45 オーティナティック実況(15)
〈ゲームオーバー〉
俺はうつろな目でタイトル画面を眺めていた。
コメント:草』
コメント:流石にこれは笑うしかありませんね……
コメント:初見殺し乙wwwww
「はぁ…………」
俺はいったい、このゲームで何度ため息を吐けばいいのだろうか。きっとこのゲームにはもっとたくさんの理不尽があるのだろう。
だいたい俺は確かに奴のHPがゼロになったことを確認していた。それなのに自爆しやがったのだ。運営の罠にまんまとハマった。死亡したのを確認して油断したところを自爆で殺すとか、本当に悪質すぎる。
運営にお気持ちメールでも送りたいところだが、さすがにやめておく。
「最後に自爆って……あんなの初見じゃ絶対に避けきれないよ……………」
コメント:草
コメント:マジで草
コメント:面白すぎるw
コメントに対して、草じゃねぇよとキレそうになる。こっちはガチのマジで落ち込んでいるというのに。
まぁ、本気で心配されてコメントの空気が悪くなるよりよっぽどいいのだけれど。
仕方ない、ここでうじうじしていても何も始まらないのだ。
俺はもう一度ファイヤーZとの戦闘前のデータをロードする。
これであいつとの試合も通算10回目だ。流石にここらで勝利を収めたい。ゲームオーバーのタイトル画面を見るのはもう嫌だ。
俺は前回と同じように、ユーゴにレールガンを撃つタイミングを指示する。
そして地面が揺れて、合計10回目のファイヤーZの登場シーンになった。
今度こそ貴様をスクラップにしてやる。
毎度のごとく第1形態に移り、俺は無心でレールガンを撃ち込む。ここまで来るともはや体が対ファイヤーZの動きを覚えている。
ダメージ量を調整した上でやつが第二形態に移行する。超スピードの接近と、炎の大玉の攻撃が繰り返される。
ここも油断はできない。炎の大玉は避けることは容易いが、当たると1発KOだ。万が一にもミスがないように気をつける。
超スピードの接近も厄介だ。ミスなく相手にレールガンを叩き込まなければならないため、つねに最高の状態の集中力が求められる。
第3形態の炎球地獄のためにここはノーダメージで突破したいが、やつから少しのダメージを受けることになってしまった。
そして地獄の第3形態が始まる。ここが1番の難所だ。俺はチャレンジ3回目から7回目の全てをここで殺された。軽くトラウマである。
炎球が視界いっぱいに発射される。俺はそれをギリギリで避けていく。
ここはほぼシューティングゲームと変わりない。俺はARもVRもシューティングゲームはプレイしてきたが、オフラインでNPCと戦うタイプではこれが最も難しいかもしれない。
避けるだけでも難しいというのに、レールガンを撃ち込みながら時間の調整までしなければいけないのだ。運営はいったい何を考えているのか。こんなゲロむずステージを序盤に持ってくるなんて、頭がおかしいと思う。
ファイヤーZのHPが残り半分を切る。ここからさらに相手の猛攻が激しくなる。俺はさらに洗練された動きを見せる。
まだ速くなれる。もっと理想の動きをして、相手のシールドを効率的に削れるはずだ。
自分を鼓舞させながらレールガンを撃つ。この第3形態ではコメントを読む余裕もない。ファンの方には申し訳ないが、俺はどうしてもこの戦いに勝利したい。
やつのHPが残り4分の1になった。
ここからがラストスパートだ。俺はさらに気を高めながら、最後のMAX―Zに向けての最終調整に入る。
ここを突破したとしても、必殺技でやられてしまっては意味がない。多少の無理を覚悟で、最後のレールガンを撃つ場所は調整するべきだ。
油断しているつもりはなかったが、ファイヤーZの炎球に当たってしまい、俺は瀕死状態になる。
もう一発攻撃をもらうことはもちろんアウトだが、今ならちょっとした段差から落ちただけで死ねそうだ。
今一度、ユーゴがレールガンを構えている場所を確認する。
俺も瀕死だが、やつのシールドを削り切るのももう少しだ。俺は確認した場所へ徐々に移動する。炎球の弾幕が移動を阻むが、それでもじっくり目的の場所へ近づいている。
あと一発で倒すことができるという時になった時、ユーゴに指示していた場所にたどり着いた。
完璧だ。ここまで来たらあとはもう少しだけだ。
レールガンにエネルギーをチャージする。その間にも炎球は当然のように迫ってくるが、その全てを回避する。
最後の一発をやつに向かって放つ。それは真っ直ぐやつの方へ飛んでいき、シールドを割った。
「第三形態、コンプリート……」
言い知れない達成感を胸に宿すが、まだ試合は終わっていないと気を引き締め直す。
ファイヤーZの両手が天に突き上げられ、さらに赤い炎をまとう。
ユーゴに指定した場所はここであってるか、俺は最後に気休め程度に確認する。
「MAX―Z」
身体全体が金縛りにあう。もうここからは自分から動くことはできない。ファイヤーZが必殺技を撃ち込もうとしてくる、俺はそれをただ見ることしかできない。
この場で動けるのはプレイヤー以外のNPCたちだけだ。
「………やっちゃってください」
ユーゴの狙撃がファイヤーZを狙う。極太のレールガン砲がやつの体とHPを削っていく。
ファイヤーZは抵抗むなしく、そのレールガンに体を焼き切られた。
俺は思わずガッツポーズを決めるが、まだ自爆が終わっていないことを思い出す。
コメント:頑張れ!
コメント:あともうちょっと
コメント:自爆を忘れないで!
やつからここまで来れば充分だろう、というところまで距離を取る。万が一にもダメージは喰らいたくない。念には念を押しすぎるぐらいがちょうどいい。
ファイヤーZの鉄屑となったはずの体が、前回と同じように膨張し始める。自爆の兆候だ。俺はそれを遠くから眺める。
呼吸が荒くなるのを感じる。勝利が目前に迫るという状況ほど、ドーパミンが分泌される時はない。
やっと勝てる。チャレンジ10回目にして俺はついにやつの息の根を止めることができる。
高揚感に包まれてうきうきだった俺だったが、膨張し続けるファイヤーZの近くにランが隠れているのを発見して、血の気が失せるのを感じる。
あ、忘れてた。あそこってランが瓦礫の下に潜んでる場所だったわ。だからユーゴはあそこで決着をつけることに難色を示してたのか、そういうことなら言ってくれればいつだって狙撃の場所ぐらい変えてあげたのに。
「ちょっと待って………!!!」
俺は彼女を助け出そうと走り出す。NPCなんだから無視すればいいのだがなぜか動いてしまった。情が移ってしまったのかもしれない。
しかし俺はあそこから遠すぎる位置にいるため全く間に合わない。
そしてファイヤーZが爆発した――――




