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第114話:夜の帳に包まれて


「ふわ。寒……」


 今日のご飯を食べ終えて、そのまま鍋を水につける。今日のところは飯食って解散。俺もたまには一人になる。そうして雪でも降りそうな刺すような冷気を浴びながら、俺はコートを着込んで外に出ていた。最近はよく夜に外に出ているような気がする。何を待っているのか。何に会いたいのか。それをちょっと自覚して自己嫌悪に浸るのも、それはそれで悪くはない。


「ありあとしゃーしたぁ」


 適当な乱れた日本語を使うコンビニ店員の挨拶を背中に、冬なので溶けようもないアイスを片手に夜の街を歩く。さすがに冷える。今日も風呂に浸かるのが楽しみだ。と……この佐倉マアジさんは思っているわけで。ヒュンと空気を切る音。それを音より先に察知して。


「ふ」


 俺は手元に握っている剣で、襲い掛かった糸を切った。


「ッッ!」


 相手の戦慄が伝わってくる。殺す気があったかは知らないが、少なくとも俺の命を握ってから交渉に臨みたかったのだろう。今日はオメガターカイトのメンバーと鍋を囲んだので、こうなるだろうという見込みもあった。俺は手に握っている剣を振って纏わりつこうとする糸を切り裂く。


「ちぃッッ」


 で、そのまま夜の空を見上げると、そこには御法度リリンが。相変わらず空中に身を置いて。それだって蜘蛛の巣のように繊維を張り巡らせて足場にしているんだろうけど。


「よくぞ俺の糸を見抜いた」


 警戒はしていたからな。それとは別の感覚もあったわけで。


「御法度リリン……」


「アイドル恋愛粛清仮面!」


 バババッと宇宙刑事が蒸着するようにポーズを決めて、海兵服を着た美少女戦士のように見栄を切る。


「御法度リリン! 推しに代わってお仕置きよ!」


「まぁそれはよくて」


 俺は架空の箱を持ち上げて、横に置く仕草をする。


「ど、どうでもいいとか言うなぁ」


 案外スルーされるのは耐えられないらしい。


「その御法度リリンが何用で?」


「もちろん貴様の悪事を止めに来た。この御法度リリンがある限り、オメガターカイトには恋愛をさせない」


「はあ」


「そもそもルイとタマモとサヤカを手籠めにするとか何という不埒か! せめて一人に絞れ!」


 とは言われても。俺はルイとタマモを平等に愛している。サヤカ? ちょっと考えさせて。


「だから粛清に来たと?」


「そ、それもあるが! 推しっコインの野望を止めるのも御法度リリンの使命だ! 俺は暗黒結社絶黒の策謀を認めていない!」


「そーですかー」


 アドリブで言ったんだが。案外騙されてくれるものらしい。


「フッ!」


 指をピアノでも弾くように動かして、さらに腕を大振りにして、糸を繰る。それらの糸を、俺の剣は途中で切り裂いてしまう。


「見えているのか。我が繊維が」


「正確には感じているんだ」


「第六感……と言う奴か?」


「いや。もっと即物的」


「?」


 そりゃ説明もせずに理解されるとは思っていないが。


「アウトニューロン」


「えーと?」


「神経を体外に展開して、その察知能力で結界を張ってんの」


「…………」


 引いてる引いてる。


「だから俺に不意打ちは通用しないし、夜の細い糸も感知できる」


「くっ!」


 さらに糸が俺を襲う。だがそれを俺のエピソードは切り裂く。


「その剣は何だ!」


「エピソード」


「エピソードだとぉ……?」


「柄から刀身にかけてはブーステッドアイアンウッドで構築。葉の部分は人を両断できるヒトキリススキを採用。結果として百パーセント植物性の日本刀に出来上がりってわけ」


「ブーステッドアイアンウッド……ヒトキリススキ……」


「ちなみに素人でも兜割が出来る逸品だから、お前の糸も容易く斬れる」


「植物使いか!」


「あれ? 言ってなかったっけ? 学術的にはエルフって呼ばれる、植物と親和性の高い人間だな」


「それで神経を露出させて、銃刀法に抵触しない日本刀を……」


 まぁ俺のエピソードは両刃だが。


「アドバンスドプラントソード。略してAPソード。さらに略してエピソード……だ」


「まさか暗黒結社、絶黒はエルフを量産しているのか!」


「だとしたらどうする?」


「その異能を用いず! オメガターカイトを利用して経済破壊を狙っている真意は何だ!」


「さあ、結社の総帥の信念は知らん。俺は絶黒の影救世躯体エグゼクター。ただ総帥の願いを叶えるだけだ」


「エグゼクター……だと!?」


「そうだ。異能故に総帥に心酔する異能者を、絶黒では影救世躯体エグゼクターと呼ぶ。俺たちはチェス盤の駒だ。絶黒の目的のために動く社員に過ぎない」


「では貴様は、自ら悪意を以て事を成しているわけではないのだな?」


「理由など……………………とうに忘れた」


 エピソードをヒュンと振って、俺は皮肉気に笑った。っていうか、さっきから痛い設定を漏出しているが、俺は五分後に自分が言ったことを五割も憶えているか自信がない。なんだよ影救世躯体エグゼクターって。絶黒の総帥って誰?


「わかった。では貴様は絶黒の命令に従って影救世躯体エグゼクターとしてルイたちを篭絡していると」


「そういうことになるな」


「では俺に任せろ。この闇より深き影……ダーカーザンシャドウが貴様の呪いを解き放つ」


 ノリがいいのは結構だが、このままだと収拾がつかんぞ。


「わかっている。絶黒を裏切れば死あるのみ……なのだろう?」


「ああ、今更止まれない」


 言えねえ。ノリノリで適当ぶっこいてるなんて。


「わかった。では俺が愛を教える。貴様。オメガターカイトの推しは誰だ?」


「リンゴちゃん」


 言った瞬間、御法度リリンが足場を踏み外して道路に落下した。頭からは行かなかったし、高度もそんなでもなかったので、俺は助けなかった。一応背中から落ちて受け身を取っているので大丈夫だろう。


「な、な、な」


 で仮面越しに俺を見て、声の質から顔面真っ赤になっているだろうな、程度は分かり。


「ルイたちを篭絡していながらリンゴが推しだと!?」


「可愛いよなぁ。リンゴちゃん。中二病だけどそれがいいっていうか。あの何とも言えない孤高さが一人で戦っている戦士だって瞳で語っているよ。もう暗黒のカッコよさ」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 で俺がリンゴをべた褒めしてると、耐えられないとばかりに御法度リリンは逃げ出した。相当痒かったのか。背中を掻きむしりながら。



















 まぁ御法度リリンの正体はリンゴだよな。


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