76.弟子
「まず、ミンタカさんには麻婆豆腐の作り方を覚えてもらおうと思います」
「あの〜、アカリさん? 私が教えてもらうんだから、呼び捨てで構わないよ〜
それに、私敬語使えないからさ〜」
そういえば、カストルさん以外が敬語使ってるの見たことないかも。
そのカストルさんだって、最近は使わないし。
敬語はあまりメジャーではないのかな。
「じゃあ、気楽に喋らせてもらうね。
今までのやり方と違うところばっかりだと思うから、少しずつ覚えて欲しいと思ってるよ。
とりあえず今日は麻婆豆腐のつくりを教えるね」
「麻婆豆腐っ! あれのおかげで私は今生きてられるんだよ〜」
「どういうこと?」
「だって、ルビー火山の迷宮は最近活性化し過ぎて手がつけられなくなってたから〜
私の家は火山方面にあるから、とっても困ってたんだ〜」
「じゃあ、他のところへ引っ越せば良かったんじゃないの?」
「他の迷宮も少しずつ活性化してるし、同じだよ〜
次はコハク洞窟の《岩蟲イツトリ》がヤバいって噂だし〜」
「王都の周りって、そんなに沢山の迷宮があるの?」
「あらら〜、アカリさん知らないの?
変なところで抜けてるって聞いてたけど、ほんとだね〜」
「私、最近この辺りに引っ越して来たばっかりだから」
「旅人さんだって言ってたもんね〜
じゃあ、知ってること、教えてあげる〜」
眠そうな目をぱっちり開いて、得意げに説明してくれる。かわいい。
「王都の周りには、火・水・風・土・木・闇の六大属性の最大級迷宮が均等に並んでるの〜
だから、それぞれの力が釣り合って、真ん中に癪気が少なくなってる、って言われてるよ〜」
「なるほど」
「迷宮のボスが生まれてから時間が経つごとに癪気が濃くなって、魔物が強くなるの〜
ボスが討伐されると癪気がすごく薄くなるけど、それからも少しずつ溜まっていって、またボスが生まれるんだよ〜」
「そうなんだね」
「だから、強くなる前に倒さないといけないし、強くなりすぎた《鳳凰フラカン》を討伐できたのはすごいことなんだ〜
火の迷宮の力が強くなりすぎたせいでバランスが崩れて、集団暴走が起こるって、皆不安だったんだぁ〜」
「そうだったんだね。
じゃあ、《鳳凰フラカン》の討伐が出来るようになったのは、私が思ってたより大事なことだったんだ」
「そうだよ〜
だから、アカリさんにはとっても感謝してるんだ〜」
自分が意識してないところで誰かの役に立っていたようで嬉しい限りだよ。