第104話:杏子のパンツ
「「「「「……………………」」」」」
俺の学校での評価に対しても、少しだけ思想がいるようになっていた。文化祭の可愛いサークラちゃんが、今の俺と重ならないのだろう。寝不足っぽいクマを作って、頬がこけている様に影をつくり、そばかすがもろに顔面を覆っている。文化祭での俺の可愛さは幻だったのではと囁かれる始末。俺としても、あまり素顔を他人に見せるのは遠慮気味なので、フェイクメイクについて自分からペチャクチャ喋るつもりはない。
「くあ」
そうして学校で噂されながら、それを全てスルーして俺は教室に向かう。すでに杏子のイジメの問題は解決している。さすがに文化祭での吊し上げが効いたのか。彼女に悪意を持って近づこうとする生徒はいなくなった。俺としてはめでたしめでたし。そのまま晩秋のライブに向けてサイリウムを補充する以外の予定が無く。
「――――緊急です」
俺のスマホに入っているオーケーマアジが緊急事態宣言。そうしてポイントされた座標を見ると、特別授業棟の女子トイレ。あまり昼休みに人が近づく場所ではなく。用事があってもトイレまでは利用しないだろう。つまりここに行くと百パー杏子と二人きり。それも邪魔の入らないトイレで。
「…………」
登校して、授業を受けて、それから昼休みに飯を食っている最中の出来事だった。ちなみにゴボウ天うどん。俺はゴボウが好きだった。一番好きなのは花言葉なのだが。
「まぁ行くしかないよな」
なんにせよ、杏子に呼び出されたら、親の死に目の次くらいに優先されるべき。
「はいはーい?」
周囲に人がいないことを確認して、それから女子トイレに入る。座標は何番目のトイレなのかまで表示してある。一番奥の空間だ。そうして扉が開けられて、そのままトラップと言うか……俺を出迎えた杏子が俺を抱きしめて、そのまま空間に引きずり込む。
「佐倉くん♡」
二人きりになりたかったのだろう。俺に甘えるようにしな垂れかかる杏子を見て、俺は昨夜の夢を思い出す。そういえばこうやってサヤカも甘えてきて、二回戦目を所望していたな。
「ねえ、なんで呼ばれたかわかります?」
「俺とイチャイチャしたいんだろ?」
「そうですね。凄くしたいです。私は佐倉くんが大好きですから」
そーですかー。
「それで? キスか? 放尿するか? それともさせられるか?」
「佐倉くんはどっちがいいです?」
「アンモニアは身体によくないから摂取はしたくないな」
「じゃあかける方?」
「お前が午後の授業に出られなくなるだろ」
放尿されて、そのままどうする気だ。と、俺が思っていると。
「今日はちょっとわがままを言いたくて」
「抱かんぞ」
「押し倒すなら場所を選びます。さすがに学校でやると内申に響きますし」
トイレから嬌声が聞こえればまず間違いなく生徒指導。
「じゃあなんだ」
俺が言うと、杏子はスカートの中に手を突っ込んだ。だいたい腰の側面あたりに両手を置いて、スルリと足元まで下げる。その手に捕まれたパンツの横端がずり下がり、そのまま杏子はパンツを脱いだ。
「おい?」
俺の疑問に対する答えも無く。だがそのままノーパンになった杏子は足を上げてパンツを脱ぎ去り、そのパンツを胸元まで持っていく。
「私の脱ぎたてパンツです。どう思います?」
「可愛いガラだな」
「ちゃんと可愛いと思ってもらえるのを選んだんですよ?」
だから何だとしか言えないわけで。
「はい」
そのパンツを張力で広げて、ゴムを伸ばす。その広げたパンツを俺の頭部に持っていき、まるで変質者でも演出するように被せてみせる。今、俺の頭に杏子の脱ぎたてパンツが重ねられている。変態御面のように顔に付けられなかっただけマシだとかいう比較は意味が無いのでしないとして。
「で、俺にどうしろと」
「男の人って女子のパンツを頭にかぶりたいんじゃないんですか?」
否定も難しいが、実際にやっている奴はあんまり見ないな。
「なので被らせてみました」
俺の頭部に女子のパンティが被らされている。その異常事態に俺はどう対処すればいいのか。まだしも富士山が噴火した方が対応がわかりやすいような。
「まさかこのまま授業に出ろとか無茶苦茶言わないだろうな」
「まさに、まさか、ですね」
「じゃあ何で被せた?」
「えーと。ノリで」
それもそれでなんだかな。
「大丈夫です。こういうことをするために予備のパンツを持ってきていますので」
そう言って、新しいパンツを履く杏子。
「ちなみに下の毛も金色なんですけど……見ます?」
「遠慮する」
心からの言葉だった。
「じゃあそのパンツは貸借しますので、使って返してください」
使って?
「もちろん示威行為ですよ。本当は佐倉くんのパンツを貰いたいんですけど、私の性癖的には、脱いだパンツを佐倉くんに渡して、使ってもらった後、そのパンツを私が利用する方が得策かと」
得策と言う言葉の意味が俺と杏子では乖離しているのは分かった。
「この脱ぎたてパンツを示威行為に使っていいんだな?」
「遠慮しないでくださいね」
「で、使った後返せと」
「洗濯しないでください」
「一応言っておくが、ぶっかけたりはしないからな?」
「擦りつけるだけでいいですよ。執行執行してくだされば、それで十分です」
なるほど。そのパンツで以て、お前のおかずになると。たまに思うんだが、オメガターカイトってどういう選別で現メンバーが選ばれたんだ? 性癖じゃないよな。多分……。
「ほら。これで佐倉くんは私のパンツで執行執行して、その使用済みで私の核燃料が再燃するんですよ」
プルサーマルのつもりか。
「どうせ性欲を当てる相手もいないでしょ」
「そうだな」
今日最高の緊張感だった。どもることなく、困ることなく、躊躇うことなく、「そうだな」と答えなければならないのは、俺にとってかなりの難度。まさか言えねえ。既にオメガターカイトの五人と関係を持っているとか。正確にはアワセとは関係を持っていないんだが、アレを除外するのも定義的には違うだろう。実際に俺とサヤカのバスケは見せているわけだし。
「とすると、このパンツはどうしよう?」
俺は頭に被せられているパンツを困ったように取り扱う。このまま被っていたいが、場合によっては事案になる。オメガターカイトの杏子のパンツとかネットオークションで売ればいくらになるんだ。資産価値が激しすぎる。
「じゃあ明日返してね?」
つまり明日までにやれと。あまり継戦能力は高くないんだが。そこはルイ達にも認知してもらっているし、どうやっても二回戦で終わりだ。しかも俺にとっての二回戦目ってボクシングで言う最終ラウンドの様相。全力を尽くした後の残穢で呪術を使うような。