119.限界
数分も歩かないうちに、怪我人が固まっている所に行き会った。
「大丈夫ですかー!?」
私の呼びかけにも、多少のうめき声が返って来るだけで満足な返事は出来ない様子。
少しでも動ける人はまだ前線に居て、もう全く戦えない、と言う人だけが下がって来ているのかも。
「よし、カペラちゃん、とにかく薬を作ろう。さっきと同じ感じでよろしくっ!」
「うんっ!」
二人で目を見合わせ、深く頷く。
たった今会ったばかりなのに、強い絆で結ばれている気がした。
片っ端から作っていくけれど、さっきのように誰かが持って行ってはくれない。
動ける人はまだ戦っているから。
「ごめん、カペラちゃん。
出来上がった薬を、みんなに掛けていってくれない?」
私が使うよりカペラちゃんが買う方が速いので、もう既にカゴはいっぱいだ。
手が空いている人がいるなら、ってことで配布も手伝ってもらう。
細かく指示はしなかったけれど、彼女は重傷な人から薬を掛けている様子。
だけど、彼らの傷はとても深く、★の薬を一つかけても少しマシになる程度で完治はしない。
やっぱり、逃げてきた人と戦っている人では傷の程度も違うみたい。
その間にも退却してくる人は少しづつ増えていて、薬を作るのが間に合っていない。
さっきのように、列が無くなる、なんてことはなさそうだ。
「スピカちゃん……まだかな……」
ぽつりとそう呟いてしまった。
さっき、私のスキルレベルは晴れて20に到達した。
★★素材が扱えるようになったけれど、肝心の素材が届かない。
最寄りのリンクポイントである王都西側は使えないだろうから、どこか他の所まで行っているんだろう。
私はどこにあるのか知らないから、どれくらいかかるのか想像もつかない。
ポイントまで着いたら一瞬で帰れるし、あとは素材を送るだけだからそう時間はかからないと思うんだけど。
こうしている間にも、少しづつ負傷者は増えていく。薬の生産は全く間に合っていないし、効果も足りていない。
「スピカちゃんっ……早くっ……」
遠くから激しい戦いの音が微かに聞こえる中、濃い血の匂いとうめき声に包まれて薬を作るのはあまりに非現実的すぎて精神は限界を迎えそう。
薬をどれだけ作っても状況は一向に良くならず、それどころかどんどん悪くなるばかり。
脳内を占めるのは悪いイメージだけで、それは加速していく。
もし、もっと負傷者が増えたら?
もし、薬が間に合わずに犠牲になってしまったら?
それだけじゃない。
もし、ここまで魔物がやって来たら?
もし、前線が崩壊したら?
考えるな、と思うものの、単純作業で頭を使わないから、嫌なことばかり考えてしまう。
正直言って、戦場というのは私にとってあまりに遠い存在で、現実感がない。
だけど目の前の傷はリアルすぎて、あんまり見ると吐いてしまいそう。
もう、限界かも、しれない。
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突然の展開に戸惑っている方、すみません。
今話だけなので許してください。