128.提案
「二人に提案なんだけど」
ただそう言っただけなのに、とても真剣な瞳で見つめてくれる。
「今回の戦いで、生産アイテムの大切さを分かって貰えたと思うの。
だから、今度はみんなが作れるようになって欲しい。その方法を広めたいと思うんだ」
私も、彼らと同じくらいに真剣だ。
「私が1人で作れる量には限りがあるし、全員に行き渡らせるのは不可能でしょ?
だから、自分で使う分は自分で作れるようになって欲しいの」
「なるほど。考え方としては非常に正しいし合理的だとは思う。しかし、難しいだろうな」
深く考え込んだ後のカストルの答えは、それ。
「難しいと思う理由は、何?」
「まず、一番の問題は設備が無いことだな。
出来なさそうだ、という気持ちの面は説得するなり、今回の薬の効果を言うなりと方法があるが、設備だけはどうにもならない」
「なるほどね。今、私が教えたいと思ってるのは錬成の技術なんだけど、無理そうかな?」
料理を教えようと思っていたけど、こんなにも危険に晒されているなら話は変わる。
とにかく生命を守るために、回復薬を作れるようになってもらわないと。
「錬成に使える大釜など、王都中探しても持っている人は片手で数えるほどだろうな。
その連中からしたら、設備は生命線だ。他人に貸すとは思えない」
「分かった。じゃあ、設備は私が買って貸すことにしよう。他の問題は?」
「は? お前、言ってる意味分かってるか?」
本当に何を言っているか分からない、といった風情のカストル。
そんなに変なこと言ったかな……?
「場所の提供はお願いしなきゃいけないけど、それだけじゃない?そんなに大きくもないし」
実際、我が家では五つの生産ブースが一部屋に入っている。
めちゃくちゃ邪魔になるほどの大きさじゃないと思うんだけど。
「いや、問題は場所じゃねぇ、金額だ。
幾らするか、知ってるだろう?」
「うん。10くらいなら買えるかな、と思ってるよ」
実はついさっきまで知らなかったとか言うと怒られそうだけど。
携帯用の大釜を買う時に、据え置きタイプのものも同じページに並んでいたから見たんだ。
据え置きは300万キラ、携帯用は400万キラ。
キラ≒円と考えるとかなりお高いしそうそう買えない物だろう。
だけど、私にとってはポテサラ3個分くらい。
充分買えるお値段なのだ。
「お前、そんなに金持ちなのか?」
「いや、元はと言えば夕嵐のお金だよ?
色々買ってくれてるじゃない」
変なことを聞いてくるな、って思っちゃった。
何で、自分が払ってるお金なのに自覚がないのよ。