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第100話:事態は混迷を極め


「庭に出ませんか?」


 桔梗をあしらった着物の臼石さんが、俺にそう言う。庭園は丁寧に構築されており、風景としては大したもの。その風景を見ながら臼石さんが悲しそうに言う。


「わたくしの性癖で幸せになることってできるんでしょうか?」


「普通に結婚して家庭を築けばいいのでは?」


「その夫がわたくしでない誰かと寝ていることに興奮する女が……ですわよ?」


 それは俺のフォロー領域を超えている。


「ドキドキするんですわ。自分の思っている男性がわたくしではない女性を抱いている。そのことに興奮してしょうがないんですの」


 ふーん。へー。だから何だとしか言えないわけで。


「じゃあ今回の縁談は無しということで」


「引きましたわよね」


「引いてはいないが」


「正直に言うと」


「中々御高尚な趣味だなと」


「マアジさんはカッコいいですわよね」


「自覚はないが、そう言ってくれるのは嬉しい」


「貴方様に彼女さえいてくれれば」


 その場合臼石さんの性欲を鎮めるのってどうすればいいんだ? 彼女の前でルイやタマモを抱けばいいんだろうか。


「せめて最後にキスしてくれませんか」


「アイドルだろ。お前」


 ついでに俺の推しているグループのメンバー。


「マアジさんにならファーストキスを捧げられますわ」


「いや。御遠慮めして」


「なにかキスを拒絶する理由でもございますの?」


「童貞だから」


「…………実は彼女に不誠実だから……とか?」


「まっさかー」


「いますのね!? 恋人が!」


「イナイデスヨー」


「もう! そうならそうと仰ってくださいませ! わたくしとしましてもマアジさんは推しに出来ますので恋人がいるならわたくしを差し置いてニャンニャンしているはずですわよね?」


「それ嬉しいか?」


「嬉しいですわ!」


 あ、そう。


 日本屋敷を模した庭園で二人で歩きながら何言ってんだって話だが。キラキラした目で俺を見る臼石さんは、まさに寝取られに恋する少女と言った感じで。俺自身も何を言っているのか理解できてないところがある。


「ちなみにもう寝ていますの?」


「ネテナイヨー」


「できれば寝取られ動画レターをわたくしに送るってできます?」


「そこまでして何がしたいので?」


「示威行為ですわ」


 あー。そう。自分の想い人が別の女と寝ていることに興奮する。それはまぁ別にいいのだが。いやまったく良くはないのだが、それはそれとして。


「アイドルとして俺をキスはマズいだろ」


「もちろん秘密ですわ。マアジさんとキスしたことをきっかけに貴方様に想いを寄せて、そのわたくしを裏切るようにマアジさんが別の女を抱く。これが王道と思いませんこと?」


 まったく思わんのだが。


「とすると臼石さんにとってファンって何?」


「ファンですわ」


 それ以上でも以下でもないと。


「マアジさんはオメガターカイトの推しでしたものね。注目しているのは?」


「黒岩ルイ」


 あっさり俺がそう言うと。


「あはぁ」


 腰砕けになって臼石さんが崩れ落ちた。とっさに俺は彼女を支えて、その細い腰に腕を回す。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫ですわ。ちょっとエクスタシーを感じただけですの……」


「俺の推しがルイだと知って?」


「箱推しと仰っていませんでしたか?」


「まぁあえて言えばです」


「あ♡ あ♡ …………あぁ♡」


 推しかもしれない男子が別の女性を推している。そのことだけで彼女は逝ってしまうらしい。


「とりあえず部屋に戻りましょう。落ち着かないことには……」


 そんなわけで、彼女を抱えてお見合いの部屋に戻ると。


「…………何してんの?」


「お茶だぞ」


「…………お茶ですね」


 玉露を飲んで煎餅を齧っているルイとタマモがいた。


「出てくる意味わかってんのか?」


「わかってはいないかもしれないけど。マアジがアワセを想っていそうだったから」


「…………マアジが誰の男か分からせようかと」


 ボリボリと煎餅を食べながら、そういう二人。もちろん臼石さんはキョトンだ。


「マアジ……さん?」


「何か?」


「何故ここにルイとタマモが?」


「俺のお見合いが不本意らしく。監視目的でついてきた」


「と言うことは……マアジさんの恋人って……」


「ルイとタマモだったりして」


「あ♡ あ♡ あぁあぁぁ♡」


 さらにビクンビクンと臼石さんが跳ねる。痙攣したように……というか事実痙攣して、彼女はエクスタシーを迎える。


「素敵ですわ。マアジさん。わたくしをここまで想わせておいて、同じグループメンバーと恋仲になっているなんて」


「寝取られは満足したか?」


「わたくしの前でお二人を抱いてくれますか? マンゴーに挿入して愛し合ってください」


「一応清いお付き合いをしているのであって」


「寝てはいないと……」


「……………………」


「いるんですね?」


「間接的にな」


「それで十分ですわ」


 俺とルイとタマモの成功体験を見せてくれと、哀願するように縋る臼石。


「マアジがいいならここで出来るぞ」


「…………あたしも異論はありません」


 俺があるんだよ。


「マアジさん」


 はいはい。なんでしょうか?


「わたくしと婚約しませんか。そして婚約者のわたくしを放置してルイとタマモと爛れた生活を送ってくれませんか?」


「お前はそれでいいので」


「望むところですわ!」


 望むのか。それもどうよ?


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