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第107話:晩秋のライブ


「私が君を♪」


「君が私を♪」


「愛しているから愛してる♪」


 マイク片手に華麗に踊るオメガターカイト。その躍動的なダンスに惚れ、その圧倒的なパフォーマンスに目が奪われる。


「はい! はい! はいはいはいはい!」


 もちろん応援だって半端ではいられない。サイリウム片手にオタ芸を打つ俺。飛び散る汗さえ勲章の証。ライブは大成功を納め。


「超よかったです! ルイさん!」


 そのまま帰りの列に並ぶファンに並んで握手をしてくれる見送りのオメガターカイト。一人に付き一言。だが固く結んだ握手が、俺に元気をくれる。


「最高でした! タマモさん!」


「これからも応援しています! サヤカさん!」


「またネット追いかけますね! イユリさん!」


「次回も期待しています! アワセさん!」


「また魅せてください! 杏子さん!」


 一人一人に声をかけて、そのまま最後の一人との握手になる。


「クリスマスライブも期待してます。リンゴさん!」


「任せておけ……俺に不可能はない……」


 一人称「俺」の突飛な女子だが、その中二病がむしろファンにはストライクなのだろう。ダークサイドに身を置く彼女は、それでも対応の残念さとは負の正比例をするように愛らしくて可愛らしい。美少女とは正に彼女のためにある言葉で。


「お疲れ様でした」


 そのまま俺は帰路につく。晩秋のライブも無事成功をおさめ、ルイが聞くに個別案件も大忙し。すでに国民的な人気は出ているし、ルイとタマモのどちらかが出るコマーシャルは合計して二日に一回は必ず見る程度には普遍的。動画コマーシャルともなるとギャラも相応出るだろうし、オメガターカイトの未来は明るい。


「佐倉氏。今日も感想戦は来ていただけない?」


「何かと忙しいもので」


「あれほどの熱を込めておきながら、我々と語らぬとは惜しい御仁よ」


「すんません。でも悪意があるわけじゃないので」


 ただ、俺の取り巻く状況で、どの面下げてガチ恋勢と語り合えと。おそらくメイド喫茶に向かったのだろう。オタクが感想戦を語り合うとすれば、そこが最も合致する。


 さて、じゃあ俺は俺で。


「佐倉くん。感想戦しない?」


 俺のSNSにそんなメッセージが送られてくる。ファンの見送りを終えたのであろう。杏子からだ。


「メッセージでいいなら付き合うぞ」


「そこは顔を合わせてさぁ」


「思ったより俺はお前を警戒してるからな」


「ナニもしないって」


 なに、をカタカナ変換するな。


「私可愛かった?」


「悔しい。けど。可愛かった」


「ネタに走らなくていいから」


「真顔で言えるか」


 そのまま箱を出て、駅まで歩く。電車にさえ乗れば、あとは駅近マンションまで自動的に。


「あー、汗かいたなー」


 それを俺に認識させてどうするつもりだ。


「パンツも汗が染みただろうなー」


 そんなことに釣られられられれれれれ……。


「じゃあな」


 最高位の忍耐で精神を律し、俺はそれだけ打つ。どうせグループで反省会はするんだろうし。飯も食ってくるだろうから、俺に出来ることはそう無い。家に帰って風呂でも入るか。オタ芸を打つのにも体力はいるし。甲子園の選手より応援団の方が体力がいるとはよく聞く話。


「もうちょっとこうさぁ。打てば響くものが欲しいのです」


「ソレを俺に求めるな」


 杏子を嫌いになったわけではないが、納得しているかと言われるとそれも違って。


「やっほろー。どうだったぞマアジ?」


 これはルイ。


「偏に言って最高だった」


「お風呂入れておいてね。お湯の温度は四十二度!」


「了解奉った」


「あたしのパフォーマンスはどうでした?」


「タマモは何時だって完璧だな」


「えへへ(照れているアニメキャラのスタンプ)」


「クリスマスライブも期待してる」


「ちゃんとボクのこと見ててね」


「あたしもです」


「もちのろんでございます」


 俺とルイとタマモだけのSNS空間。そこでならファンもガチ恋勢もあり得はしない。ガチで俺はルイとタマモと付き合っているんだなぁ。


「お風呂一緒に入るぞ?」


「あたしも構いませんよ」


「疲労しそうで怖い」


「あんだけオタ芸打てばねー」


「ちゃんと伝わったか?」


「愛してるぞ」


「愛してます」


 いかん。今俺最高に気持ち悪い表情になっている。


「感想戦は行かないんだ?」


「いつものことだからな」


 語り合いたい気持ちはあるにはあるが。それが出来るかと言われると話はまた違って。


「俺の女だ……って言っていいんだよ?」


「実際にマアジの女ですしね」


 俺も出来得るならば実行したいが、それやると方々から石を投げられる。


「杏子からメッセージ来てるでしょ」


「当たり」


「何て?」


「感想戦のお誘い」


「行かないよね?」


「無論」


 とか言って、杏子と色々やっているのはこの際どうなんだという話でもあり。あいつのパンツを頭から被ったとか、どう表現すれば穏便に済むんだ?


「反省会はするんだろ?」


「一人欠員」


「へえ。誰?」


 と聞いたところで俺に同行できるはずもないが。


「リンゴ」


 ああ、リンゴちゃんね。今のところ俺と全く関係がない最後の一人。ある意味でオメガターカイトの良心で、俺にとっても何も思わなくていい心の軽くなるメンバー。別に好きとか嫌いとかじゃないが、清い心で応援できるというのはアドバンテージ。別にルイやタマモを推すのが疲れるという話でもないが、ガチ恋勢を前にして何も思わないということも不可能で。応援はそりゃぁする。ただライブで一ファンとして振る舞っていると、俺の中で我儘な感情が首をもたげるのも事実で。南無八幡大菩薩。


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