第126話:クリスマスデート
「は、はわー! 黒岩ルイちゃん!?」
「こっちは古内院タマモさん!?」
「「尊すぎ! 写真いいですか!?」」
クリスマスの都会の駅。俺と待ち合わせをしていたルイとタマモは、女性ファンからスマホのカメラを向けられていた。
「一枚! 一枚だけでいいので!」
「オメガいします!」
キラキラした瞳で二人を見ている。
「そのー。ネットにアップしないなら……」
「…………一応肖像権もあるので」
困惑しつつ、だがファンに塩対応も難しいということで、一枚だけパシャリ。
「何してんだ?」
で、展開は分かっているが、俺としては挨拶代わりにルイとタマモに問う。
「マアジ」
「…………マアジ」
そうして俺たちは合流する。オメガターカイトの二強が、俺と仲良くしているのは、そりゃファンとしては見逃せない状況で。
「こちらのお姉さんは?」
と俺を見て聞く女性ファン。
「今日のデート相手♡ 他のファンには秘密だぞ?」
「…………じゃあ行きましょう」
で、俺と腕を組んでトップアイドルがデートにくり出す。
「はわー。やっぱり黒岩ルイちゃんとデートできるのってあんなに綺麗な女子限定なんだねー」
「私たちでは到達できない高みだよ。っていうかもしかして別のところのアイドルじゃない?」
「有り得るかも。あんな綺麗な女性他に知らないし。絶対アイドルかモデルだよ」
「いいなぁ。私もあんな綺麗に生まれたらルイちゃんとワンチャン……」
そんな声が後ろ髪を引っ張る。
「にしし。だってさ?」
からかうようにルイがニヤニヤしている。
「まぁ綺麗系のメイクしているし、女性として見られているんなら問題ないだろ」
さすがに男の格好でデートするわけにもいかず。苦肉の策で女装というか。前に告白した時も女装だったしな。
「キスとかする?」
「構わんが女子とでもキスしたら問題じゃないか?」
今日のルイとタマモは仕事メイクだ。つまり周りからは普通にオメガターカイトだとバレている。その二人と一緒にいる美少女が誰だ? みたいな視線も受けるが、そこはそれ。
「適当に服屋でもブラブラするか? ショッピングモールとか」
「デスニートランドとかでもいいぞ?」
「クリスマスにか? 地獄を見るぞ」
「なはは。然り然り」
「…………あたしはマアジとならどこでも」
「夕食は予約してるから。とりあえず昼飯食って庵宿でブラブラするか」
「やた。楽しみ」
「…………ちなみにそれフォーマルじゃないといけないところとかじゃ?」
「個室にしてもらってるから。服装はフリー」
ついでに俺も結構派手めの女性服を着ているのだが。真冬なのでコートはしているが、髪はウィッグで女性を演じているし、控えめのデザインのグラサンで目元を隠している。ちょこっと映画祭に参加する女優っぽいなぁとか思ったが、俺の正体がバレるより万倍マシだ。さすがに男とデートするとエンターメイト事務所に迷惑をかける。
「ちなみに服って?」
「ブランドでも何でも」
「上限は?」
「無し」
「さすが財閥の子息だぞ」
「色んな人に助けてもらって、俺は今ここにいるんだよ」
サヨリ姉もそうだしな。
「でもクリスマスに彼ピとデートって上がるぞ」
「…………ですね……大好きですよ……マアジ」
ギュッとタマモが俺の腕に胸を押し付ける。コート越しなのでいつもよりは安心設計。
「…………」
キョロキョロと周りを見て、誰も俺たちを意識していないと確認を取り。
「ん」
俺はタマモにキスをした。
「…………ふゃ……なんで?」
「タマモが可愛すぎて我慢できなかった」
「…………えへへ。……もうあたしも……イカレています」
「マアジ。ボクも、ボクも」
「後でな」
そうして冬服を見て回る。本来秋に見るべきものだが、流石に十二月に春コーデを見るのも違うので、冬コーデを見ていた。コートとかを買ってもよかったが、そこは二人とも遠慮したのか。インナーの冬服を二着ほど。その後、クレープ屋に出向いて名前の長い注文をして、自撮り写真。もちろん俺は映っていない。学校でサークラちゃんについては披露しているので、最悪の事態を考えて女装していてもSNSにはアップしない方向で。ソーシャルではルイとタマモが二人でクリスマスデートして仲良くクレープ食べています、みたいなノリだった。俺としても一安心。そのままアクセサリーショップに行って、ピアスでも買うかという話になったが「乳首に?」というルイにはチョップをかました。
「で、ここで夕食?」
庵宿区のグランドホテルの高階層。夜景を見ながらフランス料理のフルコース。もちろん俺はここを抑えるためにサヨリ姉に頭を下げている。イケイケの格好をしたルイと、ポップでキャッチーな服装のタマモ。で、映画俳優みたいな恰好の俺。三人でレストランに入る。
「大丈夫? ボクたち場違いじゃないぞ?」
「…………さすがにこれは」
「気にすんな……ってのも無理だろうが、今からフォーマルも無理だろ」
「そーだけどー」
「飯は美味いから期待しててくれ」
「…………食べたことあるので?」
「こういうところはサヨリ姉にちょくちょく連れていかれるからな」
で、席に着く。都会の夜景がきれいな窓張りの壁を背景に、フレッシュジュースを飲んでコース料理は始まった。
「むー」
「何か?」
「サヨリさんと仲いいなって」
「嫉妬してくれるのは嬉しいが、さほどご機嫌な関係でもないぞ」
カルパッチョとかフォアグラとか、とにかく美味が並んだ。
「美味しいけど……明日から運動頑張らないと」
「…………クレープも食べてしまいましたしね」
「でも」
「…………でも」
でも?
「ありがとう。最高のクリスマスだぞ」
「…………愛していますマアジ……この世の誰より何より」
「御機嫌だな」
苦笑して、俺はフランス料理を堪能した。帰りはタクシーで駅まで。そこから駅近のマンションに帰って、部屋に戻った瞬間にキスの嵐。
「ん♡ んんっ♡ ちゅ♡」
「………マアジ♡ んちゅ♡ ぁは♡」
ルイとタマモが俺とディープキスをするのに躊躇いが無く。呼吸を忘れるまで俺たちはキスをした。