123.一人より
「戦いに行かなくても良いの?」
プロキオンは弱いらしいから、ここに居て戦わずとも役立つことが出来るならその方がいいだろうけど、ベテルギウスは正式メンバーだと言っていたはず。
それなりに戦えるだろう。
「おれ一人が剣を振るうより、より多くの人を回復させて皆で戦う方が、勝機があると思うから。
正直、前線は押されぎみだけれど、このまま街中へ入らせる訳には、いかないよ」
皆のテンションが狂って叫び倒している中で、ベテルギウスの静かな声は私の耳に染み渡るよう。
「早く、一人でも戦線復帰させないと。
街の城壁が破られるなんてこと、想定されてないよ……」
余程の地獄絵図になっているのだろう、ベテルギウスはあまりにも元気がない。
「大丈夫だって! 私達は、私達にしか出来ないことをやるだけだよ!」
「そうだよね、ありがとう、あーちゃん」
前線で何かがあったのだろう。ベテルギウスは静かにそう言うだけで、いつもの彼に戻りはしなかった。
ただ、淡々と薬草を刻み続けるだけ。
刻み部隊が二人に増えたことで、作れる★★★薬の数は増えた。
★★と★★★を混ぜて作り、自力で逃げて来た人には★★を渡し、復帰する人に★★★を預ける。
そのルーティーンをこなし続ける。
作った薬はカペラちゃんが配ってくれるから、私は機械のように作るのみ。
頭を空っぽにして、何も考えず、何も感じない。
私は大釜の一部にすぎないから、怖くなんてないの。
逃避しつつも作業し続け、集中しすぎていつの間にか日が傾いて来た頃。
ドォーーン!!!!
一際大きな爆発音がして、反射的に身を竦め、辺りを窺う。
最悪、カペラちゃんだけ連れて、大釜とかは見捨てて逃げることも考えたけど、向こうから聞こえてくるのは間違いなく歓声。
「うおっしゃあああ!!!」
「やったぞおお!!」
それからは、怪我人は来るもののさっきまで程のペースではなく、ぽつぽつ来るくらい。
作れば作るだけ無くなっていた★★の回復薬にも少し余裕が出てきて、城壁の方へ行く人に★★★と一緒に預けることも出来るようになった。
それからしばらくして。
「討伐完了だあああ!!!!」
超ハイテンションな人がそう叫びながら通り過ぎて行った。
「終わった、の……?」
安心した。
心の底から。
それと同時に。
意識が無くなった。