8 第8話:女の身体になってやることは一つだよなぁ?!
新が帰って、この部屋には俺と羽山の2人きりになった。
さて俺もそろそろ帰ろうかな、と思っていたら羽山が呼び止めてきた。
「田辺さん、あなたはもう少しここにいてくれないか?」
「………俺もさっさと帰りたいんですけど」
「これからNeoとして活動するのに必要なことだ」
そう言われてしまっては無視することはできない。俺は素直に留まることにした。
「我々はサイバー対策本局にNeoの操作を依頼した。マインデバイス関連のプロフェッショナルたちだ。秘密裏に捜査するとはいえNeoはマインデバイスを脳に埋め込んでいる。遅くても2週間ほどで発見されるだろう。田辺さんにはその間の中継ぎを頼みたい」
「あー、Neoとして今後もずっと活動するってわけじゃないんですね」
「当たり前だろう」
俺はてっきりずっとネオのアバターを使えるものだと思っていた。考えてみれば当たり前のことだったが、なんだかショックだ。
まぁ、2週間だけでもNeoとしてスポットライトを浴びることができるだけ良しとしよう。
今日は久しぶりにゲームを心から楽しめたしな。
「まずは第3世代のマインデバイスにアップグレードしてもらおう」
「えっ、また脳にデバイス埋める手術するんですか?別に痛みとかは感じないけど、正直あまりやりたくないっていうか………」
「安心して欲しい。第2世代のものを埋め込んでいるならそれをアップデートするだけでいい」
そういうと羽山が宙を見始めた。
多分マインデバイスで何かしらの作業を行なっていると思う。
〈第3世代マインデバイスの使用申請を受理しました。アップデートを行いますか?〉
俺はメッセージを受け取ったが、どうしたものかと迷う。
何が起こるのか分からないから、ちょっと怖い。
「…………YESを選択すればいいんですか?」
「そうだ」
俺は覚悟を決めてYESを選択する。ええい、どうなっても俺は責任を取らんからな。
〈アップデートが完了しました。第3世代マインデバイスの送る新しい生活をお楽しみください〉
システムメッセージが届いたが、体には何の変化もない。
「これ、本当に大丈夫なんですか?」
「Neoの顔立ち、髪型、身長………その他様々な情報の入ったファイルがあるはずだ。それをダウンロードすれば晴れてNeoの姿になることができる」
「はぁ……正直そんなことができるなんて半信半疑ですけど」
俺は仕方がないから指示通りに行動する。
ネオを360度から見たデータが入っているファイルを見つけて、それをダウンロードした。
クソ長ダウンロードが終わるまで沈黙の気まずさを感じていると、システムから完了したと通知がきた。
早速自分の手を確認してみたが、たしかに変わっていることに驚いた。
まず爪が違う。歪な形だった深爪は綺麗な長い爪に変わっていた。肌も綺麗で、手のひらも前より一回り小さい気がする。
髪も触ってみると全然違う。元のごわごわとした手入れのなされていない髪質ではない。
ネオの髪型は女子にしては短いほうであるから、肩にかかって鬱陶しいということもない。なんだかいい匂いすらしてきそうだ。
喉に違和感を感じる。なんだか呼吸がしづらい。
やはり女性と男性では喉の構造にも違いがあるのだろうか。
俺に教養なんてものはないから分からないが、これだけ違いを感じるならきっと性差はあるのだろう。
喉を触ってみる。凹凸のない滑らかな喉だった。
喉仏がない――普段あるものがないと強烈な“これじゃない感”があるな。
その“これじゃない感”は下の方にも適用されるはずだが……特にそこに変化は感じられないな。
直接確認するわけにもいかないし…………まぁどうでも良いか。
足も、見える景色の高さも全てが違う。俺はこの凄すぎる技術に感心する。
「まじかよ………科学の力ってすげえ」
そう言ったところで思わず口を押さえた。
声も変わっていた。記憶の中にあるネオの声と少し違っている気もするが、少なくとも俺の声ではないことはたしかだ。
本当にネオになることができた。
なんだか非現実的な気分に包まれる。ネオになることができるとは言っていたが、本当になれることができるとは…………
「こんな技術が存在していたんだな………正直信じられないレベルです」
「うちの親会社のDeedlカンパニーの最新技術だ。現在世界中でも極一部でしか使用されていない」
俺はその話を聞きながら出来るだけ胸の方に目線が行かないようにする。
気にしないように気をつけていてもついみてしまう。ネオの胸は特別慎ましいというわけでもないから視界に入ってしまう。
元カノの胸なんぞ今更みてもしょうがないだろうと言う人もいるかもしれない。
しかし『女子の体になれば胸を思う存分触ることができる』そんな邪念が頭の隅によぎって仕舞えばもうダメだ。俺みたいなダメな男はそれしか考えられなくなる。
いや、落ち着け。俺はもう立派な大人だ。こんな中学生か高校生みたいなことをするべき年齢ではない。
しかし目線にすごく困る。前も見ても視界の端に存在感がある。
俺は仕方がないから天井を見上げる。こうすれば100%胸を見ることはない。天才だ。自分を心から褒めてやりたい。
そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、羽山が呆れたように口を挟んできた。
「ちなみに服の下など隠れている所は再現されていない。具体的には胸から秘部までは元の体のままだ。胸などを触ってもらっても結構だが、本来のそれとは全く違うことはすぐに分かるはずだ」
それを聞いてため息をつく。
そのため息に含めれていたのは安心なのか落胆なのかは自分でもわからない。
「……俺が馬鹿みたいじゃねえか」
「まぁ、なんだ………私たちはいつまで経っても男だということだ」
そう言って慰めてくれた羽山の声は、いつもより数倍優しく聞こえたのだった。
【☆☆☆☆☆】 ∧ ∧
(・∀ ・) <これをな
ノ( )ヽ
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【★★★★★】 ∧ ∧
ヽ(・∀ ・)ノ <こうするのじゃ
(( ノ( )ヽ ))
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