第119話:意味が不明にもほどがある
「えーと」
「どうかしましたか? お姉様」
ベルサイユの百合を視聴しているイユリはこの際どうでもいいが。玄関の映像から見える下着姿のリンゴを見て、俺は言葉を選んでいたが、そんな事態ですらないことに気付く。既に今は十二月中旬。外の気温は一桁だ。パンツ一丁でいていい温度ではない。ましてオメガターカイトのリンゴが下着姿で外にいるとか、マズいという話ですらない。
「ちょおおおお!」
バタンッと扉を開いて、マンションの通路に顔を出すと、そこには確かに下着姿のリンゴが。ブラジャーで辛うじて大きめのおっぱい隠れているが、まさかコレで乳輪が見えていれば事案だ。そうじゃなくても事案だが。
「な……何してんの?」
行動というか、俺が聞いているのは正気だが、さらに頭のおかしい答えが返ってくる。
「抱いて?」
ブラジャーとパンツだけの姿で、男の部屋に突撃。「抱いて」と言ってくるその度胸だけは表彰モノだが、俺にとっては意味不明で。
「えーと。何を」
「俺を」
「誰が?」
「佐倉マアジが」
御法度リリンと戦ってから少し経って。その間に何があったのか。聞くのも怖いが、それより確認が一つ。
「寒くないか?」
「寒い。ッッくちゅ!」
可愛らしいくしゃみだと思うが、ツッコミどころはそこではなく。
「中に入れてくれない?」
「その恰好で?」
「抱いてくれていいから」
その前にリンゴのオーバリズムで股間を切り取られそうだ。何をどうすれば、リンゴが俺に抱かれるという展開になるのか。もうちょっとエロゲーでも展開は親切だぞ。
「まぁ上がるのはいいんだが」
隣のルイに頼むべきかとも思ったが、気温と時間を考えて、とりあえず中に招き入れる。
「暖かい……」
「コーヒーでも淹れるか」
さすがに下着姿で冬空の下は死ねる。リンゴに死なれても困るので、温まるものを……と思っていると。
「リンゴデス?」
「イユリ……」
二人が遭遇するのも当たり前の話で。ガンッッッとリンゴが俺の脛を蹴った。
「いッッッ!」
その脛を抱えて片足ジャンプする俺。かなり痛かった。痛覚を通常モードにしていたのが悪いのだが。
「何しやがる!」
「こっちのセリフだ! なんでイユリがここにいる!」
何と申すべきか悩んでいると。
「マアジお姉様。リンゴちゃんまで誑し込んだの?」
こっちはこっちでジトーッと俺を見るイユリ。まさに誤解だ。
「そもそも共通点ねえよ……」
あえて言うなら御法度リリンと戦ったくらいだが、それは言わなくていい。
「イユリは何でここに?」
「お姉様とアニメを見てたのデス」
「お姉様?」
説明を要求するように俺を見るリンゴだが、口にするのも怠い。
「とにかく健全にアニメ視聴をしていたわけだ」
「誰に対する言い訳?」
「まぁ俺にだな」
ヒュンと糸が走った。さすがに神経は出してなかったので後手に回る。細い繊維が俺の首に纏わりつき、キュイィと音を立てる。そのまま力を込めれば首から頭が離れるだろう。
「殺されたいの」
「生憎とまだ寿命には執着が」
「イユリも誑し込んだの?」
「そもそもそう言う関係じゃねえし」
首の皮膚からヒトキリススキを具現して、糸を切る。この程度はエピソードを出すまでもない。
「絶黒の影救世躯体がそれを言うの?」
どうしよう。リンゴちゃん、ガチでその設定信じているので?
「お姉様。リンゴとはどういう関係で?」
「無関係」
他に言いようもなく。
「リンゴは?」
「敵」
冗談とか言ったら殺されるのか。やっぱ。
「とにかく」
ここで話が巻き戻る。
「佐倉マアジ。俺を抱け」
「イユリの目の前で?」
「この際見せつけろ」
そこまで上級者だと思われているのは褒められているのか?
「ああ、それで下着姿なんデスね?」
「今から俺とマアジは寝る」
「いや、寝ない」
俺は肩の高さに置いた手を左右に振る。そもそも何で俺とリンゴが寝ることになっている。ジョークでも有り得んぞ。
「俺じゃ不満か?」
「超不満」
「むぅ」
ここで拒絶されるとは思っていなかったらしい。俺もやれるならやりたいが、状況的に無理だろう。やはし。
「それは恋人がいるからか?」
「それも一因ではある」
あくまで一因だが。
「絶黒の命令で篭絡しているだけだろう?」
「何でそれをお前が知っている?」
質問の形式であるが、問答するまでもない。答え。御法度リリンの正体がリンゴだから。
「は、服部リンゴには全てのことはお見通しなのだ!」
そーですかー。仕方ない。議論は後にしてコーヒー淹れるか。そう思って、俺がキッチンへと歩き出すと、その服の襟を引っ張って、グイと自分へと引き寄せるリンゴ。
「ッッッ!」
「ッ!」
「わお!」
そして俺が言葉を失い、リンゴが言語を放棄。イユリがスキャンダルに赤面する。俺とリンゴがキスをしていた。相手からの一方的な、と注釈は付くが。
「俺と寝ろ。マアジ。お前のやりたいプレイで応えてやる」
「何でもいいのか?」
「なん……でも…………いい………………ぞ?」
覚悟が無いことは伝わった。
「じゃあイユリとニャンニャンしてくれ」
「マジデスか! お姉様! リンゴちゃんと寝ていいんですか!」
「ああ、快楽を教えてやれ」
ニコリと爽やかスマイルで、俺はイユリにサムズアップをした。