第109話:彼の者は何なるや
「わぅん♡」
「はぁはぁッ♡」
ルイとタマモが犬耳をつけたまま俺に甘えてくる。服装? 聞くな。首を輪っかで拘束されて、そこから繋がっているリードを俺に握られている。夢の中では何でもありかもしれないが、俺が一体何をしているのかは俺が一番聞きたい。
「くぅん♡ くぅん♡」
首輪をつけられてリードを握っている俺に、ルイが甘えてくる。人間の理性を残しているのかは疑問があるが、サヤカのオーバリズムがどこまで人的意識を再現しているのかは、ルイの頭をかち割っても観測できない事項だ。
「わ……ぅん♡」
タマモの方も、俺に甘えてきて、犬耳をピコピコと動かしている。その下半身がブルリと震えた。
今から全く関係無い話をする。
全く現状とは関係ない話だからな?
犬は縄張りを示すためにマーキングをしなくてはいけないらしい。犬を飼って、散歩に連れて行ったことのある飼い主なら当たり前に認識していること。
別にタマモが躊躇っている痙攣とは全く関係のない話だが……だが。
「大丈夫か?」
「くぅん♡」
せめて日本語で会話してほしいのだが。
「わぅわぅ♡」
「ぁんわん♡」
散歩している時点で場合によってはわいせつ罪かもしれないが、夢でやっている分には何の呵責も無くて。いや、俺には有るんだが。
「わんわん♡」
「わんわん♡」
で、そのままリードを握ってどうしてくれようとか思っていると。俺に向かってルイとタマモが襲い掛かってきた。さすがに高ぶる欲求には勝てないらしい。勝ってもトロフィーが貰えるわけでもないので、負けてもいいんだが。首輪をつけられて意識ごと犬になった二人は甘えるように俺にすり寄ってくる。まさに夢のような光景だが、まさに夢という皮肉が俺を襲う。そのまま後ろからする。相手が獣のように腰を振っているので、俺も獣のように腰を振る。こういう時、人間も哺乳類なんだなぁと思ってしまう。そもそも生み増やすための作業に夢中になる……というのも生物の業かもしれないが。
「いくぞ……ッ」
俺だけ感度は百倍。そもそも神経の伝達が鈍いので、ソフト面でそういうフォローをしないと俺はイケないのだ。何の話をしているのかは俺もよく分からんのだが。別にエッチなことをしていると確定しているわけでもないんだし。ただじゃれているだけの可能性もワンチャン……。ほら、腰を振るダンスとかあるしね? ルイとタマモが腰を振っているのと、俺が腰を振っているのは何も関係ないかもしれんよ。量子力学的には。
「「わぅぅんッ♡」」
で、ルイとタマモがお尻から生えている尻尾をブルブル震わせて達し、そのまま夢が終わる。犬の真似……というか言語体系が崩壊して、犬の鳴きまねしか出来なくなった二人に首輪を繋いでリードを握る。そのまま散歩をしながらおせっせ、というのはアブノーマルすぎてどうかと思うが彼女らの性癖にはよくマッチして。マーキングしたり、俺に首輪のリードを握られたり。大丈夫かコレ。俺破滅しないよな?
「…………」
で、夢から覚めると、俺は毎度のように股間を確認する。何がどうのと言うのはこの際言わなくていいだろう。仕方なく幸せ家族計画を処理して、そのまま身を清める。それから朝食の用意だ。今日はトーストとオムレツ。それからコーンスープ。寒い季節なのでスープで温まるのはジャスティス。
「はー。温まるぞ」
で、同じことを思ったのか。ルイも嬉しそうにスープを飲んでいた。
「…………マアジ……昨夜は」
「思い出させるな」
ノリノリでやったとはいえ、思い返すと自己嫌悪が酷い。
「ところで俺とルイ達の関係って……バレてないよな?」
スマホでオメガターカイトの恋愛沙汰を検索するがあまりヒットしない。全くしないわけではないが、どれもソースを出せと言いたくなるレベル。少なくとも俺たちが行っているレベルの恋愛がバレれば、ネットは炎上しているだろう。それはそれで嫌だが。
「バレてないと思うぞ?」
「…………多分ですけど」
「お兄さん。女の子のリード握るの上手いにゃーよ」
だからそっちの話は忘れさせてくれ。
俺とルイとタマモとサヤカ。四人で朝食をとる。うーん。そうするとあの時の御法度リリンは一体。俺とルイ達の関係を知って、警告をしてきたのは事実だけど、それを公にする気はないらしい。とすると関係者か? ファンだったら憤死モノだし、記者だったら記事にしているだろう。尚のこと考えなければいけないのは相手がオーバリストだということ。場合によっては佐倉財閥で保護しなければならないのだが、それはまぁそれとして。
「もしかしてバレちゃった……とか?」
ちょっと困った様子でそう尋ねてくるルイだが、
「それにしてはネットも静かだな、としか」
「…………たしかに」
ルイやタマモと同棲していることがバレたら、もっと炎上していい。
「とはいえなぁ」
相手が俺たちの関係に確信を深めているのも事実で。
「ほい。ご馳走様」
そうして俺は朝食を終え、全員分の皿を洗う。
「~~♪」
その隣ではタマモが皿洗いを手伝っていた。俺の仕事だからとは言ったが、付き合い始めてから、出来る彼女ムーブが止まらない。
「マアジ。お風呂借りるぞ」
で、ルイはルイで眠気に欠伸をしながら俺の部屋の風呂へと消えていく。
「…………マアジって良い主夫になりそうですね」
「基本的に受け身でいいならそっちの方が気が楽ではあるな」
カチャカチャ、と皿が鳴る。そうして俺たちは皿を洗っていく。とはいえだ。バインボインのタマモの肢体が傍にあると、男の俺としてはムズムズしてしまう。昨夜夢の中で遊んだとはいえ、現実にある彼女のGカップの破壊力はすさまじい。
「…………その……揉みたいですか?」
「…………」
「…………気にしていらっしゃったようなので」
「わかるよな。そりゃ」
男の業って何でこんなに深いのか。とか思っていると、ムギュッとタマモが俺の肘に胸を押し付けてきた。
「…………マアジにだけ触らせてあげます。……特別ですよ?」
俺だけ。特別。
「…………最近はおっぱいがいっぱいで……憂いていたところです」
「ルイとか大きくなってるしな」
カップサイズが一つ上がっていた。
「…………マアジの女の中で……あたしが一番おっぱいが大きくありたい」
「克己奮励してくれ」
「…………揉んでいいですからね?」
「要熟考だな」
それ以上は何も言えず。俺としても胸を揉むという行為には童貞乙ながら理想めいたものを持っていて。やっぱり揉んでいいと言われると理性がはちきれそうになってしまう。サルになるという表現がもっと合致しているのが今の俺だろう。
「…………マアジは謙虚すぎます」
「謙虚ではないぞ」
そもそも本当に謙虚であれば、自らの性欲と葛藤しないだろう。俺もお百度参りでもするべきか。悩んでいると「ありがとねー」とルイが風呂から上がってきた。そのナイスバディに、またしても俺のアレは海王拳三倍になるのだった。