85.綿糸
帰宅して一息ついてもまだ少し時間があったから、レシピを書き出してみる。
私が自分で使うならメニューのレシピタブから見ればそれでいいけど、ミンタカに教えないといけないからね。
それに、レシピには材料名しか書いてない。
『レシピ』って名前してるくせに、分量を書いてないんだよ。
それも毛玉に文句言いたい事の一つかな。
言いたい事があったとしても、無いものは仕方ない。
一つ一つスプーンやカップで計量しながら作ってみて、その分量をメッセージでミンタカに送り付ける作業をする。
もちろん、彼女はまだ生産を始めたばかりだし、そもそもこれまでに存在しなかった手法で生産をしてる。メッセージの文字だけで伝えても、上手く出来なくて当たり前だよね。
だから、レシピは送ったけど出来なかったらまた行った時に教える、ってちゃんと言ってある。
もし私がレシピを送るだけで出来るならその方がおトクだし、時間もかからない。
いつかはレシピを提供するだけの人になれたらな、なんてことも考えてるから、ミンタカには文字のやり取りだけで生産過程を再現出来るようになる練習をして欲しいんだ。
色々考えごとをしながらだけど、私のレシピタブにある料理アイテムの作り方は全部書き出せた。
スピカちゃんは家のどこかに行っているようでここには居ないし、何しようかな。
「あ、ねーむちゃん! どーしたの〜?」
料理以外の生産設備は作業部屋にあるけど、台所だけはキッチンダイニングとしてこの部屋にある。
庭に出る勝手口がすぐ隣にあって、今日は気候もいいから開けっ放しにしてたんだけど、その扉の所までねーむちゃんがやって来た。
てこてこ歩いて来るのを何となく近づいて眺めてたら、ねーむちゃんは勝手口のすぐ横に置いてあるカゴに入ったほうれん草を食べ始めた。
「ご飯食べに来たんだね〜。おいしい?
土妖精のアルマクさんが作ってくれたやつだから、とってもおいしいと思うよ!」
ねーむちゃんは魔物の一種らしいから、私の言葉が伝わっているのかどうか謎だけど。
「めぇ〜え」
満足気に鳴いているから気に入ってるんだろうな。
かわい。
なんて、気軽に眺めてたのに。
「め、めぇ〜ぅ」
突然、シャワー浴びた後のわんちゃんみたいに体をぶるぶるっと振った。
「ねーむちゃん、どうしたの?」
ねーむちゃんに何かがあったのかもしれないと不安になったけれど、どうすることも出来ずに見守る。
「めぇ〜」
ひと仕事終えたような達成感に溢れた鳴き声と……。
《綿糸》★★を置いて去って行った。
……どういうこと?