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51 第22話:アイドル部門の創設者


 一つの目のゲスト出演の説明はここで終わりらしい。羽山はねやまはつづきを説明し始めた。


春先桃はるさきももさんって方は知ってるか?」


「うーん、よく覚えてないですね。どんな人なのか教えてもらっていいですか」


春咲桃(はるさきもも)さんはstream社アイドル部門、桜浜(さくらはま)46所属のアイドルだ。桜浜(さくらはま)46の初期メンバーで、可憐な雰囲気を持つ彼女は多くのファンを持っている方だ」


「思い出しました。春咲桃(はるさきもも)……確かに聞いたことのある気がする名前ですね。

 多分俺が活動する前からいたような気がします。彼女が居たからアイドルグループの桜浜は作られたと聞いたことがあります」


「よく知ってるな。田辺さんの言う通り、今の桜浜さくらはま46……なんならstream社の中の『アイドル部門』は春先桃はるさきももさんが居たから作られたものだ。

 stream社創設メンバーの1人でもある。いわゆる四天王と呼ばれている人だ。本人は四天王と呼ばれることを嫌がっているようだが」


「えっ、そんなにすごい人だったんですか」


「田辺さん、あなたメガトンさんの時はあれほとわ生き生きと喋っていたのに、春先桃はるさきももさんについては全然知らないのだな」


「俺ってゲーム以外のことはマジで興味ないんで……まだKOICHIとして活動していた時代に、春先桃さんとは何度か喋ったような気がするんですけど全然覚えていなんですよね」


「ゲーム以外のことには興味がないか……なら良いことを教えてあげよう。春先桃はるさきももさん、彼女はメガトンさんの幼馴染だ」


「嘘でしょう……?」


「大マジだ。2つの目のゲスト出演はそんな春先桃さんが大きく関係している」


 メガトンさんの幼馴染でアイドル部門創設のきっかけになった人――そんな人とネオがどう関係するのか、全く分からない。


春咲桃(はるさきもも)さんは、AR大会リアル開催1日目の4月4日に誕生日を迎える。その誕生日に記念ライブが行われるから、それにともなって、田辺さんには彼女に会って祝福のメッセージを送ってほしい」


 そういえば4月4日は彼女の誕生日ライブを毎年やっていたような気がする。


「それってネオじゃないとダメな理由ってありますか?」


「別に絶対出演しなければならないというわけでもないが……Neoと春先桃はるさきももさんは仲が良かったから、あちらから是非出演してほしいとお願いされているのだ」


「ネオと春先はるさきさんって仲よかったんですね……初耳です」


「接点を持ったのは田辺さんが抜けた後だからな、知らないのも無理はない。stream社全体の大型コラボで意気投合して、そこから仲良くなったようだ」


 大物と仲がいいということで身構えてしまっていたが、春先さんとネオの関係性はただの友人関係のようだ。


 しかしただの友人だからと言って油断はできない。こういうシンプルな関係の方が、相手のことをよく知っているということもある。

 俺がネオだと勘付かれないように気をつけなければいけない。


「春先桃さんの誕生日ライブについて質問はあるか?」


「そうですね……大したことではないのですが」


「小さいことでも構わない。疑問点はなるべき早く解消した方が良い」


「その祝福のメッセージを送る人って、他には誰が居ますか?」


田辺たなべさんの他には、春先桃さんと同じ四天王の2()()や、アイドル部門の桜浜46以外のメンバー、彼女のイメージソングを作ったアーティスト部門の作曲家、古くからの親友であるエンターテインメント部門の方などが呼ばれているようだ」


「なるほど……全員がstream社のメンバーなんですね」


「……AR大会はstream社の身内イベントだからな、そうなるのも仕方ないだろう」


「それもそうですね」


 5年前、ネオがこの大会を開催したときは身内大会ではなかった。

 というか外部から人を呼ばないと盛り上がりに欠けるから、積極的に外部から人を呼んでいた。グループとしてでかくなればなるほど自分達で完結することができるようになるのだろう。

