99.自分の役割 side:プロキオン
「あ、君さ、今ヒマ?」
夕嵐の双翼のクランホームの片隅で、訓練の後でぐったり動けなくなっていた俺に声が掛けられた。
珍しく。
俺の名前はプロキオン。
一応夕嵐の双翼のホームには入れて貰えてるけど正式メンバーではなく補助メンバー。
なぜかって?
体が小さくて弱いからだよ、言わせんな。
訓練にも参加させて貰ってるけど正直着いていくのに精一杯というか、着いて行けてない。
その証拠に、俺より年下の子もまだ訓練しているのに、俺はこんな所で寝転がるしか出来ないんだから。
でも、魔物に襲われて死にたくはないし、役に立ちたい。
ここには兄貴のおかげで入れて貰ってるけど、ずっと兄貴に頼っている訳にはいかない。
自分の身は自分で守れるようにならないと。
そんな俺に何かを言う人なんてほとんど居ないのに、今日は珍しく話しかけられたんだ。
「あ、うん、何?」
何とか身体を起こすと、見たことある気がするけどよく知らない、灰髪の男の人だった。
「いやー、ちょっと人手を探しててね。
うん、君なら出来そうかな。こっち来てくれる?」
俺なら出来そう、ってそんな事はないだろ。
俺に出来るなら他の誰にでも出来るんだから。
だけど、呼ばれたからには着いていく。
しかもこの人は、俺が入ったことのない、メンバーしか立ち入らない所にぐんぐん進む。
「君にして欲しいのは、生産作業のお手伝いなんだけど。
あ、名乗るの忘れてた。俺はベテルギウス。
一旦やってみるだけでいいからさ、話だけ聞いて?」
「あ、うん、分かった」
何の手柄も上げていないのにクランホームに居させて貰ってる俺としては、断る選択肢はない。
けれどそれ以上に、灰髪のお兄さんベテルギウスは優しい人で、俺の仕事を丁寧に教えてくれた。
というかそんなに難しい事じゃなかった。
アパー草を切る、それだけ。
「生産って、こんなこともするんだな。
知らなかった」
「普通はしないよ? ただ、して欲しいっていう依頼が来てね。
その人はウチのクランにとってめちゃくちゃ大事な人だから、丁寧に仕事をしてくれる人が良いんだ」
「……ふぅん」
「この目盛り通りにしっかり切ってね、出来そう?」
「うん」
ベテルギウスは不安そうだけど、書いてある線の所にナイフを入れるだけだから、全然難しくはない。
俺の家には生産の設備なんてなかったから初めてやったけど、これなら出来そうだと思えた。
剣の訓練よりも余程ラクだ、とか言ったら怒られそうだけど。
「じゃあ、これよろしくね。
こっちの保管庫にまだまだ入ってるから、出来るだけ沢山して欲しいな。
これは正式な依頼だから、ここに居る間はもちろん依頼ってことになるし、クランの成績にも入るから、頑張ってね」
「えっ、マジか!? 頑張るぜ!」
タダの暇つぶしだと思って来たのに、正式な依頼で、その上成績に入るなんて!
チビで弱い俺じゃあ絶対になれないと思っていたクランの正式メンバーにも、もしかしたら成れるかもしれないじゃんか!!
「よーし、頑張るぞー!」
めちゃくちゃ気合いを入れて、ザクザクとアパー草を切っていった。
早くしたくても、大きくならないように、線の通りに、と心がけながら。