103.会えば分かる
翌朝。
朝イチで行くとカストルさんに言ってあったので、有言実行とばかりに早い時間に押しかけてきた。
迷惑にならないギリギリを狙って来たつもりだったけど、もうクランホームはバタバタと騒がしかった。
夜は危険だから活動せずに早めに寝て、朝日と共に動き始めるらしい。なるほど。
ホームの様子を見ながら知り合いに軽く挨拶して、カストルさんを探す。
「昨日はこちらの手違いで大変失礼しましたっ!」
「ふぇっ!?」
ようやく見つけたと思ったら出会い頭にめちゃくちゃ丁寧に謝罪された。カストルさんの敬語を久しぶりに聞いたよ。
「な、何を謝罪されているんでしょうか……?」
「アカリさんからの依頼だと言うのに、補助メンバーが受けてしまったようで……。
もちろん次からは正団員が受けるようにするし、昨日の依頼料はもちろん返すし、出来ることは何でもするので許してもらえないだろうか?」
「あ、今日はその件で来てるんですけど」
「分かっている、こちらの手違いだしベテルギウスにはきちんと言い聞かせた、今後は絶対に無いよう俺も気をつける」
「いえ、昨日の人に依頼を受けて欲しいなと」
「……なぜ?」
鬼気迫る形相だったカストルさんが一転、目が点になる。
「私からすると、カストルさんが何に謝っているのか全く分かりません。
きちんと依頼をこなして頂きましたし、出来栄えはこちらの期待以上のものでした。
本当にありがとうございます」
うん、何か重大な行き違いがあったらしい。
カストルさんの言い方から推測するに、昨日依頼を受けてくれた人は本来受けるはずではなかった人なんだろう。
普通なら怒るのかもしれないけど、私はとってもありがたいと思っているから、むしろ感謝したいくらい。
「……本当に、それで良いのか?」
「もちろん。昨日からそう言ってるじゃないですか」
「いや、アカリさんのことだから、今回は許してくれる、的な事かと思っていて」
「むしろ、昨日の人をベテルギウスやミンタカ達の方に引き抜きたいくらいなんですけど。
補助メンバーなら、生産の方に回って貰えたりしませんか?」
「それは、どうだろうか。
恩のあるアカリさんに対してこういう言い方はどうかと思うが、このクランに居る連中は生産をやりたいとは思いにくいだろうから、本人が承諾するかどうか分からない」
「なるほど」
もっと統率的というか、上の命令は絶対なのかと思っていたけれど、そうでも無いらしい。
本人の意思が尊重されると言うなら、その子と話してみればいい。
「昨日依頼を受けてくれた人は、どこにいますか? 本人に直接話したいんですけど」
「訓練所だろうから、すぐに呼んで来させる」
良かった、カストルさんが話の分かる人で。
今もたぶん私の理想は伝わってないだろうけど、とにかく私の良いようにしてくれてるんだから。