 それが悪いことか良いことかは分からないが、最近stream社が閉鎖的だという話はよく耳にする。


「それでは、オーティナティックⅣについての話に移ろう」


「はい」


「リアル開催2日目(4月5日)に事前の告知通りオーティナティックⅣをプレイしてもらう。誰と戦うかが決まったため、トーナメント表に目を通しておいてほしい」


 俺はそのトーナメント表を見る。


 1回目は莉亜との試合となっている。勝ち抜きのため次に誰と当たるかはわからない。


 莉亜の真価が発揮されるのは格ゲーではなく、チビモンなどのターン制バトルだが、決して油断はできない相手だ。

 彼女のことだ、俺が想像もしないような悪辣な方法で勝利を収めようとするだろう。


 プロゲーマーのメガトンさんと当たるとすれば決勝戦しかない。しかしそこまでには俺が2つの試合に勝って決勝戦まで進まなければならない。決して楽な道ではないだろう。


「それと後もう少しでオーティナティックⅣがプレイできるようになる。忘れていないとは思うが、一応念のために言っておく」


 俺はカレンダーを確認する。


 確かに今日からあともう少しの3月25日はAR大会のネット開催が始まる4月1日の1週間前だ。その間の7日間だけオーティナティックⅣを練習できるらしいから忘れないでおこう。


「オーティナティックⅣがプレイできるようになった日は、ここまで来てもいいですか?ネカフェのチープな設備より、ここの施設の方が使いやすいので」


「もちろん構わない。その時になったら、それ相応の機材をこちらで用意しておこう」


 何から何まで本当にありがたい。


「これで事務的な連絡は終了だ。もう一度聞いておきたい事柄などはあるか?」


「そうですね……Deedlディーデルカンパニーの最新技術について、もう一度説明してもらっていいですか」


「分かった」


 それから俺はもう一度ARとVRを融合した技術というのはどういうものなのかの説明を受けた。

 大まかな部分まで理解できた。細かいところはDeedlカンパニー側が説明してくれるらしいから、そこまで気にする必要もないだろう。


「AR大会までもうすぐですね」


「そうだな、我々スタッフとしてはこの時期が一番忙しい」


「最高の大会にしましょう」


「もちろんだ」


 俺はそろそろ帰ろうと思って身支度を始める。


「羽山さん、お疲れ様でした」


「お疲れ様、今日は帰ってゆっくり休んでくれ」


 最後に挨拶して、ネオの姿になってから羽山のオフィスを出た。


 田辺浩一がこのstream社本部に出入りしていると知られたら色々と面倒臭い。それを回避するにはこうしてネオの姿になるのが一番手っ取り早い。



 本部から外に出た俺は、タクシーを拾ってネカフェの自室に帰った。





 ネカフェに戻ってくると時刻は午後6時だった。


「もうこんな時間か……」


 田辺浩一の姿に戻った俺はトレーニングウェアに着替えた。

 そして軽くストレッチした後、周囲をランニングし始める。


 Neoとして活動しているためARゲームに触れる機会も沢山ある。ARゲームはVRゲームと違って生身の体力が勝敗に影響してくるため、こういうトレーニングも欠かせない。

 筋肉ではなく体力が最重要のため、筋トレよりもランニングに比重を置いてトレーニングしている。







 ランニングを終えて、ネカフェのシャワーで汗を流す。


 火照った体を少し温度の低い水が冷やしてくれる。

 ついでに自分のシャンプーを使って髪も洗う。この時間が一番好きかもしれない。配信を終えて浴びるシャワーほど気持ちのいいものはない



 VIT上のネオのチャンネルを開き、寄せられたコメントたちを読んでいく。

 そしてパソコンを立ち上げて、明日の配信用のサムネを作る。そんなことをしていると、だいぶ遅い時間になってしまった。


 晩飯のカロリーメイトとカップラーメンとコンビニ弁当を食べながら、オーティナティック以外に配信でプレイできるゲームを探す。


 良さそうのを見つけたから、そのゲームのライセンスを見て、配信でプレイしてもいいか確認する。

 ここでよく分からなかったら羽山などのマネージャーに相談するが、今回は問題なかった。


 そのゲームを購入して、もう一度シャワーを浴びてから就寝した。

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