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銃声の聞こえない時間

最終話です。

「ミスター・プレジデント。ソ連大使がお見えです」

「うむ。会おう」


 挨拶もそこそこに


「ミスター・プレジデント。我が国は困っています」

「軍隊は余裕が有るように思うがね。もうすぐドイツだろう。違うかね」

「…それが軍部の暴走でして。今は元の位置まで戻っております」

「元の位置というのは、ベラルーシのことかね」

「ポーランドのソ連系住民の声に応えただけです」

「ポーランド政府はそのようなことを認めていないが」

「それは現地に来て住民の声を聞いていただければ、誤解であると分かりましょう」

「フム。それはまあ良いだろう。本題はなんだね?」

「武器を売っていただきたい」

「我が国の中立法を知っているのだろう。駐アメリカ大使なのだから」

「中華民国にはイギリス経由で売っていますな」

「あれは対日本戦用で内戦用ではない。また内戦状態になりつつ有るので減らしている」

「航空機に変えて、ウラジオストクまで回していただけないでしょうか」

「イギリスは許さないだろうな。イギリス商船を使っているのだ」

「お国の商船ではいけませんか」

「問題外だな。議会の承認が得られない」

「百機単位で、でもですか」

「…払えるのか」

「お支払いしますとも」

「金は無いのだろう。スペインで銀行強盗をするくらいだ」

「あれは、支援した代金です」

「義勇軍だと思ったが」

「武器の代金です」

「まあ、諦めたまえ。今は良い風が吹いていない」

「ダメですか」

「君、ソ連大使はお帰りだ。また良いお話を聞かせて貰いたい」

「また参ります」


 ソ連大使は書記長からの命令で動いているだけだ。ただ、彼もソ連が我が国で何をやったか分かっているはずだ。

 それで助けを要請しろという指示を出すのか。書記長の奴は度しがたいな。アメリカが奴を助けることは無いだろう。助けたら私の政治生命が終わってしまう。





 ソ連は既定の行動として、フィンランド侵攻を再開。それに対する反撃は激烈だった。

 ろくな装甲車両が無いはずのフィンランドに、KV-1を持ってこないと撃破出来ない戦車チャーチル。数の主力であるBT-7では勝てない。

 妙にちょこまか動き回るBT-7クラスの戦車(新砲塔チハ)はBT-7を容易に撃破した。

 オマケに重いKV-1は活動領域が限られ、BT-7でしか行動出来ない地域では、機甲戦力は不利だった。新型のT-34は、数が少なく初期不良に悩まされ大して活躍していない。   

 空は空で、見た事の無い空冷機が自由に飛んでいる。ドイツ爆撃に護衛として飛んできた戦闘機とは違う機体だ。デザイン的にはノモンハンで見たType97とかいう奴に似ている。他にも、フランスやイギリスの戦闘機が多数飛んでいる。

 数の力で押し込むものの致命的な航続距離の短さ(滞空時間の短さ)により、局地的な制空権の確保も一時的にしか出来ない。パイロットの平均技量も、通信機の数と性能も、ソ連は負けていた。

 ようや冬になり戦車が泥濘地をあまり気にしなくても良くなった頃。歩兵部隊は数で勝って戦闘では負けるという、空戦や戦車戦と同じ事態になっていた。

 

 同じ頃、ポーランド国内ではドイツ軍を主力とし、英仏が支援する陸軍と空軍がソ連を押し出し始めている。ソ連は頑強な抵抗を行うも、フィンランドと同じ理由で押されている。


 ソ連(同志書記長)の欲望は砕かれつつあった。とどめを刺したのが、スモレンスク爆撃だ。イギリス空軍を中心とした合同爆撃隊が鉄道施設を数回にわたり爆撃。補助鉄道網の一つヴェリーキエ・ルーキの鉄道施設も爆撃された。これにより、前線への兵器輸送を不可能にしてしまった。

 ベラルーシでは無く、ソ連国内を直接爆撃出来る能力があることを教えてやる必要も有った。

 この時、合同爆撃隊に何故か日本人らしき搭乗員の駆る戦闘機が混じっていた。

 イギリス空軍の爆撃機には採用されたばかりのランカスターが実戦テストとして参加している。主力はハリファックスだ。護衛戦闘機はA6M3bだった。他にこの距離を護衛出来る戦闘機は無い。


 ソ連軍は、北ではカレリア地峡南部まで押し戻された。東ではベラルーシまで押し戻されてしまった。

 結局、ここで休戦を持ちかける。戦時体制に移行したばかりで、物量に不安があったし、損害が思いのほか多くなりすぎたせいだ。

 戦略物資の不足もあった。ソ連で産出しない物資は輸入するしか無いが、英仏米に多くが抑えられている。このまま行けば兵器生産に支障が出て、じり貧で負けるのは確実だった。

 ソ連はまず休戦を行い、停戦交渉のテーブルに着いた。


 結局、第2次冬戦争で負けが込みポーランドからも追い出されたソ連では、交渉で強気に出ることが出来なかった。戦略物資も抑えられ、勝ち筋が見えないのだ。

 ポーランドとフィンランドへの謝罪と賠償を講和条件とされ、書記長の執務室は見るも無惨なことになる。同時に数年間、戦車・戦闘機・爆撃機の数量制限を呑まされた。


 ドイツも戦争の処理を続ける。当面は浮上出来ないだろう。稼いでも、賠償で取られる。軍事費の多い予算など編成も出来ない。



 ポーランドは独立を取り戻し、ヨーロッパ中央につかの間の平和が訪れる。




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

ベルサイユ条約が厳しすぎてドイツを追い込んだという分析もあります。

今回は程々の賠償額にされたはずです。

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