第106話:ところで杏子は
「ほい。パンツ」
で、そのまま次の日。俺は借りていたパンツを杏子に返した。使ったかって? 黙秘。
「ありがとうございます。ちょうどノーパンだったので助かりました」
「…………」
「大丈夫ですよ。佐倉くん以外に見せるつもりはありませんので」
「そういうことを言っているわけではなくてだな」
「見せていいと仰る?」
「それはダメ」
「えへへ。やっぱり佐倉くんは優しいです」
「それでライブへの準備は出来ているのか?」
「もちろん。だいたいレッスンも最終調整ですよ」
だったらいいんだが。
「メンバーに不和とか起きてないか」
「前ほどじゃない……って感じですね。まぁプロですし。不満があってもライブには反映させませんよ」
前の地方ライブも大成功だったしな。
「黄色のサイリウムを振ってくださいね?」
「断る」
「お願いですよー。佐倉くんに推してもらわないとやる気出ませ~ん」
「俺のお前への推しは既に枯渇してるんだよ」
「にしてはライブ来てますよね?」
「オメガターカイトは嫌いじゃない」
「私のことも?」
「嫌いではないぞ」
「だからごめんなさいって。ほら。ここでしゃぶってもいいんですよ?」
「生憎と体力がもたん」
「え? 既に?」
「あー、いや、そういうわけじゃないが」
実際にはそう言うわけなのだが。
「午後の授業もあるし、体力はコンセントレーションにも関係するから」
「授業中に寝れば?」
「教卓前の席でか?」
これが窓際最後方とかならまだしも。俺は今まで教室の席は教卓前を譲っていない。
「そもそもカッコいいのに勉強やスポーツまで出来るなんて。佐倉くんパーフェクト超人すぎます」
「勉強は出来んぞ」
「進学校で学年十位以内キープしてれば十分です」
まぁ他に誇れる時間潰しもないしな。ゲームとかしているわけでもないし。あえて言うならオメガターカイトの動画を見るのが趣味。あとオメガターカイトの楽曲ヘビロテ。
「ふーんだ。佐倉くんの裏切り者」
だからお前がそれを言うか。
「その佐倉くんが使ったパンツを履きますね」
そう言って、足元に持っていく。スルリと履かれたパンツはスカートの中に消えた。
「これって間接的なセクロスでは」
「一応妊娠の可能性は排除しているがな」
「ぶっかけなかったんですか?」
「こすっただけ」
事実は黙秘だが。
「それだけでもテンションあがる私は変態?」
「忌憚なく言えばな」
「佐倉くんは興奮しなかったんですか?」
「超~した」
「なんなら本番オーケーですよ」
「オプションは?」
「今なら無料でーす」
今ならというか。常に無料だろ。
そんな頭の悪いツッコミをすべきか悩んでいると、チャイムが鳴った。さて、勉学だ。
「…………ヒソヒソ(やっぱりアレは幻?)」
「…………ヒソヒソ(どう考えてもなぁ)」
「…………ヒソヒソ(サークラちゃん可愛かったんだがなぁ)」
俺を見て、話題にするのはいいんだが。別に男を篭絡する趣味はない。アレはとある夏の日の幻と思っていただこう。秋だったが。
「じゃ、今日はここまで。気をつけて帰れよ」
午後の授業も終わって。ホームルームも終了。俺は帰るか、と思っているとラインが来た。ルイだ。
「今日の晩御飯は?」
「とろろそば」
「大好物だぞ」
そりゃようござんして。
「杏子は何もしてきてない?」
「今のところはなー」
マジでパンツを渡されたことは墓場まで持っていくしかない。
「イユリとアワセも来るってさ」
六人分のメシか。イユリとアワセはあのマンションに住んでいない。俺とルイで一室ずる。タマモとサヤカが二人暮らしだ。とはいえ俺の料理は食いたいらしく、結局全員集まることも珍しくない。ルイとタマモはグラビア撮影がある。なので時間の調整も必要だろう。二人ともおっぱいが大きいから、性欲滾る青少年には特攻攻撃だろう。俺が言うなって話だが。タマモはGカップの爆乳でとっても執行執行できるのだが、最近はルイもデカくなってきた。Dカップの時点ですでに巨乳だが、昨今はさらにカップの評価に訂正が入っている。ABCの歌を歌わないと、Dの次のアルファベットを俺は思い出せないのだが。
周囲の俺を見る目にはある程度の無視をして、俺は駅まで歩く。途中でマーケットに寄ってソバと山芋を買う。とろろは壱から作る所存。別に時間なんて大量にあるし。
「君が好き。愛してる。アイラブユーでラブミードゥー」
オメガターカイトのナンバーを口ずさみながら、買い物を済ませて家に帰ると。
「お姉様~!」
イユリが突撃してきた。
「何か?」
「このブラジャーをつけてください! パッド付きデスよ!」
「ソレで俺にどうしろと」
「その胸を揉ませてください!」
楽しいか? それ。
「お姉様ぁ」
「うへへぇ。おにーさんのお尻ぃ」
で、パッド入りブラジャーを装備するべきか悩んでいる俺のお尻に、サヤカが突撃してくる。俺の尻に頬を擦りつけて至福のひと時らしい。女性の尻に頬擦りするのは俺も興奮するが、男の尻って需要あるか?
「もうこの桃尻が最強だにゃー」
そんなもんかね。
「今日は休養日だったにゃ?」
「流石に毎日出すと俺ももたんからな」
「ラブコメ主人公にゃらもっと絶倫にゃのににゃー」
「あんまりアレも大きくないだろ?」
「うーん。サヤポンもお姉ちゃんたちも他の男を知らないから」
お前、夢の中で童貞を理解らせておきながら。
「で、今日のご飯は?」
「とろろそば」
金具に山芋を擦りつけて嬲るように削るんだぞ。