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第117話:インターフォン


「はー。アスカー様推せるデス! ねえねえマアジお姉様! このアニメ至高過ぎませんデスか!?」


「うーん。面白いんだが、最近の多様性への理解はすさまじいな」


 で、俺こと佐倉マアジは、今サブスクでアニメを見ていた。タイトルは『ベルサイユの百合』。もう語るまでも無く百合作品だ。男装の麗人アスカーが、仏国のお姫様と道ならぬ恋に堕ちる、どこからかお叱りを受けそうな内容。しかし百合男子である俺と、百合女子であるイユリにとっては神アニメに相違なく。


「アスカー!」


「王妃殿下~!」


 で、どういう因果か。今、俺の部屋にはイユリしかいない。ルイとタマモは友人が来るからと自室で応対しており、サヤカは別件。アワセは普通に家に帰っている。イユリがここにいて問題にならないかというと派手に問題だが、すでにツッコむのも疲れた。


「はわー!」


「萌え~!」


 で、もちろん夢の中でニャンニャンするのは前提としても、それもサヤカの異能ありきで。今現実として俺が出来ることはイユリと百合アニメを見て悶えることだけだ。


「お姉様! お姉様! 尊い~!」


「ちょ。イユリ」


 で、俺の腕に抱き着いて百合アニメに悶えているイユリは、その状況を自認していない。最近はまた大きくなったルイに一歩劣るとはいえ、それでもDカップあるイユリのおっぱいは俺にとって凶悪な兵器だ。揉んでいいのなら既に揉んでいる。


「アスカー萌え~!」


「…………」


 さてどうしてくれようと俺が思っていると。


「お姉様?」


「なんだ?」


「二人きりデスね」


「そうだな」


 それは俺もさっきから思っていて。


「やっちゃいます?」


「却下で」


「例えばここで襲ったら抵抗できますデス?」


「抵抗っていうか……そもそも俺のアレは意図的に感度上げないと達しないから」


「マンゴーで受け止めても?」


「無理だな」


「そもそも何でそんな不能になっているんデス?」


 色々ございまして。


 ミストルテインによる神経の感度が然程でもなく。脳内媚薬で感度を上げないと示威行為もままならないのは俺の業だ。


「拙としたくないデスか?」


「初めてはルイにって決めているからな」


「仮にここで拙が脱いでもデスか?」


「まぁチャレンジするのはいいことだが、盛大に肩透かしを食らうぞ」


「お姉様のアレって大きいんですか?」


 そっか。イユリとやるときは女体になってるもんな。


「平均程度。おおよそ自慢できるものでもない」


「じゃあ攻めと受けならどっち?」


「判断が難しいんじゃないか?」


 うーん、と悩みつつ、俺はそう答える。そりゃ攻めと受けなら攻めの方が大きいのが理想だが、ハード系の腐女子だと、受けの大きさは観念の内に入るのか。俺は誘い受けが好みなので、攻めが受けを満足させるだけの大きさを持っていれば、それ以上は文句を言うつもりもないのだが。


「ごゆう好きの男子っていうのも奇特デスけど」


「別にだからってお前と違ってナマモノまでは理解しないぞ」


「お姉様を鳴かせる攻めがいればなぁ」


 あ。俺は受けなのね。


「お前は女なんかに渡さねえ……って囁きながら、あ、ダメ、って躊躇うお姉様を蹂躙する攻めが欲しい」


「そこまでか」


「だってお姉様の中性的な顔ってどう考えてもゲイの好みデスよ。発展場に行けば、そのまま非処女コースデスよ!」


「ま、LGBTにも理解を示す時代だからな」


「お姉様と一緒にサウナに入る男性が羨ましいデス」


「お前がバンドすれば?」


「ッ!」


「そこでその手があったか、って顔するだけでお前は真正だ」


「じゃあ次のサヤカの夢は……」


「アワセも理解を示さんしなぁ」


「寝取られ趣味は拙にはないデスなぁ。やっぱり相思相愛がジャスティスでしょう」


「代わりにお前はお前で邪道だがな」


「お姉様が可愛すぎるのがいけない。もうドS顔で乙女を蹂躙しそうな孤高の先輩デスよ」


「高校一年なんだが」


「でしたね」


 それこそ百合アニメに出てくるお姉様キャラを彷彿とさせるのか、俺って?


「とりあえず今日は百合アニメを見ることにしよう」


「アスカーも素敵デスしね」


「泊っていくだろ?」


「帰るにしても遅い時間デスし」


 イユリは一人暮らしだが、この時間に帰らせるわけにもいかないだろうというか。今は夜の九時半。サブスクは何時でもアニメを見れるのでクソオタにはとっても便利。


 ピンポーン。


「…………」


 インターフォンが鳴った。何か、と思った俺は正しい。これがルイたちなら問答無用で入ってくるし、飯の配達は頼んでいない。このマンションはセキュリティが異様に高いので、宗教の勧誘も来ない。では何か、というと、俺に用事のある他人。そもそもインターフォンが久しぶり過ぎて、どういう音なのかを思い出すところからだ。


「お客さんデスか。せっかくお姉様の処女を……」


「怖いから冗談でも止めてくれる?」


「お姉様の処女」


「緊縛するぞ」


「是非デス!」


「お前も大概だよなぁ」


 なんかオメガターカイトを推しにしている日本男児が可哀想になってくる。


「はいはいはーい」


 そうして既に忘却の彼方にあった接客スキルを何とか思い出して、まさかいきなりナイフを取り出すはずもないことは十全に分かった上で、俺はだが玄関のモニタを映した。


「…………」


 で、絶句と言うか。何と言っていいのか。


「誰デス?」


「えーと……リンゴちゃん……」


「リンゴって……あの中二病だけど世界観を合わせたらおっぱいも揉めそうなリンゴ?」


 お前がどういう目で同僚を見ているのか。ちょっと心配になる俺。


「リンゴのおっぱいも結構大きいからね」


 公式ではCカップだが、それでもギリギリD未満だ……ということはこの際関係なく。俺は相手の正気を疑っていた。このマンションを覗き見する事は、それこそドローンでも必要になるだろう。そこまでして盗撮する気概がある人間を知らないが、仮にいなかったとして。何故十二月の中盤、つまり冬にリンゴは下着姿で玄関前に立っているのだろう?


 なんで服を着ていないんだ?


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