第123話:クリスマスライブ
「ふんす!」
ホールを使った特別施設。さすがに国民的アイドル、オメガターカイトのクリスマスライブだけあって、結構広い場所を使うらしい。俺的には箱ライブでもよかったが、それでは客があまり呼べないのだろう。ドームでやって欲しい気持ちもあるが、彼女のいない喪男がクリスマスに一万人も集まるかと言うと、少し首を傾げてしまい。俺は七色のサイリウムを持って、気合を入れてきた。ちなみに振るのは紫と緑で、他五色は頭の鉢巻きで固定する形だ。紫はルイ推し。緑はタマモ推しだ。
「マアジ氏。今日も気合が入ってござるぞ」
「そりゃオメガターカイトのクリスマスライブ。気合も入ろうというもの」
「わかる。わかるでござるぞ。このクリスマスにオメガターカイトを推せる我らは世界一の幸せ者」
「然りだな」
そんなわけで、アイドルファンとの現地交流は俺にもあり。ただライブ後の感想戦には参加しないので、話すのはライブの時間だけ。チケットの席に座りサイリウムを握る。そのままざわつくアイドルファンの熱気を感じ、オメガターカイトが愛されていることに感涙しながら、その時を待つ。
そうしてバンッ、と音がしてホールが暗くなる。わぁっと観客が騒めいた。もちろん俺も。そうして次にバンッと音がしてライトが点灯すると、ステージにオメガターカイトが。ここで既に客のテンションは最高潮。俺としてもわかざるを得ない。
「君に触れたその時に♪ 私の時計が回り出し♪」
「気付けば君を目で追って♪ そんなことさえ君は知らず♪」
いきなりナンバーが流れ出した。もちろん驚いている暇はない。俺たちキモオタもサイリウムを振るう。
「「「「「ルイちゃーん!」」」」」
「「「「「タマモちゃーん!」」」」」
「「「「「サヤカ様ー!」」」」」
「「「「「イユリちゃーん!」」」」」
「「「「「アワセちゃーん!」」」」」
「「「「「リンゴ殿ー!」」」」」
「「「「「杏子ちゃーん!」」」」」
あらゆる推しを愛する同志が、それぞれに推しの名を呼ぶ。
「ねえ見て私の頬♪ 誰が真っ赤にしたと思う♪」
いきなり始まったナンバーに、遅れずついていき、そうして一曲目が終わる。それからMC。
「今日は来てくれてありがとうございます! オメガターカイトだぞ!」
バキューンと指鉄砲を撃つルイ。
「「「「「ルイちゃーん!」」」」」
「マジクリスマスじゃん! 今日は楽しんで行ってね!」
「…………あたしたちのクリスマスがファンのクリスマスになったら嬉しいな」
「サヤポンもお兄さんたちのために頑張るよ!」
「じゃあ女性ファンには拙が頑張るデス!」
「イユリはまたー。でもわたくしたちと一緒にクリスマスを楽しんでくれると嬉しいですわね」
「くく。この聖なる夜に、俺の右手が疼くぜ」
「きょうはよろしくオメガいします!」
マイクパフォーマンスが飛んで、それからファンの歓声。もちろん俺も。
「じゃ次のナンバー! 幸せの街角!」
そうして次々と歌われる曲。俺は一生懸命サイリウムを振って、オメガターカイトを応援する。現時点で俺はキモいドルオタ以上の存在ではなかった。曲が歌われ、マイクパフォーマンスが入り、客の熱気が冬すら問題にしない熱さになり。そして最後の曲になった。
「最後の曲はサプライズだぞ! ニューナンバー!」
わぁぁっ! と俺含め客が盛り上がる。
「聞いてくださいクリスマスイルミネーション!」
そうして静かなイントロからナンバーが始まる。
「ふわり雪が舞う街角イルミネーション♪」
「君と目が合うたびに胸が鳴るの♪」
聞き惚れて、どよめいた観客の息遣いが聞こえ、それがじょじょに大きくなっていく。
「手と手すれ違って♪ 重ねた勇気のぬくもり♪」
「サンタじゃなくていい♪ 君がくれた奇跡♪」
「鐘の音が響いた瞬間♪ 願いごとはもう決まってるよ♪」
フラれるサイリウムも残光で綺麗に映えて。ポップながら冬らしい曲調に、俺もみんなもテンションを上げる。これはいい曲だ。
「メリーメリークリスマス♪」
「世界でいちばん大切な人♪」
「白い夜に君だけを見つけた♪」
「雪の魔法かけて今、ふたりだけのストーリー始めよう♪」
そのサプライズは成功して、俺たちはクリスマスライブに新曲のクリスマスソングに酔いしれて、一層オメガターカイトを好きになるのだった。ホールの特別会場は熱気が凄く、俺としても冬だというのに汗が止まらねえ。
「ルイちゃーん! タマモちゃーん!」
誰もが叫ぶ中で、俺も負けじと叫ぶ。ルイとタマモはステージにいる。俺なんて見えていないかもしれないが、それでも叫ばずにはいられなかった。
「メリークリスマス! ボクのライブどうだったぞ?」
「超最高でした! 最高のクリスマスになりました!」
で、ライブ終了後、握手券を提示して握手会に。もちろん持っているチケットは七枚。俺の場合は全員コンプだ。
「…………ありがとうございます佐倉さん……また来てくださいね」
「もちろんですとも!」
「佐倉お兄ちゃんクリスマスはどんな夢見たい?」
「サヤカちゃんの夢を見ます!」
「佐倉さん。メリークリスマス」
「メリークリスマスですイユリちゃん!」
「わたくしとクリスマスに出会ってくださってありがとうございますわ」
「アワセちゃんと握手するためなら、たとえ火の中水の中!」
「くくく、この聖夜に影の使徒の握手を受けるとはな……」
「シャドウガバメントの活躍は著しいな」
そうして杏子以外の全員と握手をした。最後に杏子。
「メリークリスマスです。佐倉くん」
「良き夜ですね。杏子ちゃんのパフォーマンスも最高でした! ぐうかわです!」
「えへへ、そうだと嬉しいですね。新曲どうでしたか?」
「超盛り上がり! 気分上々でした! マジ名曲。ダウンロードしますんで!」
「嬉しいです。私にとっても最高のクリスマスでした」
そうしてギュッと握手をする。
「はい、お時間でーす」
そうしてスタッフに遮られて、俺の握手会は終わる。さて、後は。
「予約したケーキを買って、チキンとピザとポテトとジュースと……」
ここからは俺のクリスマスパーティーだ。もちろん一人で…………な、わけもなく。
「お疲れ様でーす」
駅近マンションに帰って、そのままパーティーの準備。そうして用事を済ませて帰ってきたルイたちに、俺はサンタの衣装でクラッカーをパンと鳴らした。もちろん気を利かせたというか。相手側もミニスカサンタ。
「マアジ♡ メリークリスマスだぞ♡」
「…………マアジ……メリークリスマス♡」
「お兄ちゃん。メリークリスマス」
「お姉様。メリークリスマス」
「マアジ。メリークリスマスですわ」
「くくく。セイントナイトに闇の祝福を……」