49.英雄
「はじめまして。俺は冒険者クラン『夕嵐の双翼』クランマスターのポルックスだ。
今回は、大量の物資提供、本当にありがとう。
貴方のおかげで多くの人の生命が救われた。間違いなく、英雄だ!!!」
「うおおーー!!」
「英雄だ!!」
「英雄アカリ!!!」
何、何? 何のこと?
私が、英雄って?
「何で私が英雄なんですか? 皆さんが討伐したんだから、皆さんが英雄じゃないですか」
「いや、認めるのは癪に触るが、俺たちではボス討伐までは出来なかった。
何度も何度も挑戦して、それでも返り討ちにあい続けていた。
早く討伐しないとどんどん強大化して、いつか王都中心部の多くの人々が住む地域にまで被害が出ると分かっていても、討伐出来ないままだったんだ。
それが、あなたの作るアイテムのおかげでようやく討伐に成功したんだ」
「そんなに大事だったんですね。お役に立てて良かったです」
「大事なんて単純なものじゃない。
あなたの所がどうかは知らないが、このところ王都付近では炎を操る魔物が頻繁に出現していて、家や畑を焼かれる被害が多かったんだ。
運が悪いと住んでいる人が死んでしまうこともあった。
だが、もう火に怯えずとも生きていける。
それは間違いなくあなたの作る《麻婆豆腐》のおかげだ」
熱く語るポルックスさんの瞳には、うっすらと涙が浮かんでさえいるし、隣に立つカストルさんも深く頷いている。
《鳳凰フラカン》は余程大きな脅威だったらしい。
乾杯を前に、みんなにお酒が配られた。
「《鳳凰フラカン》にやられていった仲間たちも、喜んでいるだろう!
長く我らを苦しめたボスを討伐できたことを祝って!乾杯!!!」
「乾杯〜!」
冒険者の皆さんの、迫力ある乾杯の音頭にちょっとビビる。
けど、本当に本当に嬉しそうに肩を抱き合う姿を見て、頑張ってたくさんの麻婆豆腐を作って良かったな、と思えた。
《大麦のエール》★
効果:酩酊+1
「へー、お酒は満腹度の代わりに『酩酊』っていう効果が付くんだ」
「アカリさまは研究熱心ですね。
新しいものを見たら分析せずには居られないとは」
それまで私の胸ポケットの中で静かにしていたスピカちゃんが顔を出す。
「えっ、可愛いじゃん! 何それ!?」
目の前にいた若めの男の人が、スピカちゃんを興味津々で見つめる。
怖かったのか、また隠れてしまった。
「この子はスピカちゃんって言う家妖精なんです。とっても物知りで、生産のことを色々教えてくれているんですよ」
「じゃあ《麻婆豆腐》を作ったのもコレなのか! ありがとう!」
彼は特に含むところもなく純粋にそう言ったんだろうけど、スピカちゃんの気に触ったらしい。
「私を『コレ』って言わないでくださいっ! それに、《麻婆豆腐》を作ったのは私ではなくアカリさまですっ!」
ぷんすこしてるスピカちゃんも可愛いけど、ちょっと落ち着こうね〜?
「ごめん、ごめんって。悪かった」
相手の人も平謝りで、スピカちゃんの機嫌は治ったみたい。よかった。