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第113話:恋に恋する恋奴隷【三人称】


「ふぅ」


 レッスンが一時的に休憩に入って、サヤカはスポーツドリンクを飲みつつスマホを弄っていた。別段スマホを弄るのは苦ではなく。ついでにメッセージの相手はマアジだった。ルイと同じようなことをしているサヤカ。


「クリスマスライブは期待してる」


 いくつかコメントを送ると、そんなコメントがマアジから送られてきた。笑みがこぼれる。マアジにそんな言葉をかけて貰えるだけで嬉しい。自分は純粋にマアジにイカレていると。そう認識するだけでサヤカは天にも昇る気持ちになる。


「なーにしてるんデスか?」


 その隣に、イユリが同じくスポーツドリンクを飲みながら座ってきた。


「ちょっと嬉しそうデスよ?」


「ま、ね」


 それだけでサヤカの言いたいことはイユリにも伝わっていた。


「まぁ、デスね」


 まさかマアジの名を出すわけにもいかないので、イユリもそれだけ言ってスポーツドリンクを飲む。さっきのダンスレッスンで汗をかいている。水分補給は大事だった。


「ハロー。お疲れ様ですわ」


「お疲れです」


 で、そこにアワセと杏子が顔を出す。


「あ、お疲れ。ダンスも息合ってきたにゃーよ」


「センターのルイが結構私たちに合わせていますよね」


「流石っていうか。立ち位置の見聞は人一倍デスよ」


「わたくしたちも負けていられませんわ」


 そんな感じでダンスレッスンでも反省を抽出する。


 そんな中、サヤカのスマホにメッセージが入る。


「頑張った御褒美は何が欲しい?」


「ぶふぉッ!」


 マアジからの有り得ないセリフに、そこでサヤカは噴き出す。頑張った御褒美とか、そんな魅力的なワードを真顔で言ってきているのであろうマアジに対してツッコミが追いつかない。


「?」

「?」

「?」


 イユリとアワセと杏子が首を傾げる。


「ちょっと頭冷やしてくるにゃーよ」


 そう言ってスマホの電源だけ落として、サヤカは去っていく。


「なんデスかね?」


 分かっていながら問うイユリ。


「なんなんでしょうか? 嬉しいことでも?」


 分かっていながら分かっていないフリのアワセ。


「さー。男とかですか?」


 杏子は本気で分かっていない。


「まさか、とは言いませんが、今更スキャンダルの種は撒かないんじゃ……サヤカも一応プロですし」


 白々しい口調で、アワセが考察するふりをする。イユリとは通じ合っているが、杏子にまで問題を波及させるわけにはいかない。そんな思いが彼女にはあって。


「まぁそうデスけど。そういうアワセは?」


「御家が御家ですからね。中々婚約者と言うものも難しく」


 アワセが良いとこのお嬢さんである、とはオメガターカイトのメンバーも知っていた。その上で、その情報が本当なのか疑う声もあるのだが、それらの疑念に臼石アワセは言い訳をしないので、疑惑は疑惑のままになっていた。特に杏子なんかは、「コイツ本当に旧家の御令嬢なんだろうか」程度は思っている。ルイたちはマアジのお見合いの話から、その相手がアワセだったという事実を知っているので、一応理解はしている。マアジが佐倉財閥の令息である以上、その結婚には高度に政治的な力学が働く。


「つまりお金持ちと結婚?」


「えへぁ」


「そこで蕩けるような顔をされていると疑っちゃうんですけど」


 アワセが寝取られ属性であることを知らない杏子がコメントに困る。


「イユリなんかは大丈夫そうですけど」


「拙は素敵なお姉様との出会いを求めるデス」


「その百合営業はラジオでやって?」


「杏子も可愛いから範疇デスよ?」


「ま、実際アイドルなんだから女子との付き合いって有りなのでしょうか?」


「わたくし的にはイユリとのお付き合いなら全然ありですわ」


「マジデスか!」


 ワキワキとセクハラ常套のおっさんのような指の動きでアワセを求めるイユリ。


「にゃー。にゃにしてるにゃーよ」


 で、そこに戻ってきたサヤカが、声をかける。


「お、頭冷やしてきましたか?」


「杏子お姉ちゃんにおかれましては、ご心配をにゃー」


「嬉しそうに消えていきましたからね」


「嬉しい事……にゃーよ」


「サヤカ。拙にペロペロさせるデス」


「サヤポンおっぱいにゃいよ?」


「そのつるつるの小股を舐めさせるだけでもいいデスよ?」


「イユリお姉ちゃんはガチっぽいにゃー」


 実際にガチだが。現時点でマアジと言う男子に恋をしているだけでも奇跡に近い。


「イユリはまぁ心配いらないと言いますか」


「イユリの百合営業はちょっとガチっぽいですわよね」


「ちょ。二人とも。イユリお姉ちゃんを止めてにゃ」


「サヤカ氏~。ペロペロ~」


 そうして性欲に狂ったイユリがサヤカに襲い掛かる。


「杏子は好きな人とかいませんの?」


「好きな人……ね」


 もちろんいる。一人。同じ学校に。とっても格好良くて、愛らしくて、芸術のような、そんな男の子が。とはいえその片想いをこの場でぶちまけるわけにもいかないだろう。


「学校に気になる男の子とか、ですわね」


「アワセはいるのですか?」


「いえ。別に」


「まぁ私も別にですかね。気になってるってだけでも、アイドルにとってはスキャンダルですし」


「サヤカ氏~。ペロペロさせるデス~」


「だから恐いって。イユリお姉ちゃん」


 そのすぐそばで百合の花が散ろうとしていた。


「助けに行きますか」


「ですわね」


 そうして杏子とアワセはイユリを止めに介入した。


「そういえば明日の動画収録は杏子じゃなかったですの?」


「あー、オメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青し?」


「たしかお買い物チキンレースだったような」


「年跨ぎの番組収録だから。来年だと思って収録するって、何か実感がわかないというか」


「歌うナンバーは決まっていますの?」


「もちろんラブソング」


「それは誰に向けて?」


「一人の男の子にって言ったら怒る?」


「怒りはしませんけど。そもそもいないのでは、という前提が」


「実際いないしねー」


 互いに虚偽を織り交ぜながら、どちらもがどちらもに恋を知らないと誤認していた。真なるところを知るのは、この地球上でマアジのみという。


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