表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピーターパンは帰れない  作者: 師走こなゆき
6.わたしも、どこか隠れようかなっ。
16/18

6-P.6

 ヒイがさっきとは違う、大人の表情ではなく、子どもの笑顔でこちらを見ている。表情が戻ったことは嬉しいけどね……今それを聞く?!


「謝らなくて、良い。教えて」


 うう、セイまで……分かったよう。


「あの……その……いまは…………無いんだ」


「ないって?」


「大人に近づく毎に分かるんだ……この人には敵わないって、自分があまりにも凡人なんだって」


「そっか……」


 大人はみんな努力すればって言う。でもね、努力すれば努力するほど、他人との……力量の差って言うのかな? それがね、分かるんだ。努力すれば努力するほど、放されていく。そしたら、その人以上に努力すればいいって、他人は言うんだ。どうすれば良いの?


「じゃあさっ、いっしょうけんめい生きてみるっていうのを夢にしてみれば?」


「ぼくたちの分も、なんて、偉そうなことは、言わないからさ」


 これまでいくら提示されても、何と無く反発してしまっていた夢。けれど今回は、何も反抗できないくらいにすっと、水たまりに水滴を零すようにわたしに馴染んでいった。


 うん……そっか、そうだね。


「それでね、やりたいことを見つければ……ううん、いっそ、見つからなくても良いんじゃないかな。お姉ちゃんは自由なんだからさ」


「……うん。そうだね。それを頑張ってみるよ」


「じゃあ、約束、だよ」


「ゆびきりしよっ」


 右手を差し出し、三人の小指を絡ませる。二人の指は細くて、白くて、少し震えていた。


「これで……」


「約束……」


「うん」


 ありがとう、二人とも。ありがとう。


「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」


 本当はもっと居たい。でも、これ以上居たらさ、本当に帰り辛くなるから……。


 二人が駆け寄り、わたしの体にしがみつき、制服に顔を埋める。


「本当はね、もっと、もっと遊びたかったんだよ」


 ……うん。


「……ぼくも」


 ……うん。


 制服のお腹のあたりが、少しずつ湿っていくのが分かる。


「あのさ、わたしって今日帰ったら……」


「うん…………もう……来れないんだ」


 そっか、なんとなく分かってたんだけど……やっぱり。


「本当に、本当に、帰っちゃう、の?」


 これまでとは違い、セイの子どもらしいワガママ。そっちの方が可愛いよ。


 二人の頭を順番に撫でてゆく。


「ごめんね……わたしは、やっぱりこの世界の住人じゃないみたい」


 少しずつ世界が薄く、霞んでゆく。


 しゃがんで、二人の体に腕をまわし、抱き締める。


 この世界は、子どもの世界。自分のことを星だと主張するように夜空にぶら下がった星も、流れていることを表しているカラフルな細い帯をつけた流れ星も、イカ型のロケットの一つだけ付けられた丸い窓から手を振るネコも、墜落したように地面に刺さったロケットから出てくる宇宙服らしきものを着た二足歩行のウサギも、マンガにありがちなタコらしき宇宙人も、みんなみんな子供のためのもの。


 ピーターパンの世界のもの。


 だからわたしは居られない。


 大人になれてしまうから。


 大人になることを決めたから。


 だからわたしはこの世界で存在しちゃいけない。


 どれだけこの世界に居たいと望んでも。


 どれだけこの世界の住人がわたしのことを望んでも。


 この世界にはいられない。


 またね、ピーターパン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