102.致命傷 side:カストル
ヤバい、ヤバいぞ……。
コレはこちらの手違いだし、俺の責任だ……っ!
ボス戦でも緊張しない、鋼のメンタルと言われる俺が冷や汗をかきまくっていた。
ことの発端は今日の昼頃。
アカリさんから連絡があった。
生産についての依頼で、内容は『アパー草を切って欲しい』というよく分からないもの。
生産はスキルを使うハズだが、どうもスキルを使わない生産をしたいらしい。
理解出来てはいないが、《英雄》であるアカリさんはいつも俺たちの理解を超えてくる。
今回も同じだろうと思って受け入れることにした。
だが、俺に生産は出来ない。
クランメンバーで裏方担当のベテルギウスに生産は任せてあるので彼を呼び、依頼内容の詳細を話した。
ベテルギウスもよく分からないと言いつつ出て行ったが、その後は何も言ってこなかったので順調に進んでいるのだろうと思っていた。
……ここで、確認して置かなかったことを後々後悔することになるのだが。
他の仕事をしてようやく終わった夕暮れ時に、またアカリさんから連絡が来た。
曰く、今日の依頼はとても良い出来栄えだったので明日以降も継続したい、とのこと。
こちらとしては依頼主に満足してもらえて良いことなのでベテルギウスを捕まえて明日以降も継続だと伝えたら。
「あーちゃん満足してくれたって? それは良かった。プロキオンに言っとくから、明日からは指名依頼で出して貰って」
「は? 誰だ、それは?」
「今日作業して貰った子だよ? 多分正式メンバーじゃないと思うけど」
「お前、アカリさんがこのクランにとってどれだけ大切な人か分かっていて、補助メンバーなどに依頼を任せたのか!?」
信じられなかった。
補助メンバーは、正式な依頼をこなすだけの実力がない、訓練中のメンバーだ。
いずれ力を付けたら正式メンバーに上がって来るだろうが、俺が名前を覚えていないということは上がるかどうかの境界に居るわけでもない。
ベテルギウスのことは信用していて、大切な人からの依頼を任せていたというのに。
何か言いたげなベテルギウスをそのまま下がらせて、急いでアカリさんへメッセージを飛ばす。
補助メンバーに依頼をさせることになったのはこちらのミスだが、幸いにもアカリさんは怒ってはいない。
万が一にも、取り引き相手を他のクランに変えるなどと言われたら、今の勢いが無くなるどころか、メンバーがそのクランに移籍するなどと言い出すかもしれない。
アカリさんは夕嵐の双翼においてそれほどまでに重い立ち位置にいるのだ。
アカリさんは温厚な人だから、きちんと謝罪し、明日からの依頼には信頼の置ける人を配置すれば許されるかもしれない。
明日の面会では絶対にミスをしないようにしなければならない。