第122話:チケットの行方
「ふい~」
で、ルイとエクストリームスポーツしたりタマモとエクストリームスポーツしたりサヤカを分からせたりイユリと尊み百合プレイをしたり、なんだかオメガターカイトが何処に行くのか心配にはなるが、一応クリスマスライブに向けて練習もしているらしい。歌やダンスのレッスンも結構汗かいてやっているとは聞いている。俺に出来ることはご飯を作って待つ事デラックスくらいだ。案外アワセとリンゴにも俺の夕食はご好評のようで。最近はオメガターカイトのメンバーと顔を合わせすぎているような。というか、このままだと杏子以外の全員がマンションに住みかねない。今のところはルイとタマモとサヤカだけだが、飯を食うという意味では日替わりでイユリ、アワセ、リンゴもお邪魔している毎日。
「拙もここに住みたいデス」
「わたくしも住みたいですわ」
「影救世躯体を監視しなければ」
と、各々の理由で三人はマンションへの移住に前向きだ。ただ賃貸形式でも結構お高め。そりゃ都内の駅近マンションなんだから、値段が高騰するのは自然というか。ルイはコマーシャルや番組にもバンバン出ているのでお金に困っていないが、普通のアイドルが住める家賃ではない。
「どうしたものかね。本当に」
だが杏子以外の全員が同じマンションに住めば、もちろん懐疑も抱かれる。
仕方ないので生返事だけして、俺は学食でうどんをすすっていた。俺の大好きなゴボウ天うどん。
「ここ空いてますか?」
「もちろんだ。俺の胸襟くらいは空いてるぞ」
「そんなに空いてませんよね?」
「男が胸襟開いてどうすんだ」
「佐倉くんのだったら私はドキドキするんですけど……」
とか言いつつ、ソバを持って現れたのは、同じ学校の同じ生徒。角夢杏子ちゃんに他ならず。俺は昨今慣れ過ぎていて、ズビビーとうどんをすすっていた。
「佐倉くんが使ったパンツ。今、穿いてますよ?」
グフッ。食道と呼吸器にエラーが発生し、俺のうどんが鼻に逆流する。
「グホッ。ゲホッ」
「何ていうか。ドキドキですよね」
「嬉しいか?」
学食の隅っこの方。そこで二人掛けのテーブルの対面に、杏子は座った。俺は鼻の
奥に入ったうどんをどうにか取り出そうと悪戦苦闘する。
「クリスマスライブ来ますよね?」
「もちろんだ」
「握手の列は誰に並ぶんです?」
「ルイ」
というか杏子以外全員。ちゃんと握手券も六枚持っている。杏子だけは例外。
「もう。いい加減推しを私に戻しなさい」
「ルイちゃん可愛いよなー」
「本気でモチベーション下がるよ?」
「無様を晒すことのないようにな」
「佐倉く~ん」
なんといわれようともルイとタマモが俺のジャスティス。ぶっちゃけ杏子は過去の推し。恨んでいるわけじゃないが、どうしてもカロリーを消費しない。あるはこれが失望と呼ばれるものなのか。とはいえだ。今更ルイやタマモの贔屓を変えることも出来ず。
「私と握手してくれたら……」
「それ以上は言うな。問題になる」
早めに芽は詰んでおく。どうせ寝るとかパンツとか色々言いたいのだろう。コイツの性癖も歪んでいる。
「お願い佐倉くん。私を推して?」
「リームー」
「じゃあ黄色いサイリウムふるだけでいいから」
それは推しだろ。
「今の俺は箱推しだ」
正確には違うのだが、ニアリーイコールで箱推しととれないこともない。そもそもアワセとリンゴの参入は、俺にとっても想定外。
「何でもするから。本当に何でも」
「じゃあ全裸で野球部の部室にウラキ突貫します、っていいながら入室しろ」
「そしたら推してくれる?」
「いや、普通に引く」
「意味ないじゃん!」
「もともと意味を求めるようなものか?」
「佐倉くんに推してもらえないから今の私ガタガタだよ」
「それは残念だったな」
うどんをズビビー。金色の髪の美少女は、悲しそうに目をふせる。相当俺が好きらしい。その熱意には感服するが、俺の側から言わせると「そうですか」以上の感情がわいてこない。
「クリスマスライブ失敗したら佐倉くんのせいだからね?」
「わーったよ。じゃあ握手券を用意しておけ」
そこは流石に今からだと間に合わない。クリスマスは二日後だ。ついでに学校もそれに合わせて冬休みに突入する。
「じゃ、じゃあ用意するから来てね?」
「クリスマスプレゼントだとでも思ってくれ」
「えへへぇ。やったぁ」
そんなに嬉しいか?
「佐倉くんに推してもらえるのが私は一番嬉しいの♪」
「好きだから、とか言わないよな?」
「言わなくても伝わっていると思うけど」
たしかに。パンツ頭にかぶらせたり、ことあるごとに寝ようとか言いだして、これで俺が好きじゃなかったら、そもそも統合性が取れない。
「じゃ、私頑張るね!」
「ライブ楽しみにしてる」
「今日も最終調整があるんだぁ」
「オメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青しは?」
「新年の分は結構前に撮ったよ。今は来年の春の分かな」
撮ってすぐ公開というわけでもないらしい。
「流石に新年は全員で撮ってるから、私も出るよ」
「ルイちゃんも出るかな?」
「…………」
「いひゃいいひゃいいひゃい」
俺は杏子に頬をつねられた。
「何をする」
「ナニ」
そういうことはしないので。
「あと他のアイドルとコラボしたり、ストリーマーとコラボしたり」
「流石ネット時代だな」
俺はオメガターカイト以外の動画はそんなに見ない。アニメとオメガターカイトで世界が回っているようなものだ。
「さて、そうすると」
「明日にはチケット用意するからさ。ウチに来てよ」
「変なことするなよ」
「男の側がその予防線張るのって、なんか違わない」
責任がとれねーんだよ。子供できたら養わないといけない。ソレが苦だと言っているわけじゃないが、もうちょっと子供でいさせてくれ。
「私は何時でもいいのに……」