70.かわいいっ!
王都の門から出ててくてく歩くと、のどかな農村の風景が広がっている。
みんなにとってはいつもの景色だからか普通に歩いてるけど、私にしたらとっても珍しい雰囲気で、これが見られただけでも来て良かったくらい。
さらに歩くと少しづつ人里から離れていく感じがして、森が近づいてきた。
「ここら辺りからがいわゆる《魔物の森》だな」
「そんな名前なんですね」
「深層へ行くとかなり強めの魔物も居るし、そういう奴らが偶に迷い出して浅いところまで来ることもあるが、この森は最近安定しているからそんなこともほとんどないな」
「魔物の森って言っても安全なところもあるんですね」
「いや、この面子だから大丈夫っていうだけだから、絶対に一人では行くなよ?」
あらら、また遊びに来ようと思ってたのが顔に出てたかな。
「あかりん! あれが《綿羊》だよ」
アルヘナさんの指さす先にいたのは。
「か、かわいい〜っ!」
名前のとおり羊なんだけど、リアルっぽいのじゃなくてキャラっぽいというか、ぬいぐるみみたいな超かわいい羊ちゃんだった。
「……かわいいか?」
私のリアクションにカストルさんは不思議そうだけど、そんなことはどうでもいい。
「あの子、連れて帰りたいですっ!」
「はあ?」
「だって、かわいいもん!」
「いや、しかし、相手は魔物だぞ? それに、倒さずに連れ帰ったらドロップアイテムは手に入らない」
「もうこの際、素材が手に入らなくてもいいです!
ひつじちゃーん? 一緒にかえろ〜?」
意味不明だと言わんばかりの視線で見てくるみんなは放っておいて、羊ちゃんに近づいてみる。
「めぇーえ」
鳴き声は割と普通の羊に近いし、めっちゃかわいい。
逃げるでも攻撃してくるでもなくきゅるきゅるしたおめめでこっちを見てくる。
「お友達になって欲しいんだ〜
あ、そうだ! 何か食べれるもの無いかな〜?」
こんな時のために、必要かどうかも分からないアイテムをたくさん持って来たんだよ。
我が家で作ってくれてる野菜を全種類と、ベガさんから貰った色々な素材を目の前に並べてみると。
「め、めぇー!」
飛びつくようにほうれん草を食べはじめた。
しかも★★のやつ。
隣にはレア度★のものも置いてあるけど、★★の方が好きみたいね。
草食動物っぽい好みだけど、レア度が高い方が良いとは……
実際飼うとなるとエサを用意するのが大変な人も居そうだね。
ウチならアルマクさんにお願いするだけで大丈夫だから何も問題はないけど。
「うちに来たらもっといっぱい美味しいものがあるよー? 来ないー?」
人間の言葉を理解している訳ではないだろうけど、エサをくれる人として認めて貰えたのか、ふわふわの体を触らせてくれるようになった。
「もふもふだし、かわいいし、お友達になってくれてありがとう〜!
これからよろしくね!」
ウキウキで羊ちゃんを撫でる私を、他のメンバーは完全に理解不能な物を見る目で見ていた。
つら。