125.王国とは
「ですが、これだけの戦闘だったというのに、王国騎士団が出てこなかったのは何故でしょうか。
王都の危機ですし、来ると思っていたのですが」
不思議そうに首を捻るスピカちゃんに対して、プロキオンはもっと不思議そうだった。
「王宮騎士団……? いつの時代の話だ?
俺、歴史には詳しくないから分かんねぇよ……?」
「えっ?」
二人が顔を見合わせる。
何か致命的な思い違いがありそうだけど、私には二人が言うことのどちらが正しいかなんて全く分からない。
「あーちゃん? 起きたー?」
そこへ、ひょこりと顔をだしたベテルギウス。
「あー! 良いところに! この妖精が言ってることが全然わからないんだ!」
プロキオンがいきなり助けを求めたものだから、ベテルギウスは面食らってしまっている。
それでも落ち着いて経緯を話すと。
「スピカちゃん、って言ったよね? スーちゃんって呼んでいい?」
「あ、はい、どうぞ」
唐突にスピカちゃんのニックネームがスーちゃんになった。この人、他人にはあだ名を付けないと会話出来ないの? 面白いからいいけど、スピカちゃんはめっちゃ困ってるよ?
「スーちゃんが騎士団の話を聞いたのはいつ頃の話?」
「えー、ざっと270年ほど前ですね」
「なるほど。その頃は、まだ王国が形を保ててた時期だね」
「えっ、今は王国って無いの?」
思わず口を挟んでしまった。
だって、ここは王都って名前なのに。
「うん。今は、この王都、というかこの街だけがギリギリ存続出来てるだけだね。
王国と呼べるほどの力はないよ。
もちろん、政治基盤はないし騎士団もない。唯一残っている機能は、ギルドとして冒険者を統括することくらいかな。
それも最低限で、基本は生き残った人たちが寄り集まってその日を暮らしてるだけ、って感じ」
「…………知らなかったよ……」
衝撃の新事実だね。
「100年ちょっと前くらいから、魔物が活性化しているらしい。
それまでは人間と棲み分け出来ていたのに、魔物が優勢になってしまって、人間はどんどん生きられる範囲が狭くなっている。
城壁には魔物除けの魔法が掛かっているのに、今回はそれを突破されてしまったし」
「……そうなんだ」
過酷な世界だとは思っていたけど、ここまでとは。
「それにしても、今回の前線はめちゃくちゃ酷かったからね。
あーちゃんが居なかったら、お隣さんみたいに、魔物に呑まれてたかも」
しんみりとそう言うベテルギウスはどこか遠くを眺めるよう。
戦闘中に手伝いに来てくれた時にもこんな雰囲気だったし、何かあったんだろう。
私が聞いてどうにかなる話でもなさそうだから、そっとしておくけど。
本当に聞いて欲しければ言うだろうし、付き合いの浅い私よりも適任な人がきっと居るだろうから。