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ピーターパンは帰れない  作者: 師走こなゆき
2.やっぱり、戦場だったのか。
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2-P.1

 今日はどうにもやる気が出ない。と言うより、最近ずっとやる気が出ない。


 学校の教室で、友達に話しかけたかったけど、どうにも受験生の女子たちは勉強勉強で、昼休みですら、右手にサンドウィッチ、左手に英単語帳という状態。その英単語帳すらも食べてしまいそうな勢いで勉強している女子に話しかけるなんて、到底できる気がしない。


 体育のマラソンで「一緒に走ろうね」なんて言って、一人で走り抜けて行ったあの子はきっと、今度もわたしを置いて行くんだろうなあ。


 そんな女子に対してかほとんどの男子は、隣の高校のあの娘が可愛い。とか、昨日のテレビ番組に出ていたあのタレントが。とか、受験シーズン真っただ中のこの教室では、場違いな会話を大声でしていて、よく、女子に男子はバカだ。黙れと言われていたけど、今のわたしはいっそ、そのバカに混ざってしまいたかった。でも、普段男子と話をしないわたしには、話しかけるような勇気もなく、結局、放課後まで黙って、教室の窓から、いつも通り晴れ渡った空を見ているしかなかった。


 塾でもボーっとしてしまい、いつも通り、教室の真ん中から少しずれたくらいの、目立たない席にいたにも関わらず、注目されてしまった。


 私はお前らより何でも知っているし、偉いんだといわんばかりに、ふんぞり返った男の講師に「小鳥遊さん。あなたはこの受験という名の戦争を、生き残る気はあるのですかぁ?」なんて、つまらない怒られ方をしてしまった。


 ……やっぱり、戦場だったのか。


 帰り道。目一杯に呼吸が出来て、いつもより足取りも気のせいか軽い。


 それでも、家に帰るとまた、部屋で勉強しろとか、うるさく言われるんだろうなあ。なんて考えると、帰るのがどうしようもなく嫌になり、家に帰るのとは逆方向に曲がってみた。


 おそらく、家と塾の間では初めての……寄り道をした。


 わたしの知らない道。いや、近所だからおそらく知ってるんだろうけど、暗い中見る道は、昼間見るそれとは、まったく違う一面を見せ、わたしを不安にさせる。


 しかし、それとは裏腹に、夜道をフワフワと歩いていると、わたしは自由なんだと思えてくる。それが、思い違いで、一瞬のものでしかないことは心のどこかで分かっているけど、それでも、わたしは酔っているようにその流れに身を任せていたかった。


 ふと道の先をみると、何か青白く光る物体が見えた。


 ……自転車? にしては大きいし……車にしても……大きすぎる? 一つしかないし。


 大きさ以上に不思議なのは、淡い光が、ユラユラと不規則に漂ってみえること。


 ……まさか、幽霊?!


 に、逃げなきゃっ。でも、気になるし……。


 興味津々にわたしは、早足で、かつ足音をさせないように近づく。距離が縮まるにつれ、全体が見えてくる。


 ……子ども? こんな遅くに?


 どうやら、小さな――小学校低学年くらいの子が、道路を踊るように跳ねまわっている。淡く発光するレインコートを羽織り、テルテル坊主のような姿で。


 ……あれって……なに? 男の子? 女の子?


 色んな疑問符が頭をいっぱいにする。


 しかし、わたしはその子から、目が離せないでいた。


「おねえちゃん、なに、してるの?」


 !?……不意に背後から声を掛けられた。声のした方を見ると、淡く光るテルテル坊主のような、道路で踊っている子と同じ姿をした子が立っている。


 さっきの子が瞬間移動でもしたのかと思い、そちらを見ると、テルテル坊主は変わらずに舞い続けていた。


 ……二人?


 さらに増える疑問符。わたしの頭の中はもう、ぐちゃぐちゃになっていた。


「ね、この、おねえちゃん、ヒイのこと、覗いてる」


 隣にいるテルテル坊主が、もう一人のテルテル坊主に声をかけると、ヒイと呼ばれた子は、ふと足を止め、近くに歩いてきた。

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