50 第21話:Deedlカンパニーの最新技術
羽山のオフィスに入ると、こちらに気づいた羽山がばっと立ち上がった。
「羽山さん、どうしたんですか?」
「あぁ、田辺さんか……すまない、勘違いしてしまった」
羽山はもしかしたら俺をネオだと勘違いしたのかもしれない。
今は用心のためにネオの姿になっているから、一瞬驚いてしまっても不思議ではないが……
「羽山さん、お疲れなんじゃないですか?こんな勘違いをしてしまうなんて貴方らしくない」
「いや、大丈夫。私はいつも通りだ」
「……そうならいいですけど」
ストリーマーはマネージャーに悩みを相談することができる。
しかしマネージャーは悩みを誰かに吐き出しにくい。だから時にはストリーマーよりも強いメンタルが求められる。
いくら優秀な羽山でも、連日の超多忙な生活にまいってるのかもしれない。
「早速だが、AR大会についての詳細について話したい」
「わかりました」
心配事はあるが、今は目の前のことを一つずつやっていかなければならない。
AR大会も目と鼻の先に迫っている。他のことに気を遣ってられない。
「まずはこのAR大会を開催するにあたって、理解してほしい予備知識がある」
そう言って羽山がマインデバイスを通して資料を送ってきた。
stream社の親会社、Deedlカンパニーが発表した自社の技術について書かれてある。次のAR大会ではその技術を導入するようだ。stream社と連携して、この技術をいち早く世に広めたいのだろう。
『Deedlカンパニーの最新技術』
今回、DeedlカンパニーがAR大会に自社の最新技術を導入させることを決めた。
VRとARを融合させた技術だ。これを使えば、擬似的に意識だけをAR大会の会場まで飛ばすことができる。
どういうことかと言うと、VRでリアルタイムのAR大会会場を作り出し、その中を自由に動き回り楽しむことができる。そしてARでその人の姿をリアルで再現して映し出す、そうすることで実際に会場まで足を運ばなくても、その瞬間の大会を楽しむことが可能になった。
「これは……どういうことですか?」
「わかりやすく言えば家に居ながら、VRとARを技術を使って自分の分身を作り、大会に参加できるということだ。原理的には全く違うが、得られる結果は同じだろう」
「なるほど、なんとなくわかった気がします」
そういえば莉亜がDeedlカンパニーがARとVRを融合させた最新技術を発表したと言っていた気がする。きっとそれのことだろう。
「この前、田辺さんには2つのゲスト出演があると言っていたな。このDeedlカンパニーの最新技術は、その件の一つに大きく関わっている」
「ほう」
「ゲスト出演の一つ目は……その最新技術導入のデモンストレーションを田辺さんに行っていただきたい」
「マジですか……」
「心配か?」
「心配と言われれば、まぁ心配ですね。俺ってその技術についてなんの知識もないんで本当に大丈夫なのかなと」
「これについての技術的な解説や、安全性についての説明はネット開催初日の4月1日にDeedlカンパニーのお偉方がやってくれるため田辺さんはやらなくて大丈夫だ。その代わりにNeoとして大会を見ている人たちを盛り上げてほしい。真面目な話は一切いらない。とりあえずテンションMAXでやってくれ」
「それなら俺にもできそうです。場を盛り上げるのは小さい頃から嫌いじゃないので」
「では、大いに期待しておこう。これは、その最新技術導入のデモンストレーションについての基本事項だ」
マインデバイスから資料が送られる。
『・日時――リアル開催1日目(4月4日)午前10時ごろ、よるねこによるオープニング前
・場所――大会会場の中央広場(ここでオープニングが行われる)
・注意事項――田辺さんが「最高のパーティの始まりだ!」と声を上げると、裏方の技術班がチケットを買ってこの技術で参加しようとしている人たちに参加許可を出すため、このセリフは覚えておいてほしい。またこのデモンストレーションを行うのは、開催者のNeoのみであるため失敗は許されない』
初日の、しかもオープニングよりも前の一番手を俺が務めるのか……やっぱり不安だな。
「これ、オープニング前にデモンストレーションを行うということは、チケットを買った人たちの全員が参加したらすぐによるねこさんのオープニングに移るということですよね。
そこら辺の打ち合わせも必要だったりするんですか?」
「最低限の打ち合わせは必須だろう。田辺さんの負担がなるべく軽くなるようにこちらで努力するが、どうしてもあなた自身がしなければならないことはある」
「やっぱりそうですよね……あー、これからどんどん忙しくなるんだろうなぁ」
「まぁ、特に難しいことはないからあまり気負わずにやってくれ」
羽山の話を聞く限り、俺が綿密な準備をする必要はなさそうだ。
「ARとVRを融合させた技術ですか……なんだか凄そうですね」
「これの導入により、混雑や最大収容人数などを気にせずに運営することができる、本当に素晴らしい技術だと思うよ」
羽山がしみじみと言った。
例年はどれぐらいの人を入れるのか、混雑対策はどのようにするのか――そんな仕事に追われているらしいから、この技術は心から求めていたものだったのだろう。
生身の人間と違って、他人のアバターは自分の目から見えなくすることも可能だ。
従来と違って、今回は参加したいと思う人たち全員を受け入れることができる。その分、直接現地に行ける権利はプレミアム中のプレミアムらしい。




