話しかけるのかも迷ってしまい。


「どもっす」


 とりあえず頭だけ下げて、そのまま通り過ぎる。


「あなたは……言わないのね」


 素っ気なくそう言って、毒島さんは歩き出す。俺はその言葉の真意を知っていながら、別にフォローをすることもなく、いつもの教室に顔を出した。


「あけおめー」

「あけおめー」

「ことよろー」


 どうせイランで新年の挨拶はしているのだろうが、教室でも「あけおめ」と「ことよろ」は忘れないらしい。俺には一言もないが。何時もの通りにラブコメ主人公にあるまじき教壇前の席に座り、一人スマホを弄りだす。今日は午前中は全校集会。午後から普通に授業。一応進学校なので勉強に関してはどん欲だ。特に三年生はセンター試験やら大学受験やらいろいろあるので、気を張り詰めているだろう。俺の成績はほどほどと言うと嫌味になるので上の中くらいと自慢してみる。自慢する相手がいないが。全校集会が終わって、そのまま昼休み。俺は学食に向かって、それから二人用の席に一人で座って天津飯を食っていた。勉強は嫌いじゃないし、青春もしているので、俺的にはまさに青春。


 っていうか桃野さんとのデートって何をすればいいんだ?


 チケットだけ受け取って帰るのってありだろうか?


「さ・く・ら・く~ん?」


 で、一人虚しく天津飯を食っていると、猫なで声で鼠が逃げ出すタイプの名前呼びをされた。そんな奴が二人も三人もいるはずがなく。


「杏子か」


「あけおめー。ことよろー」


「どうも」


「三学期始まっちゃったですねー。私的にはもうちょっと長くてもいいっていいますか。あ、新年のライブ来てくれたでしょ。ありがとね」


「オメガターカイトのライブは俺のジャスティスだからな」


「黄色のサイリウムを振って欲しいんですけど」


「すでにお前は推しじゃない」


「私の気持ちを知っていて?」


「関係ないね」


 ハグリ、と天津飯をかっくらう。


「佐倉くんが良ければやっちゃっていいんだけど」


「お願いだからそういうことを公衆の面前でだな……」


「佐倉くんも私のこと好きでしょ」


「俺の足を踏むな」


「嬉しくない?」


「御褒美です」


 さらにギュッと踏まれてしまう。


「私を推して、くれるよね?」


「睾丸無チンなもので」


「それでも男の子?」


「毒があるのに食おうとは思わんよ」


「日本人なんだからフグ毒があろうとフグを食う気概を見せてよ」


「それで犠牲になった日本人って今のフグ食文化見て何を思っているんだろうな?」


「一応言っとくけど毒は持っていないからね」


「そういや春って梅の季節だな」


「梅の毒も持ってないですよ」


「せめて診断書を持ってこい」


「提出したらやってくれるの」


「お断りだ」


 握り拳から親指を立てて、俺はその親指を下に向けた。


「ケチ」


「アイドルとやってたまるか」


「エッチな女の子は嫌い?」


「大好きだ」


「クリスマスの自撮り写真は使ってくれた?」


「そこまで上級者じゃないんで」


「角夢杏子のミニスカサンタコスですよ?」


 他六人がサンタコスで童貞の童貞を童貞するシチュエーションで楽しんでいたって、どうやったら角を立てずに報告できる?


「マアジも好きでしょ? ああいうの」


「大好きだ」


「エッチな自撮りとか送ったら使ってくれる?」


「ノーセンキュー」


 あと性的な話題から離れろ。飯がマズくなる。


「つまんないのー」


「っていうか俺と会話してていいのか?」


「あ、パンツいる?」


「ご遠慮願います」


「ま、ここではそう言うしかないよね。じゃあ後でね♡」


 最後のハートマークがとても気になるが、まぁそういうことなのだろう。


「じゃ、あとで」


 俺はそのまま食器をお盆ごと持って返却棚に返した。どうせオーケーマアジを使われるのだろうが。それによって杏子のパンツを受け取ると、俺の中の何かが覚醒しそうだ。まぁルイとタマモの彼シャツ姿ほどは興奮しないのだが、それを言うわけにもいかず。


「戻るか」


 いつもの誰とも話さない教室へ。俺の下着ドロボー案件については誰もが知っているし、なおかつSNSで拡散している。なので俺には友達がいなくて、顔見知りなんて杏子くらいだ。そのことを学校も取沙汰したりしないし、俺としても解決する意思はない。別に言わせておけばいいのだ。


「じゃあ去年からの続きだが」


 数学の教師が黒板に数式を書き、俺たちはタブレットで、既に入力されている授業の内容をなぞる。今時ノートを使う作業と言うのも前時代的らしく、そういえば書道の文化って今の時代ではどういう立場なのだろうか。


「であるからに、この時のXはー」


 つまらない教室とつまらない授業。けれどそれをつまらないと唾棄できる俺が、多分最もつまらない。


「ルイに会いたいな」


 誰にも聞こえない声で、俺はそういう。オメガターカイトの黒岩ルイ。彼女と会うとテンション爆上がりで、俺も生きていていいんだって思わせてくれる。その事に意味があるのかはともあれ。無いなら無いで、まぁ別に。


「この時の曲線に接する……」


 久方ぶりに図書室でも寄るか。それがいい。


「冗長だ」


 こんなことをするくらいならゲームでもしていたい。一体いつになったらAIは人間の仕事を全面的に肩代わりしてくれるんだ。人間総ニート計画はまだしも遠い未来らしい。


 ウェストミンスターチャイムが鳴る。


「じゃ今日はここまで。復習は各自してくるように」


 出来ればしたくないのだが、成績を落とすのも躊躇われるのでせざるを得ないという。でも科学って凡人が天才の領域に踏み入るための技術だよな?


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