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第110話:暗黒結社、その名も絶黒


 疲れた。期末テストも終わって、そのまま冬休みまでのんびりと……とはもう言ったか。だが既に俺にとっては夢の中でアレがアレで。そのまま体力を浪費しているような感覚。そうして学校から帰ろうと腰を上げる。そのまま帰路につく俺を学校の連中がくまなく見ている。あの時のサークラちゃんは幻だと俺からも説明したんだがな。


「ま、いいか」


 そんなわけで学校から近くの駅まで。そうしてマンション近くの駅。そこそこにぎわっている駅を出て、歩いてすぐ着くマンションまで。その途中で、ヒュンと風を切るような音がして、俺の首に何かが巻き付いた。糸……なのかもしれないが、もっと強固で頑丈な何か。


「お前か? 御法度リリン」


「アイドル恋愛粛清仮面。御法度リリン。推しに代わってお仕置きよ!」


 俺の背後で見栄を切られても、視界に入らんのでどうしようもないのだが。


「佐倉マアジ。貴様。まだルイたちとイチャイチャしているのか」


「仲良くはさせてもらっているな」


「止めろと言ったはずだが?」


 クイ、と俺の首に巻きついている糸が。そのまま締め上げるように巻き付く。


「もしかしてこの糸って、引っ張ったら俺の首が落ちるとかそう言う話か?」


「わかっているのなら釈明しろ。お前はルイたちと一緒にいて何を企んでいる?」


「く、くくく、くくくくく」


 思わせぶりな笑いを放つ俺。


「…………」


 背後から俺の命を握っているはずの御法度リリンが警戒で黙った。


「せっかく日本の破壊まであと少しだったというのに。まさか計画に感づく者が現れようとはな」


「日本の……破壊…………だと?」


「そうだ。我々暗黒結社『絶黒』は日本の創造と破壊を司る秘密組織」


「暗黒結社……絶黒……ッッ」


「そうだ。お前さえ感づかなければ、今頃日本経済は完璧に破壊されていたはずだが」


「貴様……ッ。日本市場を荒らそうというのか!」


「それが絶黒の使命なれば」


 俺は何を言っているんだろうか。なんだよ。暗黒結社絶黒って。そんな組織があって、御法度リリンに事細かに説明する義理もないだろ。


「では聞く」


 グッと糸を握って、御法度リリンが問う。


「貴様はどうやって日本を滅ぼすつもりだ?」


「くく。教えて欲しいか?」


「喋れ。でなければここで死ぬぞ」


 さらに深く俺の首を絞めている糸が強くなった。おそらく彼女は繊維を操るオーバリストなのだろう。離れたものを斬るとしたら、繊維を使うのが妥当である。それに夜空に浮かんでいたのも繊維を張り巡らせて足場を作った、と推察するのが的を射ている。


「仮想通貨だ」


 そのオーバリストに対して、俺はそう言った。


「仮想通貨……だと?」


 仮想通貨についてまで説明しなくてはならんのか。


「造幣局が造っているわけではない、システム上の通貨だ。ビットコイン……というものを聞いたことは無いか?」


「名前だけなら……」


 その反応で分かった。御法度リリンは仮想通貨についてはそんなに知らない。


「まぁ日本円以外の通貨とでも思ってくれればいい。それを日本に普及させ、日本の経済を我々絶黒が握る」


「そんなこと……ッ」


「できるわけがない……か?」


「そもそも仮想通貨なんてもので日本銀行券より信頼されていないだろう?」


「だからその信頼を得るのだ」


「どうやって……だ?」


「オメガターカイト」


「ッッッ!」


 そこで俺の言いたいことがわかったのか。御法度リリンが戦慄する。ちなみに何がわかったのか教えてくれ。会話をリードしている俺の方が何も分かっていないに等しい。


「仮想通貨、推しっコインを使って、まずはオメガターカイトの市場を占領する」


「仮想通貨……推しっコイン……」


「ライブのチケット。握手会のチケット。コンサートのチケット。ファンアイテム。これらの清算に推しっコインを用いるようにする」


「それだけで経済を支配できるはずが……」


「だがすでにオメガターカイトは国民的な人気を博している。その人気を使い、オメガターカイト専用の仮想通貨を作るのは難しくない」


「それで経済市場を!」


「そうだ。ゆくゆくはオメガターカイト関連以外の清算にも推しっコインを使えるようにし、そのシニョレッジを独占する! そうすれば日本は絶黒の魔の手に沈むのだ!」


「し……」


 し?


「シニョレッジって何だ?」


「通貨発行益という単語を後で調べなさい」


 他に言いようもなく。


「ゆくゆくは日本銀行券の代わりに推しっコインが経済を牛耳る。そうしてその発行益を我々絶黒が独占し、そのまま日本は闇に沈むのだ!」


 バッと腕を広げて、大げさにアピールしつつ、内心では俺は何を言っているのか自分でわかっていなかった。


「まさか……オメガターカイトの人気をそう言う風に利用しようとは……」


 ニヤリと俺は笑うが、御法度リリンは俺の背後にいるので意味ないなコレ。


「まさかそのためにルイやタマモたちを……」


「そうだ。可愛い奴らだよな。自分たちが経済破壊のために甘い言葉を囁かれているなんて思いもしておらず……」


「はなから利用するためにルイたちに近づいたのか!」


「それが絶黒の理念のためならば!」


 俺は嘲るような声を使う。


「くくくく……御法度リリンよ。既に計画は動き出している。いくらお前と言えど、この流れを止められるか?」


「ここで殺してくれと言っているようなものだぞ」


「ああ、この糸か」


 俺がそう言った瞬間。プツリと糸が切れた。


「ッ!?」


 唖然とする御法度リリン。そうして俺は後ろを振り向き。だがそこにいたのは分厚いコートを着た仮面の女子。性別については多分だけど。


「何を……した?」


「超能力を持っているのはお前だけではないということだ」


「まさか。暗黒結社……絶黒とは」


「そうだ。俺たちのような超能力者の集まりだよ」


「くっ。まさか俺以外にもそんな奴らがいたなんて……」


「どうする? 戦うか? それとも俺たちの仲間になるか?」


「御法度リリンは悪なんかに負けない!」


「愚かなり。御法度リリン。その偉大なる力を我がために使えないとは」


「お前ら絶黒の目的は分かった! だがお前らの思い通りになると思うなよ!」


 そう言って、繊維で引っ張ったのだろう。自分の身を高く跳躍と言うか牽引して、マンションの屋上へと消えていく。もちろん俺たちがさっきまでいたのは単なる道路。演出のためとはいえマンションの屋上まで登るのは怖くないか? 俺ならチビる。


「というか。そもそも絶黒って何だ?」


 自信満々に色々語ったのはいいが、そもそも暗黒結社って何よ? しかも組織名が絶黒って。適当にアドリブで語ったのだが、よく考えると酷いネーミング。南無三。


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