第125話:セイント性夜
「ふいー。食ったぁ」
そうして宴は終わり、俺はキッチンで皿洗いをしていた。さすがに全員は無理があるので、三部屋の風呂場で各々シャワーを浴びる。ちなみに恋人権限で俺の部屋のシャワーはルイとタマモが使っている。いいのかそれは。
ピロンとスマホが鳴る。俺は皿洗いで忙しい。
「いいお湯でしたー」
俺のシャツを着て、それ以外何も身に着けていないルイが現れる。
「…………ちょっと複雑」
同じ服装のタマモも現れた。二人で風呂に入っていたのだ。で、彼シャツで湯上りを演出するトップアイドルの二人。マジで芸能誌に見つかったら袋叩きだ。
「ちなみに複雑って?」
「…………ルイのおっぱいが大きくなってる」
たしか正式にEの格上げしたんだったか。
「…………あたしのアイデンティティが」
さほどか?
「いいじゃん。タマモはそれでもGもあるんだから」
「…………レゾンデートルが」
だからさほどか?
「マアジ。マアジ。スマホにメッセ来てる」
「勝手に見ていいぞ」
ルイとタマモにだけセキュリティは教えてある。別に見られて困るようなもん入ってないし。
「どれどれ~?」
「…………なんでしょうか?」
俺が知る由もなかったが、そのメッセを確認して、ルイとタマモが吹き出した。何かのネタ投稿だったのだろうか。だがそもそも俺はメッセを出来る人間がそんなにいない。サヨリ姉と、あとはオメガターカイトのメンバーくらいだ。学校には友達いないし。最近織部っていう手芸部の部長とも懇意にはしているが連絡先は交換していない。
「笑っちゃいけないって……わかってはいるんだぞ……くく……」
「…………でも笑っちゃいますね……ふふ」
俺のスマホにそんな笑えるネタ画像が送られてきたのだろうか?
「ネタっていうか。まぁネタだぞ」
「…………ちょっと……ふふ……無理……」
皿洗いを終えて、俺はスマホを見る。
「おー」
で、スマホを見ると、
「メリークリスマス佐倉くん。これ。私のサンタコス」
と杏子のミニスカサンタコス自撮り画像が送られてきた。ついでに「抜いてもいいよ」とコメント付きで。
「……すっげー反応に困るんだが」
「今からボクたちとせっせとおせっせするもんねー」
「…………これって一種の寝取られでは」
「アワセが大喜びだな」
「アワセはマジでマアジがヤってるの見るだけでいくからなー」
「…………わからない世界です」
「でもタマモも首輪付けて全裸でおしっこするじゃん」
「…………やっぱりお小水って興奮するんです……マアジに見られていると思うと」
ポッと赤面するのはいいが、俺は別にそういう癖ではないぞ?
「…………ルイだって首輪付けられてワンコの真似してマアジに媚びるじゃないですか」
「えー。だってマアジって裸で服従したくならないぞ? 自分の全部を曝け出して、踏みにじられたいっていうか……」
「…………あたしはおしっこしているところをずっと見られていたいです」
「でも足を上げてするのってオスのワンコだぞ?」
「…………そこは形式美で」
あのー。すんません。ついていけんのですが。
「じゃあ。マアジ。今夜はどういうシチュでするぞ?」
「…………やっぱり美少女サンタさんが童貞に自分をプレゼント……みたいな?」
「悪くないな」
実際童貞だし。経験ないよ。え、今までのことを数えてみろって? わからんな。
「ところで彼シャツはどうにかしてくれ」
「下の毛も見るぞ?」
「…………剃った方がいいですか?」
そう言う上級者なのを求めていないのよ。今更ながら。
「杏子が唯一このマンションにいないっていうのも皮肉だよね」
「…………あたしたちとおせっせするんですから」
「実際杏子ってマアジのことどれだけ好きだぞ?」
「かなり入れ込んでいるのは知ってる……」
俺とキスしないと死んでしまう病。
「杏子にはボクたちのこと言ってないぞ?」
言えるわけねーだろ。刺されるわ。
「…………まぁいいんですけどね」
ギュッとタマモが抱きしめてくる。俺の頭部を胸に挟んで。Gカップ大勝利! 希望の未来へレディゴー!
「じゃあ、そろそろ……寝るぞ?」
まぁ寝ないとできんしなぁ。もちろん最初に幸せ家族計画は蒸着するのだが。
「マアジがいいなら本番でも」
「…………あたしもいいですよ」
「お前らがオメガターカイトを引退したらその時にな」
そして眠りにつく。もちろん睡眠用の成分を振りまいた上で、でだ。途中覚醒しても面倒だし。
「ど・う・て・い・くん?」
「…………今日は童貞くんにプレゼントがあります♡」
「サンタさんからのプレゼントだにゃ」
「お姉様~」
「わたくしは見ているだけで……あぁ♡」
「俺のサンタとしてのプレゼント……受け取れ。それがお前の業だ」
なわけでメリークリスマスをしてしまったわけだが。さすがに六人相手だと一人一人にプレスをかけるわけにもいかず。仕方ないのでレイド戦になった。そもそも俺ってラブコメ主人公の適性がそんなにないのよ。トップアイドルグループと交際関係持っておきながら言う話でもないが。
「ふいー」
で、頭の悪い夢を見たなー、と思いつつ、イブの夜を乗り越え、クリスマス当日。俺は朝飯を作るために早起きしていた。股間の事情についてはもうこの際慣れたもので。厳重に封印してゴミ袋へ直行。
「くあ……」
で、俺と一緒のベッドで寝ていたルイとタマモが起きてくる。
「おー。飯出来てるぞ」
今日はルイとタマモと俺の分しか用意していない。サヤカ、イユリ、アワセ、リンゴには涙を呑んでもらうとして。
「じゃあ十時に駅集合な」
「え?」
「…………え?」
シャクリ、とトーストを齧って、俺はあっさり言う。
「イブはデートできなかったから」
「してくれるんだぞ!?」
「…………ふわぁ」
まぁそりゃ一応お付き合いしてるんだし。お疲れ様会でもあるけど。